54.残ったものを回収しました
「あー、もう!絡んでくるな!」
足元に絡んでくる首無しリビングデッドを蹴飛ばしてからバックステップで距離をあけて棍を構える。
今見えているだけで7体を超えるリビングデッドがいるけれど、どれも首がなかったり腕がなかったりと完全体でない分若干動きが遅くなっている。
それでも何度か囲まれて何箇所か引っ掻かれて血が滲んでしまっていた。
ゲームや漫画ならここから感染して奴らの仲間入りと言われるけれど、ありがたいことにその程度では特に問題はないんだとか。
もっともガッツリ噛まれて殺されるとお仲間入りらしいので注意が必要、それこそあそこでだらんと腕を垂らす彼みたいになりたくないのなら生きて地上に戻らなければ。
「これ以上はやばいな、あとは任せて大丈夫か?」
「ワフ!」
「大丈夫ですか!?」
「とりあえず戦力は削いだからあとはよろしく!」
「リルちゃんいくよ!」
本当は俺だけで奴らを一掃することもできたのだが、倒してしまうとレベルが上がってしまう可能性があるだけにダメージを与えることしかできないんだよなぁ。
篠山ダンジョンさえ走破できれば何も気にせず薙ぎ倒せるんだけど、でもまぁ桜さんとリルの経験値になるのなら致し方ない。
あくまでも運搬人として参加しているので極力手を出さないようにしないと。
そんなこんなでなんとかリビングデッドを全て駆逐することに成功、地面には爪やら布の他、キラキラ光るものが落ちているのも見える。
「和人さんアクセサリーですよ!」
「やったな!」
「効果次第ではあまり高くない可能性もありますけど、それでも10万円ぐらいはするはずです。」
一つ10万と考えるとかなりの額だが、それを手に入れるためになかなかスリリングな状況を経験しただけに、コスパの面ではなんとも言いづらい。
ドロップ分から逆算して一気に11体のリビングデッドが踊り出てきたことになる。
うち一体は奴らに殺されてお仲間になってしまった探索者、そういやあいつが使ってた装備とかってどこに行ったんだろうか。
殺されたばかりなら残っていてもおかしくないのに落ちていたのはアクセサリーぐらいなもの。
「ん?なんだそれ。」
魔物を一掃した後、素材を拾っていたらリルが何かを咥えて戻ってきた。
牙の隙間から見えるのは板状の物、手を差し出すと手のひらに涎まみれにそれがポトリと落ちてきた。
「ライセンスカードでしょうか。」
「ってことはさっき餌食になってたやつの物だな。流れで倒してしまったけど、魔物化したら他のやつと同じように消えるのか。」
「なんだか寂しいですね。」
あの群れ具合から察するにリビングデッドから逃げて部屋に飛び込んだものの部屋にいたやつに捕まり食い殺されたってな感じだろう。
他の魔物なら遺体が残されるものだが仲間入りするとそう言うわけにはいかないんだろうなぁ。
生きた証として残ったのはこのライセンスだけ、これを地上に持ち帰るのもまた俺たちの役目だ。
「こうならないように引き続き気をつけないとな。」
「気をつけます・・・って和人さん腕が!」
「ん?腕?」
目をまんまるに見開いた桜さんが大慌てで俺の腕を掴み、袖を肩口まで思い切り引っ張り上げる。
そこではじめて二の腕から血が垂れているのに気がついた。
知らない間にあの鋭い爪で抉られていたんだろう、いい感じに肉が見えているのに不思議と痛みを感じなかった。
そりゃそうだ、さっき痛覚耐性スキルを使ったから間違いなくそのせいだろう。
うーむ、まさかこんなに深い傷にも気づかないなんて、そりゃ首がなくても動き回れるよなぁ。
「今止血します!えっと、消毒液と包帯と、止血剤!」
突然のことに動揺を隠せない桜さん、カバンをひっくり返して必要なものを取りだしたものの今度はどうやったらいいのかわからなくなってしまったようだ。
応急処置は新人研修で一番最初に教わる内容、自分の命は自分でしか守れないため時間をかけて行われた内容だが気が動転するとそういうことも忘れてしまうんだよなぁ。
「まずは聖水と止血剤を、それから消毒液とガーゼをもらえる?」
「どうぞ!」
相手がアンデッドだけにまずは聖水で患部を洗い流してから傷口にスポンジスライムの核で作られた止血剤を押し込み、上からガーゼを当てて包帯で固定。
スポンジと名がつくだけあって吸収能力は絶大、あまりにも大きい塊を入れると体内の血液を全部吸われてしまうなんていううわさ話が出るぐらいの効果なので止血剤に入れられているのはごく少量だ。
それでもしっかりと血液を吸収しつつ膨らんで傷口を埋めてくれるためあとは自然に血が固まるのを待てばいい。
しかし足元に小さな血だまりができるぐらいに出血していたのだが、全く気付かなかったなぁ。
今は耐性がついているからいいものの効果が切れるとかなりの痛みが来るだろうから地上に戻ったら回復魔法でしっかり治癒してもらわないと。
その為にもあといくつか耐性スキルは確保しておきたいところだ。
「もう大丈夫。」
「ほんとうですか?あんなに血が出ていたのに。」
「昔から痛みには強いからね。あとは桜さんの美味しいごはんを食べて血を増やせば問題ないよ。」
「ならいいんですけど。」
明らかに異常な状態ではあるけど、それを信じることしかできないので無理やり自分を納得させたって感じだろう。
収奪スキルにつて教えれば話は早いけれども今はまだその時じゃない。
桜さんを信じていないわけじゃないけれどもう少しだけ秘密にしておきたいんだよなぁ。
そんなわけで耐性スキルなら特にばれる心配もないかと思って使たけど、まさかこんな落とし穴があるとは思ってもいなかった。
こんなことなら少しでも痛がってたらと後悔したところで時間を戻せるわけではないので別のことで気をそらすしかないか。
「そういえば拾ったアクセサリーはどんな奴だったのかな。」
「あ、これです。」
ポケットから出て来たのは銀色の指輪、その真ん中に青い小さな石がはめ込まれている。
鑑定スキルが無いので効果のほどは分からないけれど見ているだけで不思議と心が落ち着いてくるような感じがする。
「ブレスレットは貰ったしそれは桜さんに使ってもらおうか。」
「え、いいんですか!?」
「どんな効果かはわからないけど、売るぐらいなら使った方が強くなれるしね。でも欲を言えばもう一つぐらい出てほしいから階段を見つけるまでは引き続き見つけたやつを全部倒していく感じでいこう。」
「わかりました!でも和人さんは無茶しないでくださいね。」
「今回の本業は運搬だから出来る限り大人しくしておくよ。でもさっきみたいなことがあったら前に出るから。」
「ダメです、もしそうだったとしてもリルちゃんと二人で何とかします。ね、リルちゃん!」
「ウォン!」
なんとも頼もしい限りだが命を危険にさらすぐらいなら記録など微々たる問題にすぎない。
気合十分の一人と一匹により二階層のリビングデッドは発見次第蹂躙され続け、無事に三階層への階段を発見することができた。
残念ながらアクセサリーはドロップしなかったものの、桜さんのレベルは順調に上がり早くも俺に並ぶぐらいになっている。
「ここにきてもう3つもレベルが上がってます、すごい。」
「それだけD級ダンジョンの敵が強いってことなんだけど、まぁ余裕だったな。」
「でもこの先は死霊系の魔物が出てきますから、正直今の私では苦手な相手です。」
「聖水を使うにしても数に限りがあるからなぁ。こういう時のために属性武器があればいいんだけど、それは今後の課題ということで。」
第三階層の敵は実体を持たない死霊系、物理攻撃が一切きかないので主に魔法か属性付きの武器で攻撃する必要がある。
桜さんの武器にはそれが無い為一時的に聖水を振りかけて疑似的な聖属性を付与出来るけれど、数に限りがあるので今回は急いで駆け抜ける作戦をとることにした。




