93.新しい装備の運び方を考えました
「さて、そろそろ帰るか。」
魔装銃の使用感も確認できたので今日はそろそろ引き上げるとするか。
素材ではち切れそうなカバンを背負い、銃を肩にかけるようにして階段への道を戻っていく。
一階層でおおよその使用感は確認できたものの、正直味気ない感じが強かったので急遽七階層から六階層に戻って実践に近い戦い方を確認していた。
武庫ダンジョン六階層と言えば鶏と大蝙蝠の組み合わせ、今までは大蝙蝠が天井から降りてくるのを待つか鶏から収奪する雄叫びスキルを使って上から落とすやり方をとっていたけれど、遠距離攻撃の手段を手に入れたことによってその手間を省くことが出来るようになった。
とはいえ安心して戦えるのは一対一の時だけで複数匹で襲ってくる時は素早く棍に持ち替えて接近戦で頑張る必要がある。
それでも先手を取れるのは非常に大きいし、途中でエコースキルを収奪できれば暗くても居場所を確認できるので今までと比べると格段に探索速度が上がったといえるだろう。
問題があるとすればその強さ、棍の場合は自分の腕力や武器の硬さなどで強くなったことを実感できたけれど魔装銃の場合は実力でどうこう出来るものでもないので、いずれはこれでどうにもできなくなる日が来るんだろう。
仮にそのタイミングが来たとしても遠距離攻撃の手段は必要なので、とりあえず今はこれをどう運用していくかしっかり練習していかないと。
「しっかしあれだな、荷物が増えると銃を背負えないし肩にかけるのも結構邪魔だな。」
今日はここまで深く潜るつもりじゃなかったのでカバンは小さめ、にもかかわらずこれだけ持ちにくいということはいつものカバンを使うと銃を持てなくなるんじゃないだろうか。
ドワナロクに行った時も荷物を満載していったわけじゃないし、今後深く潜るとなれば荷物が増えるのは確実なので両立できないのは非常にめんどくさい。
それなら銃を使わないという選択肢もあるけれどこの使い勝手の良さを手放すのは正直惜しくなってきた。
その為にわざわざ痛い思いをしてピアスも開けたんだから使わないともったいないよなぁ。
来た道を引き返し無事に第七階層へ到達、そのまま転送装置で地上へと戻るとボインな職員さんが笑顔で出迎えてくれた。
「おかえりなさい、その様子じゃうまくいったみたいね。」
「お陰様でなかなかいい使い心地でした。」
「女の子二人組はまだ戻ってきてないけど、どうするの?」
「一緒に行動しているわけでもないので今日は帰ります。もし戻ってきたら先に帰っていると伝えてください。」
「オッケー、任せて。」
体を揺らすだけで胸部装甲が三割り増しで揺れるのはなぜだろうか。
素敵な谷間を拝ませていただいてからギルドへと戻り、素材の買取をお願いしてから更衣室へ。
そこまで深く潜っていないとはいえなれない武器で緊張していたのかマッサージチェアーに腰掛けると気付けば眠ってしまっていた。
機械が止まる音で慌てて飛び起き、口元から垂れたよだれを腕でこする。
危ない危ない熟睡するところだった。
着替えを済ませてカウンターへ戻るとちょうど主任が受付になっていた。
「やぁおかえり、ずいぶんゆっくりしたみたいだね。」
「あまりに居心地がよかったもので。」
「あはは、それは喜んでいいのかな?それじゃあこれが査定結果になるけど・・・。」
「肉を半分残して全部買取りで。」
「今日の晩は豪華にウサギ肉のステーキかな?」
「そんなところです。」
ゴールドカードを提示して合計7万4000円也。
今回は卵が手に入らなかったけれどホーンラビットの毛皮がそこそこ高値で売れてくれるのでそれなりの収入になった。
それでも魔装銃の値段には程遠いけれどこの調子ならそこまで時間もかからずに元は取れそうな感じだ。
「それにしても大きい銃を選んだね、魔装銃でももう少し小ぶりなものがあったと思うけど。」
「アサルトライフルのような連射式もあったんですけど、生憎と魔力がそこまで多くないんで諦めました。これなら手の届かないところでも対応できますし、近づいてきたら武器を変えればいいだけなんで。」
「そうやって切り替えられるのが君のいいところだね。川西と御影のダンジョンも順調みたいだけどくれぐれも無理はしないように。」
「ありがとうございます。」
「それじゃあ清算してくるからちょっと待ってて。」
ライセンスカードに買取金を入れてもらえば今日の探索は終了。
一足先に戻って夕食の準備をして待っておこう。
その時だ、別の探索者がギルドに入ってきたので邪魔にならないよう横にズレる。
入ってきたのはまだ若い感じの探索者四人組。
うち一人は運搬人だろうか、小さい体で軽々と大きなカバンを背負っている。
別の職員が手続きを済ませているのだが、終始話続けてなんどもにぎやかな感じだ。
女三人寄れば姦しいとはよく言うけれど男三人でも五月蠅いことに変わりはない。
「おい、着替えてくるからそこで待っとけよ。」
「・・・はい。」
「ったく、どこぞの誰かが魔物を蹴散らしていった所為で全然儲からなかったしこんなことなら運搬人なんて雇うんじゃなかったぜ。」
「全くだ。」
五月蠅いやつらは運搬人を置いてそのまま更衣室へ入っていってしまった。
残された彼・・・いや、彼女は隅の方へ移動し壁によりかかる感じで彼らが戻ってくるのを待つつもりのようだ。
横に置かれたカバンと彼女の背丈はほぼ一緒、運搬人は身体強化系のスキルを使っているとは言うけれどそれでもデカすぎるだろう。
「新明君お待たせ。」
「ありがとうございました。」
「運搬人に興味があるのかい?」
「いやまぁ、いずれは必要かなと思ってはいますけど。中々いい人に巡り合わないというかなんというか。」
「君は秘密主義だからね、それを守れる人じゃないとだめってことかな。」
俺が収奪スキルを持っていることを知っているのは主任ぐらい、おそらく単独走破もそれが関係していると思ってはいるだろうけどあえてそれを聞いてこないのがこの人のいいところだ。
いずれは公表する必要があるだろうけど今はそれをするつもりもない。
主任の言うように俺のスキルを黙っていられるような人となると専属の運搬人ってことになるけれども、本当に黙ってくれるかどうかはその人次第だからなぁ。
最初は桜さんとの探索をメインにお試しで来てもらう・・・あー、でもリルの件もあるからそれもダメなのか?
なかなか難しいところだ。
「まぁそんなところです。」
「君のその武器を考えるといつものカバンは持てないだろうし、いずれは必要になるだろうからゆっくり探すといいよ。」
「もし良さそうな人がいたら教えてくれますか?」
「中々条件は厳しいだろうけど、因みに希望はあるかい?」
「希望ですか?」
「年齢とか性別、分け前についても色々と条件があるからその辺を教えてくれると嬉しいな。」
なるほど、確かにそういうのも必要だな。
個人的には年齢はどうでもいいけど最低限のマナーというか社会人的常識はあってほしいと思う。
性別に関してもまぁどっちでもいいからこの辺は桜さん次第だろう。
分け前は・・・この辺もどのぐらいが普通なのかわからないので色々調べておく必要があるな。
そう考えると色々と決めなければならないことがたくさんあるわけで正直めんどくさくなってきた。
運搬人。
いずれ必要になるとはいえこんなにも頭を悩ませる日が来るとは思いもしなかった。




