84.ダンジョン内で共闘しました
なんとか巨大イノシシの討伐に成功した俺達だったが、急に襲ってきたレベルアップ酔いに二人同時に苦しんでいた。
「はぁ、きつかった。」
「階層主でよかったですね、これがフィールドだったら大変なことになっていました。」
「それだけ強い魔物だったってことだろうね、まさかあのタイミングで凶暴化するとは思わなかった。大抵はC級ダンジョンの階層主からって聞いてたからこの先はもっと気を付けないと。」
「あの時リルちゃんのブレスが少しでも遅かったら大変なことになっていました。」
どうやら収奪スキルを使ったのは巨大イノシシの死角になって桜さんからは見えなかったらしい。
それはそれで好都合、とはいえ今のでスキルをほぼほぼ使い切ってしまったのでまたタイミングを見て収奪していかないとなぁ。
【ファットボアのスキルを収奪しました。ロケット、ストック上限はあと四回です。】
今回収奪したのはなんともロマンあふれる名前のスキル、おそらく突進の上位互換だと思うけれどそれを確認するのはちょっと危険そうだ。
突進が5mだったからこれが10m進むとは限らないし、いきなり100mも進もうものなら大騒ぎになってしまう。
それでもさっきみたいに命の危険を感じるようなら躊躇なく使うつもりでいるけれど。
「ドロップ品は・・・毛皮と牙か。お肉が無くて残念だったな。」
「わふぅ。」
「スーパーで売ってるのはワイルドボアですし、種類によってお肉を落とす落とさないがあるのかもしれません。」
「ということだ。次の階層は確かフォレストエイプとロックビートルが出るはずだから肉はお預けだな。」
猿と虫、D級ダンジョンも階層を超えると魔物の数が増えていくので次の十階層を超えるともれなく三種類の魔物が襲ってくるようになる。
今のところは何とかなっているけれど、正直なところもっと基礎的な部分でレベルアップを図らないといけないかもしれない。
対人戦は桜さんに稽古してもらう事である程度カバーできるとしても、やはり魔物相手の泥臭い戦い方になるともっと実地でやっていかないとなぁ。
軽く休憩をしてからいよいよ魔物の増える六階層へ。
階段を抜けるとそこは・・・ジャングルでした。
「うわ、蒸しあつ!」
「肌に空気が張り付いてくるみたいです。」
「これはヤバいな。」
「ヤバすぎます。」
さっきまでの快適さはどこへやら、突然不快指数が120%ぐらいに跳ね上がりあまりの暑さにリルが引っ込んでしまった。
あの毛皮じゃ流石に暑すぎるよなぁ。
確か犬科は汗をかけないから体温調整しようにも息を吐いて呼気で冷やすしかなかったはず、彼女には酷というものだ。
それでも危険を感じたら出てきてもらわないといけないのでそこは諦めてもらわないと。
「同じ森でもこんなに風景が違うんだね。」
「さっきはまだ歩きやすかったですけど、草の種類も違いますし匂いもなんだか独特な感じです。」
「あの花なんて完全に南国、持ち帰ったら売れるかな。」
流石緑のダンジョンといわれるだけあって植生は豊富、草原にも森林にもさまざまな植物が自生していた。
森ではキノコや木の実を採取できたけれど、ここではもしかするとフルーツとかが手に入ったりして。
「とりあえず進むしかないか、フォレストエイプもロックビートルも頭上を移動するから基本は上を警戒しながらで。」
「了解です。」
早くも汗がにじみ出てきて服に張り付いて気持ちが悪い、さっさと下への階段を見つけて地上に戻りたくなってきた。
巨大な裸子植物やシダ植物が生い茂る熱帯雨林の中をただ進むだけなのに、今まで以上に体力が奪われていくのが分かる。
滝のように汗が吹き出し鎧の下はびしょびしょ、さすがの桜さんもだんだんと元気がなくなってきているようだ。
「休憩する?」
「まだ、大丈夫です。」
「そういわないで休憩しようよ、俺が休憩したいからさ。」
「そういうことなら・・・。」
相変わらず我慢強い桜さんだが下手に無理して戦闘中にへばるぐらいなら今休んでもらう方がいい。
ちょうどいいところに大きな倒木があったので、そこに荷物を下ろし簡易の調理道具を並べてお茶の準備をする。
こういう時だからこそしっかり休んでメンタルを回復させておかないとな。
本来ダンジョンの真ん中で匂いの出るものはご法度とされているけれど、猿と虫相手なら多少は大丈夫だろう。
「どうぞ。」
「ありがとうございます。」
探索用に開発された道具はいかに効率よく使えるかが工夫されており、とくにドワナロク製の商品はかゆいところまで手が届くとのことで探索者には非常に好評。
今回のコンロも一点に火力を集中させることで湯沸かしを早くしつつヤカンもそれ専用に開発されているので傷みも少なく効率よく使うことができる。
まぁティーバッグなんかは市販のものだけど、蒸し暑い環境なのでさっぱりとしたシトラス系のフルーツティーをチョイスしてみた。
「はぁ、美味しいです。」
「暑い時こそ熱い物を飲む、果物もどうぞ。」
「わ!レモンのはちみつ漬けですか?」
「疲労回復にいいって書いてあったから作ってみたんだけど、我ながらいい感じにできたと思うよ。」
「んー!甘酸っぱくて美味しいです!」
酸味で口元をすぼめながらも心なしか目に光が戻ってきた気がする。
短い休憩ではあるけれど少しはリフレッシュできただろうか。
「ん?」
「なんでしょう、何かが近づいてくる感じです。」
そろそろ出発しようかと準備をしていた時だった、遠くの方からガサガサという音が聞こえて来たと思ったらその音はどんどんとこちらに近づいてくる。
魔物っぽい感じだけどそれは頭上ではなく正面から感じるので猿ではない。
じゃあなんだ?
荷物を強引に詰め込み二人で武器を構えて周囲を警戒。
だんだんと近づいてくる音、そして聞こえてくるのは人の声。
「わっ!」
「え、人!?」
「しまった、広場に出た。」
「これ以上逃げるのは無理だ、ここで戦おう!」
茂みの向こうから飛び出してきたのは猿ではなく人、まだ若い探索者四人組が頭や服に葉っぱをくっつけながら広場になったこの場所へと集まってくる。
それと同時にこんどこそ頭上を何かが飛び回るのが見えた。
「なんですか!?」
「ごめんなさいフォレストエイプに追われてるんです!」
「擦り付けようとかそんなんじゃないので許してください!」
「わざとじゃないんです!」
どうやら説明を受けている時間もないみたいだ。
キキキキとかキャーキャーとかいう奇声がそこら中に響き渡り、上からたくさんの葉っぱが落ちてくる。
その数軽く10頭を超えまだまだ増えてきそうな感じだ。
「今は詫びるより周りを見ろ、来るぞ!」
「桜さん乱戦になるからくれぐれも気を付けて。」
「和人さんもですよ、絶対に無理しないでくださいね。」
ぽっかりとあいた空間のせいで上から俺達の居場所は丸見え、この狭い空間で六人もの探索者が武器を手にその時を待っている。
突然始まった共闘、果たして無事に先に進むことはできるのだろうか。




