57.調査結果を確認しました
桜さんの強い希望で川西ダンジョンへの再挑戦は見送られることになった。
まぁわざわざ潜らなければいけない場所でもないしお目当ての物は手に入ったので良しとしよう。
「・・・綺麗。」
「また見てるの?」
「だって青くてキラキラなんですよ。」
「静寂の指輪だっけ?」
「心を落ち着かせて常に冷静な判断が出来るようになるそうです。戦闘中って結構慌てたりしちゃうんで、これがあればまた強くなっちゃいますよ!」
川西ダンジョン一番の収穫はこのアクセサリー。
価格にして50万円を超えるそうだが、もちろん売らずに桜さんが使用することになった。
最前線で敵の攻撃を受けることになる桜さんにとって冷静さは必要不可欠、そこに弱点看破のスキルが加われば常に相手の弱点を攻撃できる強みが生まれる。
これだけ聞けば敵なしのように感じるけれど経験であったり体力面であったりとまだまだな部分はあるらしく、本人の向上心が尽きる様子はなさそうだ。
「今日はどうしますか?」
「んー、篠山ダンジョンの調査が進んでいるらしいから様子を見に行って長引くようなら走破を断ろうかと思ってて。このためだけにレベルを上げないってのも変な話だし次を狙うならD級ダンジョンでもいいわけだしね。単独にこだわらなければ桜さんとも一緒に行けるけど色々問題もあるからなぁ。」
「荷物問題ですよね。」
「素材の持ち帰りもそうだけど上位ダンジョンになればなるほど必要なものが増えてくるし、それをもって歩くとなると進行速度が大きく下がる。戦いの邪魔にもなるし、奇襲されたときの対処とか考えると中々。」
収奪スキルのおかげで何でもできるような気になっているけれどまだまだ新人、知識的な部分でも経験的な部分でも他の探索者から劣っているといってもいい。
それに、そこまで苦も無くダンジョンを駆け抜けているのもリルという強い味方がいるおかげだ。
見た目は小さいけれどさすがSランクというポテンシャルを持っているし、意思疎通もできるから補助要員的な感じで罠の解除や索敵までお願いできるのがありがたい。
それに頼るなというわけじゃないけど、自分自身の実力を上げていかないといずれ大変なことになるという不安があるだけに早くレベルを上げて地力を上げていきたいんだよなぁ。
そんなわけで今日は別行動、桜さんには探索道具の補充や装備のメンテナンスをお願いしつつ電車に乗って篠山ダンジョンへ。
ダンジョンが閉鎖されていることもありいつもよりも探索者の数は少ないようだ。
「あ、新明さんちょうどよかった!」
「ん?」
「今ちょうど調査が終わったんです、これから報告会がありますけど参加しますか?」
「え、部外者なのにいいんですか?」
「他の方も参加していますしギルド長にもお声をかけるように言われていますから。」
状況を聞きにギルドへ向かうとちょうど調査が終わった所らしくそのまま大きな会議室へ移動した。
中には複数の探索者と多数の職員が着席している。
とりあえず案内されるがまま一番後ろの席に陣取ると、探索帰り!といった感じの探索者の中にあのメガネさんがいるのに気が付いた。
「それでは篠山ダンジョン緊急調査報告会を開始します。まずは調査隊隊長東宮よりご報告いたします、東宮ギルド長よろしくお願いします。」
「東宮です。今回はとある探索者様より報告を受けダンジョン内の環境調査を行いました。調査の結果、ダンジョン内六階層以降の環境激変を確認、内容としましては気温の極端な低下・探索環境の劣悪化の二点が確認されました。現時点では五階層以上に同様の変化は見られませんが今後波及する可能性も高く、正直なところ調査隊も九階層で探索を断念しています。以上のことから当ダンジョンには氾濫の可能性があると判断します。」
氾濫。
その単語を聞いた瞬間に参加していた探索者達から動揺の声が上がる。
確かダンジョン内のバランスが崩れて魔物が外にあふれる現象で、ダンジョンが地上に現れた頃はその対処方法がわからず頻発していたそうだけど走破されるのが当たり前になった最近ではよっぽどの上位ダンジョンもしくは未発見ダンジョン以外では起きないとされているはず。
簡単にいえばエネルギーがたまりすぎて外にあふれた状態、それが始まるとエネルギー供給がストップするので後は空っぽになるまで使い続ければ氾濫は収まるっていうのがこの間受けた研修で教えてもらった内容だ。
口で言うのは簡単だけど空っぽになるまでがなかなか大変で、かなりの量の魔物が外に出てくるので辺り一帯は避難区域に指定されたりと中々の騒ぎになるはず。
幸いここはE級ダンジョンなのでそこまで強い魔物が出てくるわけじゃないけれど、それでも数が出てくると相手をするにもかなりの人数が必要になる。
それよりも問題なのは実力のある探索者ですら九階層を抜けられなかったって事だろ。
準備をして行ったにもかかわらず引き返したってことはかなりの寒さだってことだ、そうなってしまうと誰にも対処できないので結果的にわざと氾濫を起こすしかないんだろうなぁ。
その後の質疑応答で具体的な状況が公表され、やはり気温低下が顕著だったため引き返したとのことだった。
幸い魔物が凶暴化したとか数が増えているとかそういうわけではなくむしろ魔物の数は少なかったらしい。
まぁ数が少なくても環境が悪ければどうにもならないわけで、これは単独走破記録はあきらめた方がよさそうだなぁ。
「やぁ、新明君。」
「東宮ギルド長、こんにちは。」
「先日は迷惑をかけて悪かったね、順調に探索を続けてくれているとは聞いていたけどまさかこんな事になるとは思わなくて。こういう状況だし単独走破記録はあきらめてくれて構わないよ。」
報告会終了後、疲れているにもかかわらずメガネさんこと東宮ギルド長が挨拶に来てくれた。
先日の件はもう終わった話なので何とも思っていないが、その後も色々とフォローをしてくれていただけに可能ならば走破したかったところだけど残念だ。
「わかりました。でも、このご時世に氾濫が起きるなんてことあるんですね。」
「前々から六階層以降に冒険者が降りないことが問題視されていたけれど、まさかこんなことになるとは・・・。これも僕の管理不足なんだろうけど、はぁ頭が痛いよ。」
「お疲れ様です。それで、他の階層はどうするんですか?」
「今の所問題はないし、探索して魔物を減らしてもらった方が氾濫時に対応する数が減るから状況を見ながらしばらくは解放するつもりだよ。もしよかったらそっちの手伝いに入ってもらえると助かるかな。」
なるほど、氾濫するのは確定としてそれまでに数を減らしておけば対処する方も楽って事か。
そういう時は別途報酬が出るっていう話だし手伝ってもいいかもしれない。
まぁ収奪スキルが使えないっていう問題はあるけれど、あそこの魔物なら無しでも対処できるだろう。
寒さが無ければそこまで苦戦するような相手でもないし乱戦を経験するいい機会かもしれない。
「もちろんです、その時は宜しくお願いします。」
「本当は誰かが走破して階層主を倒してくれたら氾濫も防げるんだけど、流石にあの環境で動き回るのは物理的に無理だろうなぁ。よっぽど寒さに強いかそれ専用のスキルがないと難しそうだ。」
「そんなに寒かったんですね。」
「ここの管理者として何度も潜っているけどあそこまでの寒さは初めてだったよ。」
なるほど、氾濫は階層主を倒すとなかったことになるのか。
七階層ぐらいの寒さが続くのならば保温スキルがあればなんとかなるような気もするけど、そこを通り過ぎて断念するぐらいなんだからもっと寒くなってるんだろう。
でもなぁ下手に走破して目立つのもアレだし・・・ちょっと考えてみるか。




