74.バカンスは終了しました
「楽しかった~!」
須磨ダンジョンも無事に走破し終え探索者ギルドに報告した俺達は桜さんの要望通りホテルにもう一泊することにした。
水場はもうこりごりなので海に入ることはしなかったけど、温泉や岩盤浴を堪能して心と体の疲れをしっかりと取り除いていく。
ギルドから聞いた話ではやはり例のサンゴでメンタルをやられる人が多く、五階層まで行く人はほとんどいないんだとか。
そりゃぁあんなのに襲われて先に進みたいと思うのは俺達みたいな実績が欲しい人か、もしくは逃げ出したい人かのどちらかだろう。
でもその先に待っているのがあの触手、干潮と満潮をどうやって避けるかも大変だしそう思うと決して簡単なダンジョンではなかったといえるのかもしれない。
でも、また来たいかと聞かれると答えはもちろんYESだ。
「確かにいいリフレッシュにはなったかな。」
「また探索につかれたときはここに来ましょうね。」
「そんなに利用して本当に大丈夫?さっき調べたらあの部屋かなりの値段だったけど。」
「大丈夫ですって、和人さんはゴールドカード持ちですしあれを持っている人は保養所としても利用できるって決まりなんですから。ルームサービス分は父に請求が行きますし、問題ありません。」
「いや問題大有りだと思うんだけど!?」
今回なんて海に行かない代わりにガンガンルームサービスを使ったのでおそらくものすごい金額が請求されると思うんだけど・・・、あとで怒られたりしないだろうか。
今回は素材の方でもそれなりに稼ぎが出たので自分で支払えるぐらいに懐は温かいんだけどなぁ。
走破報酬に諸々の素材を売り払うと、なんとドワナロクで使ったのと同じぐらい稼ぐことができた。
もちろん裏技を使ったからってのもあるんだけどこの難易度でこの稼ぎ、実は篠山ダンジョンよりも儲かるんじゃないだろうか。
「怒られたら支払うから。」
「稼いでいるから大丈夫ですよ。でもまさかあんなに魔真珠が入っているとは思いませんでした。」
「職員さんもびっくりしてたね。ギルドも狩る人が少なくて魔力が凝縮されたんじゃないかって話だったから、アレだけ回収したし暫くは見つからないかも。」
「そう考えるとラッキーでしたね!」
まさか凝縮スキルで量産したとは言えなかったけど、今後もお金が必要になったらこのやり方で稼げるなとか悪いことを考えてしまうぐらいには儲かった。
あとはあのサンゴが想像以上の高値で売れたのもびっくりだ。
おそらくというか間違いなく倒す人が少ないからだろうけど、天然物と遜色ない値段で取引されるのならもう少し倒す人が増えてもいいと思うけどなぁ。
とはいえあいつを倒すために四階層に行くのは気が引けるので稼ぐとしたら魔真珠一択だけど。
「忘れ物はない?」
「大丈夫です!」
「それじゃあ戻ろうか。」
「はい!」
バカンスはこれにて終了。
常夏のダンジョンを出ると温かいはずの外が少し寒く感じてしまい例のウィンドブレーカーをしっかり着込んで家路についた。
諸々の荷物はホテルが送ってくれるのでほぼ手ぶら、ほんと至れり尽くせりだなぁ。
「それじゃあ明日からの動きについて決めようか。とりあえず二人共E級ダンジョンを二つ走破したことで無条件でD級への挑戦が出来るようになったし、複数PTを組めばC級にも挑戦できる。ただしその場合はリルを呼び出せないから、それをするにはもう少し実績が必要かな。」
「リルちゃんと一緒じゃないと嫌なのでC級ダンジョンは無しで!」
「決めるの早い。」
「だってモフモフできないじゃないですか。ねー、リルちゃん。」
「わふぅ。」
桜さんがリルのおなか部分に顔から突っ込んでそのままグリグリと頭を動かしている。
流石のリルも若干嫌そうな顔はしたけれどそこは大人?なので静かに受け入れているようだ。
「となるとD級をいくつか回ることになるけど、近場で言えば川に・・・。」
「却下です!」
「アンデッドはダメか。」
「絶対にダメです、無しです、どうしても行きたいのならリルちゃんを置いて和人さんだけで行ってください!」
この前の一件で懲りたのか断固として受け入れてくれなさそうだ。
まぁ、D級になるとそこそこ数はあるので遠征がてら順番に探索していくっていう手もある。
そこで役立つのが例のゴールドカード、大抵のホテルが無料もしくは格安で宿泊できるらしいのでそこを拠点に探索すれば遠方でも宿泊費を気にしなくて済む。
恐るべし大道寺グループ、大抵の探索者用ホテルに息がかかっているらしいから例え予約でいっぱいだったとしても何とかなったりするらしい。
それを当たり前のように思ってはいけないけれど、使えるものはどんどん使っていかないとな。
「となると近場でいけば加古川ダンジョンもしくは御影ダンジョンか、ちょっと遠いけど城崎ダンジョンって手もあるね。」
「あそこは確か火山系のダンジョンでしたよね。」
「十階層を超えると火山帯になるけど、それ以外は暑いだけでそっち系の魔物が出るぐらい・・・って資料には書いてある。玄武洞が入り口になっていて十階層までは通路型のダンジョンみたいだ。」
「D級からは十五階層もありますから走破には時間がかかりそうです。」
E級は十階層、D級は十五階層まであり罠なんかも増えるので探索にはかなり時間がかかる。
それでも複数PTじゃなくても走破できる難易度なのでひとまず狙うのならここまでだろう。
C級以上はよほどの実力がないと難しくなるうえにB級に上がるにはそのダンジョンを単独PTで走破しなければならないという制約もあってここで止まる探索者が後を絶たない。
ここまで来ると収入もそこそこ安定してくるのでそれ以上を求めないという人も多いのかもしれないけれど、夢のタワマン生活を目指すにはB級以上は必須、それを達成するためにもまずはD級を確実に超えていかなければ。
「別に一回で最後まで行く必要はないし、最速記録とかも狙わないから確実に先に進めればそれで十分。あ、ちなみにカニが美味しいらしいよ。」
「じゃあそこで!」
「カニで選んだ?」
「なんのことかわかりません。」
まったく食い意地が張っているというかなんというか、別にそれが悪いとは言わないけどもう少しダンジョンの特性とかそういうので考えたいところだ。
火山系のダンジョンともなると既存の装備では相性が悪いのですべて買い換えないといけなくなるし、そうなるとかなりのお金がかかる。
金策という意味で魔真珠を狙う手もあるけどあまりやりすぎると目を付けられそうなのでもっと確実な方法で稼がないと。
「とりあえず城崎ダンジョンを最終目標にしつつ、装備を整えるために近場のダンジョンでお金を稼ぐのはどうかな。そうなると御影ダンジョンか加古川か・・・でも個人的には加古川はちょっとなぁ。」
「例の件ですね。」
「そうなんだよ。遺恨はないって主任は言ってたけど時間もそんなに経ってないしね。」
「でしたら御影にしましょう。確か植物系のフィールドですから和人さんの火水晶が効果的ですし。」
「収入だけなら川西ダンジョンも・・・。」
「お一人でどうぞ!」
しかたない、収奪スキルを使うときは川西ダンジョンにして三人で潜るときは御影ダンジョンにしよう。
C級ともなると隠していられないだろうけど、今はまだこれで行くしかない。
これも高ランク探索者に目をつけられて余計なことをされないため、桜さんの弱点看破も含めてリルもそうだし色々と守らなければならないものがたくさんある。
その為にも実績作りは必須、とりあえず次の目標も決まったことだし色々と準備していきますかね。




