53.リビングデッドと戦いました
川西ダンジョン二階層。
一階層ではスケルトンが出て来たが、ここに出るのは俗にいうリビングデッドというやつだ。
「生きている死人とはこれいかに。」
「それを言ったらアンデッドだって死んでない死人ですからね、どっちなんだって感じです。」
「まぁ魔物である以上生きてようが死んでようが倒すのは同じ事、ここでも一応装飾品が落ちるんだっけ?」
「スケルトンほどじゃないですけど実績はあるみたいです。特にこっちではアクセサリー系が多いらしいのでねらい目ですよ。」
一獲千金を夢見る探索者が集まる川西ダンジョンだが、Dランクダンジョンだけあって魔物の強さも上がっているため油断は禁物。
上は多くの探索者が徘徊していたけれどここからは明らかに難易度が違ってくるらしいのでより注意をして進むとしよう。
「リル、出てきていいぞ。」
「わふ!」
「リルちゃんモフモフさせて!」
おどろおどろしいオブジェが生える異様な空間の中、ある程度進んでも誰とも遭遇しなかったので周りを確認の上リルを召喚。
ブレスレットから出て来たリルが伸びをするのと同じタイミングで桜さんが彼女の背中に顔をうずめる。
「あぁぁ、気持ちいい。」
「緊張感も全くないな。」
「だってこの空気ですよ?見た目もあれですけど雰囲気がちょっと。」
「気持ちはわかるが一応ダンジョン内だからな、気を付けていこう。」
「は~い。」
満足そうにリルから顔を上げた桜さん、さっきの一件ですこしメンタルがやられたかと思ったけどどうやらその心配はなさそうだ。
改めてリルを先頭に二階層を進んでいくと早速、噂の魔物が姿を現した。
腐敗臭ではないけれど明らかに普通と違う匂いに思わず口と鼻を覆ってしまう。
これが死臭というやつだろうか、前から歩いてきた二体のリビングデッドがこちらを見るなりゆらゆらと揺れながら口角を少し上げるのが分かった。
「リルちゃん、ブレスよろしくね。」
「わふ!」
今の桜さんならリビングデッド程度では苦戦しないだろうし、そこにリルもいるから大丈夫・・・と思った次の瞬間、二体のリビングデッドが両腕を大きく振りながらこちらに向かって走ってきた。
「普通は歩くところだろ!」
俺の文句と桜さんの悲鳴がダンジョン中に響く中、想像以上の速さで向かってきたそいつらに向かってリルだけが冷静にブレスを吐く。
体中が真っ白に凍り付き動きは若干鈍くなるものの、それでも動きが止まることはなかったが俺達が正気に戻るには十分な時間が出来た。
「キモい!ちょっとこっち来ないで!」
桜さんに向かって両腕を伸ばし掴みかかろうとするのをサイドステップで避け、すれ違いざまに素早くショートソードを振りぬくと半分取れかかっていた首が勢いよく宙を舞った。
それでも倒れずこちらに向かってくるリビングデッドに足をかけてこかしてやるとそのまま勢いよく倒れこむ。
流石死んでるだけあって首が飛んだところでどうってことないのか。
首なしのまま起き上がろうとするそいつの背中を思い切り踏みつけている間に桜さんとリルがもう一体へ攻撃を仕掛けていた。
やっぱりもう一人?いるとより戦いが楽になるなぁ、そんなチームワークばっちりの一人と一匹が戻ってくる前に念のため収奪スキルを発動させると思わぬスキルが手に入った。
【リビングデッドのスキルを収奪しました。痛覚耐性、ストック上限はあと三つです。】
確かに死んでいたら痛みを感じることはないだろうけど、まさかこんなスキルが手に入るとは・・・。
出来れば攻撃を受けたくはないけれど受けるときは受けてしまう。
痛みは感覚を鈍らせて本来の動きが出来なくなってしまうだけにこのスキルは非常に重宝するだろうけど、残念ながら今回出番はなさそうだ。
まぁスキルは持ち帰れるので次回篠山ダンジョンで使えばいいだろう。
もちろん使わなくていいのならそれに越したことはないけれど。
「こいつもよろしく。」
「わかりました!」
頭が無くても生きているリビングデッドだが、どうやら心臓付近を攻撃されると活動を停止するらしい。
そもそも心臓なんて動いていないのに生前の名残か何かだろうか。
残されたのは爪と布の切れ端、残念ながらアクセサリーはドロップしなかったようだ。
「何とかなりましたね。」
「だな、やっぱりリルがいると安定感が違う。」
「わふ!」
「ふふ、当然でしょだって。」
「なんとなくそんな感じだな。引き続き警戒しつつ先に進もう、ここまで来たら当たりも欲しいし見つけた敵は全部倒す感じで。」
人間欲が出るとよくないことを考えるとはよく言うことだが、まさか本当にそれが起きるとはその時の俺は想像すらしていなかった。
その後もサクサクと二体同時に出てくるリビングデッドを撃破、残念ながらアクセサリーのドロップはなかったものの安定した戦いに俺達は有頂天になってしまったんだろう。
怖い物なんてない、二階層も余裕でクリアだな!なんて考えて通路を曲がったときだった。
武庫ダンジョンでもおなじみの通路の先に見える小さな小部屋。
ドーム状に天井が高くなっているその先に階段があるのがほとんどで、あそこを抜ければ第三階層が待っている。
さぁさくっとクリアしてしまおう、と小部屋に近づいたその時だった。
「うぅぅぅぅ。」
「リル?」
「ダメです和人さん、この先はダメ。」
リルだけでなく桜さんまでがその場に立ち止まり、何かに怯えるような表情を浮かべている。
これはあれか?
前にもあった嫌なパターンか?
ぴたりと動かなくなった俺たちの前で小部屋の中に見えていた真っ黒い何かがモソリ動き出した。
それも複数。
あ、これやばいやつだと思うよりも早くそいつらが一斉に向かってくるのが見える。
「リル、ブレス!」
指示を出しつつ鞄を端へ投げ捨て、二節棍を警棒のように振りながら長く伸ばして構え直す。
桜さんは・・・よし、とりあえず戦意はありそうだ。
先頭のやつの顔が見える距離でブレスが発動、三体の動きが遅くなったのを確認しながら下目に構えた棍を振り抜いてまずは機動力を奪って行く。
人型魔物でもあまり抵抗感なく戦えているのは見た目があまりにも悍ましいからだろうか、何の躊躇もなく足をへし折りそのまま倒れ込むリビングデッドをスルーしてリルと共に小部屋へと飛び込んだ。
「足を折ったやつは任せました!」
走らなければ桜さんで十分に対処できる、後ろを信じるのもまた複数人で潜るときに必要な事だ。
桜さんがいるからスノーマンティスのスキルは使えないけど痛覚耐性とか外皮とかは使ってもわからないだろう。
とりあえず耐性だけは上げておくか。
【リビングデッドスキルを使用しました。ストックはありません。】
使用したら奴らの仲間入り、という不安はあったものの特に変化もなく頭にアナウンスが流れるだけ。
効果のほど如何なものか、とはいえできれば怪我はしたくないので気をつけないと。
小部屋の中にはでは何かを捕食するように奴らが群がっているのが見える。
共食いはしないので間違いなく先行した探索者、あぁならないように気をつけないと。
そう気合を入れ直して先手必勝と背を向ける奴らに棍を叩き込んだ。




