90.敵の武器を奪いました
「はぁ、ここも大丈夫っと。」
罠を確認するための長い棒、通称確認棒で床をトントンと叩きながらゆっくりゆっくり進んでいく。
最初にあのシーンを見ていなければさほど気にせず進んだだろうけど、あのデカい鎧が落とし罠に落ちていくのを見てしまってはそうしないわけにもいかないわけで。
今の所床を叩いての反応は無し、もしかすると壁に当たった時に何か反応した可能性もあるけれどそうじゃない可能性もあるので今はゆっくり進むしかない。
幸いリビングメイルが歩く音はよく響くので近づいてくるのが分かるのが救いだな。
「クゥン。」
「大丈夫だってそんなに疲れてないから。」
横を歩くリルが心配そうに体を摺り寄せてくるので頭を撫でておく。
この殺伐としたダンジョン内で唯一の癒し、モフモフは正義モフモフは最高だ。
しばらくモフモフさせてもらってメンタルを休息チャージしてから再び通路を進んでいく。
と、さっき撫でられたことでテンションが上がったのかリルが勢いよく走りだしてしまった。
「リル待て!その先はまだ確認してな・・・。」
そう叫んだ時にはもう遅く、飛び出したリルの足元が突然バタン!という音ともに左右に開いた。
さっきまで何もなかったのになんで急に罠があるんだよ!
慌てて駆け寄ろうとするも穴の上にリルの姿はない。
突然空いた穴になすすべもなく落下・・・するはずもなく、ひらりとそれを飛び越えて何食わぬ顔でこちらを見つめていた。
あ、いや、まぁ、そんな余裕に避けられるものなのか。
そうかそうかそりゃアレだけ素早く動き回れるんだから、足元に落とし穴が出来たぐらいじゃ問題ないよな・・・はぁ、マジで心臓に悪い。
何事もなかったかのように戻ってくるリルを撫でつつ、ここから先はリルに先頭を歩いてもらって罠確認そしてもらおう。
そんな感じで進むこと1時間ほど、何度か戦闘をこなしそろそろ中盤戦という感じだろうか。
【リビングメイル(剣)のスキルを収奪しました。バッシュ、ストック上限は後二回です。】
【リビングメイル(弓)のスキルを収奪しました。強撃、ストック上限は後二回です。】
収奪したスキルはこの二つ、残念ながら二つとも棍を持ったままでは発動しなかったので剣や弓を持っていないと使えないスキルなんだろう。
バッシュは剣士がよく使うやつだし強撃もまた然り、言い換えればそれに該当する武器を持っていれば発動したってことだろうけど生憎そんなものは持っていないわけで。
護衛用にショートソードぐらいは帯刀したほうがいいのかもしれないけれど桜さんと装備がかぶるからなぁ。
武器は父親から提供してもらったやつだって言ってたし、さすがにそれを俺が使うのも変な話だ。
となると残るは弓だが・・・あれこそ練習しないとどうにもならないものなので一番縁がないスキルと言える。
ボムフラワーみたいに投擲とかだったら汎用性があっただけに残念だけど、専門性が高い方が効果は強いだろうしそこは致し方ないか。
「ん?」
罠を軽々避けながら進んでいたリルが突然ピタリと立ち止まり、必死に耳を動かしている。
リビングメイルが近づいてくる音はしない、だけど明らかにリルの反応が違う。
とりあえず気を付けながら先へ進むと、途中でL字に曲がった通路を発見。
確認棒を使いながら魔物がいないのをチェックしつつ恐る恐る顔を出すと、先は小部屋になっておりあろうことか複数のリビングメイルが群れを成していた。
通路型ダンジョンのネックはまさにこれ、フィールド型だと迂回して対処することも出来るけれど、この場合は否が応でもここを通過しなければならない。
ぱっと見だけでも剣持ちが三体、ってことは弓持ちも三体は控えているはずだ。
こんな狭い場所で複数の弓持ちに狙われたんじゃさすがのリルでも回避できないだろう。
かといってこのままここに居たところでどうにもならないわけで。
「さて、どうするか。」
出来ることと言ったらおびき出してからの各個撃破、とはいえそれが出来そうなのは剣持ちだけで弓はあそこから動く気配はなさそうだ。
それでも乱戦になることを考えたら少しでも数を減らすのが定石、とりあえず小部屋に近づき確認棒で壁を叩くなどしてまずは一体目の剣持ちをおびき出すことに成功した。
L字角まで下がって曲がってきた所を強襲、振り下ろした棍が右肩の関節に突き刺ささってしまい慌てて左右に振るといともたやすく剣を持った右手が関節ごと落下した。
これ、もしかして使えるんじゃないか?
リルが体当たりをして引き離してくれたので右手を踏みつけながら持っていた剣を引っぺがすと、所々欠けてはいるけれどリビングアーマーの使っていた剣を手に入れることができた。
これならスキルも使えるんじゃないだろうか。
立ち上がった奴が武器を返せと近づいてくるタイミングに合わせて剣を振り上げ収奪したスキルを心で叫ぶ。
【リビングメイル(剣)のスキルを使用しました。ストックは後二回です。】
脳内でアナウンスが流れるのと同時に振り上げられた手にものすごい力が沸き上がり、振り下ろした手がリビングアーマーを脳天からまっすぐに切り裂いてしまった。
鉄の鎧が左右に分かれ俺を避けるように床に倒れる。
そのまま吸い込まれるようにして体が消えると手に持っていた剣も一緒にどこかへ行ってしまった。
折角手に入れた武器なのにと思いながらも、敵から奪えばスキルを使えるとわかっただけでも十分な収穫だろう。
残ったバッシュは後二回分、そして残った剣持ちも二体。
とりあえずこいつは何とかなるとして、残った弓持ちをどうするかだ。
せめて一体でも注意を逸らせたら残りをオレとリルで接近して仕留めることも出来るはず、問題はここに注意をひくような石とかそういうのが無いってところなんだよなぁ。
あるとしたらリビングアーマーが落とした鉄の塊ぐらいだが、あまりにも重すぎて流石にこれは投げられない。
もっと軽くて投げやすそうなものは何かないか。
「いや、無かったら作ればいいのか。」
無いからとあきらめるのではなくないものは作ればいい、とりあえず一体は先のやり方で処理したのち残り一体の体を先程同様関節に棍を差し込んでバラバラに分解。
関節を外すと動かなくなる理由は分からないけれど、とりあえず折角手に入れたパーツを手に小部屋まで戻ると手当たり次第に部屋へと投げ込んだ。
ガシャンガシャンとそこら中にパーツが転がり、それに反応した弓持ちがよそ見をした瞬間にリルと共に部屋へと突入。
まずは左端の一体に近づいてバッシュを打ち込むも踏み込みが甘かったのか真っ二つにすることが出来ず袈裟懸けに切り裂いただけになってしまった。
仕留めそこなったのは仕方がないのでそいつを足で蹴り飛ばし床に転がった弓を手に狙いを定める。
【リビングメイル(弓)のスキルを使用しました。ストックは後二回です。】
リルが相手をしているのとは別の残りの一体、そいつが今にもリルを狙い撃ちしそうになっていた。
途中で矢が無いことに気づきながらもとりあえずスキルを発動、するとスノーマンティスのスキルのように見えない何かが発射されるのがわかる。
吹き飛ぶ兜、だが核となる部分をつぶさないとまだ動けてしまうので弓を投げ捨て体勢を戻す前に自前の武器で関節をへし折りバラバラに解体していく。
「はぁ、何とかなった。」
部屋中に散らばるリビングアーマーのパーツたち。
核をつぶしていないのでまたくっつこうとしているのかブルブル震えているけれど、とりあえず今は大丈夫そうだ。
リルの方も無事に仕留め終わったのか遠吠えで合図をくれる。
最初はどうなることかと思ったけれどとりあえず該当の武器を使えばスキルが使えるのは確定。
なんなら矢が無くても何かを打ち出せる当たり判定がザルすぎる気はするけれどこちらとしてはありがたい限りだ。
なんせ一度も弓なんて使ったことないのにヘッドショットだもんなぁ、優秀過ぎるにもほどがある。
後は残った奴の核を探してつぶせば討伐完了、残念ながら武器のドロップはなかったけれど大量の鉄インゴットを回収することができた。
ぶっちゃけ重いけどそこそこの値段で売れるし、ここを過ぎれば地上なのでもう少しだけ頑張ろう。
「リル、行けるか?」
「わふ!」
地上に戻るまでがダンジョン探索、再びリルに罠を探ってもらいながら六階層を無事に走破したのだった。




