52.アンデッドと遭遇しました
川西ダンジョン。
武庫ダンジョンと梅田ダンジョンの中間ぐらいにあり開発の進んでいた市内の一角に突如現れたと記録されている。
元は革製品の工場跡だったらしいけど、そこを再開発しようとしたところでダンジョンが出現。
急遽ダンジョン用の環境に整備されたこともあり、ダンジョンの目の前には探索者ギルドの他に多数の飲食店が軒を連ねている。
探索帰りの冒険者が一杯ひっかけて帰るんだろうか、朝から中々の賑わいを見せていた。
「それじゃあ行こうか。」
「はい!」
ギルドで手続きを済ませた後、二人並んでダンジョンの前へ。
お化け屋敷を彷彿とさせるおどろおどろしい木造の建物、これが突然現れた時はさぞ驚いただろうなぁ。
「ようこそ川西ダンジョンへ、探索の準備はお済ですか?」
「大丈夫です!」
「中はアンデッドをはじめとした死霊系の魔物が多数出没します、聖水が切れる前にお戻りください。」
「たくさん準備したので何とかなると思います。」
「ふふ、そのようですね。それでは行ってらっしゃい。」
俺の背負った大きなカバンを見て職員は笑顔を見せ、それにつられたように桜さんも笑顔を咲かせる。
なんともほほえましいやり取りだが、この人の言うようにこの奥は死霊のはびこる危険な場所。
聖水が無ければすぐに憑りつかれてしまうという中々にシビアな場所でもある。
建付けの悪い木製の引き戸を開けて中に入ると、なんともいえない雰囲気と重苦しい空気が全身にまとわりついてきた。
「いかにもって感じですね。」
「だな。大昔は処刑場だったらしいし、その流れを汲んでいるんじゃないかって話だ。とりあえず聖水をまいておこう。」
「憑りつかれても聖水をかければ正気に戻るらしいのでもしもの時はお願いします。」
「それはこっちのセリフだ。周りに人がいるからもう少ししてからリルを呼ぼう、それまでくれぐれも気を付けて。」
「了解です!」
川西ダンジョンについては事前に調べて来たので準備は万全、正直ドロップ品はさほど美味しくないけど稀に装飾品を落とすらしいので今回はそれを目当てに調査を兼ねて潜ることになっている。
この間武庫ダンジョンで手に入れたストマイロ鉱石製のショートソードを手に気合十分の桜さんが先を歩き、俺は周囲を警戒しながらその後ろを追いかける。
アンデッドばかりだとさぞ人気がないんだろうと思いきや、町中にあることと装飾品で一獲千金を狙う探索者で思った以上に中は混雑していた。
「うーん、思っている以上に多いですね。」
「だなぁ。武庫ダンジョン同様通路型だとどうしても同じ道を通ることになる、とはいえこの多さだと魔物も取り合いになるしさっさと下を目指した方がいいか?」
「その方がいいかもしれませんね、ここで出るのはスケルトンだけですしドロップもそれほど美味しくないので。」
「とはいえここはD級ダンジョン、もちろん敵も強くなっているし無茶は・・・って。」
「大丈夫かどうか実際にやって判断しましょう。」
話の途中だったが、通路の向こうからカタカタという音が聞こえて来た。
周りに探索者の姿はないものの、後々遭遇するとめんどくさそうなので今は俺達だけでどうにかするしかない。
音は次第に大きくなり、通路の向こうから真っ白い何かが近づいてきた。
「カカカカカ。」
「笑ってるな。」
「笑ってますね。」
見えてきたのは真っ白い全身骨格。
理科室でおなじみのアレがカタカタを歯を鳴らしながらこちらを見て笑っている。
初めて見るアンデッドモンスター、正直どんな感じなんだろうとドキドキしていたんだがまさかこれほどまで【骨】だったとは。
もちろんただの骨じゃない、右手にはボロボロのロングソード左手には木製のラウンドシールドを持っているスケルトンソルジャーといわれる立派な魔物だ。
あんな頼りない見た目をしていながら中々の速度で動くのでなめてかかると痛い目を見る典型的な相手、いつもならリルがいて牽制してくれるけど今回は桜さん一人で相手をしなければならない。
奇しくもこちらもまた同じような装備、桜さんと骸骨どちらの実力が上か戦いの火ぶたが切って落とされようとしていた。
「あれ?」
「どうしました?」
「いや、まさかの完封だったなと。」
「師範の動きに比べれば子供みたいなものです、動きも単調ですしあの程度敵ではありません。」
熱戦が繰り広げられるのかと思いきや、勝負は一度切りあうだけでついてしまいすれ違った後スケルトンはバラバラになってしまった。
うーむ、対人戦に関して言えば俺以上の実力があると知ってはいたけれどまさかこれほどまでに強くなっているとは思わなかった。
その師匠とか言う人がおそらくすごいんだろうけどそれをしっかり吸収している桜さんもまたすごい。
俺なんて収奪スキルがあるから今の所何とかなっているけれど、いい加減自力をつけていかないと後々になって苦労するのは目に見えている。
とはいえ誰に教わるかっていう問題もあるんだよなぁ。
「ドロップは・・・骨か。」
「ハズレですね。」
「ギルドの話じゃ体感で1%ぐらいのドロップ率なんだっけ。」
「そういう風に聞いています。」
「となるとあと99体、先は長いなぁ。」
「頑張りましょう!」
ドロップ品はただの骨、一応ギルドでは買取りしてくれるけれど価格は二束三文だ。
篠山ダンジョンの収入と比べると天と地ほどの差があるけれど、稀にスキル効果の付いた装飾品が落ちるのでそれをもし拾ったら数十万下手したら数百万で売れることもあるらしい。
そんな夢を見て今日も大勢の人がダンジョン内を徘徊しているというわけなのだが・・・、亡者の出るダンジョンだと聞いていたので少しだけビビっていたけれど思った以上に普通なんだなぁ。
ある意味ダンジョン内を徘徊する探索者の方が亡者っぽいきもするがそれは言わぬが花ってやつか。
そんな感じで人型の魔物相手に抜群の戦闘センスを発揮する桜さんのおかげでDランクダンジョンにもかかわらず特に苦戦することなく二階層へと降りる階段に到着した。
「余裕でしたね!」
「だな、他の探索者が駆除してくれているおかげで数も少なかったし。」
「これなら次の階層も楽勝だったりして・・・。」
「へっそんなこと言ってられるのも今のうちだぜ。」
階段から上がってきたんだろうか、随分と汚れた格好の探索者が桜さんの言葉に茶々を入れて来た。
いきなり文句を言われて動揺を隠せない桜さん、対人戦は得意でもこういったやり取りにはなれていないようだ。
「忠告には感謝する、だが本当にそうか入ってみないとわからないだろ?」
「運搬人が偉そうに。お前みたいなお荷物、下に行ったらすぐに食われて死ぬだけだぞ。命が惜しけりゃ大人しくここで骨と遊んでな。」
「和人さんは運搬人じゃ・・・。」
「桜さん、次に行こう。今日中に四階層まで行くんだからゆっくりしてられないよ。」
「たった二人、いや一人で四階層まで行くだって?無理無理、やめとけって。」
「それを決めるのは俺達だ、それじゃあ。」
こういう輩には関わるとろくなことにならないのでさっさと離れるに限る。
階段前で動かない男の前に立ちじっと相手の顔を見続ける。
最初は挑発したような目で見て来たけれど、俺が何の反応もしないことが面白くなかったのか舌打ちをして一歩横にズレた。
「せいぜい奴らの仲間入りしないように気を付けるんだな。」
なんだかんだ忠告をしてくれるあたりいい人なのかもしれないけれど、今の俺達には邪魔でしかない。
無言で階段を降り、二階層へと到着。
墓場の様なオブジェが通路の壁から飛び出るなんとも異様な光景が俺達を出迎えてくれた。
「ごめんなさい和人さん。」
「何が?」
「あんなこと言われたのに何も言い返せなくて。それに、和人さんは運搬人じゃなくて本当はすごい探索者なのに・・・。」
「そんなのまったく気にしてないから大丈夫。あの感じだとここから逃げかえったみたいだし、所詮はその程度の実力ってことだよ。桜さんなら大丈夫、それにここならリルを出しても大丈夫そうだから下まで降りて堂々と戻ってやればいいのさ。」
「はい!」
川西ダンジョン二階層。
アンデッドの蔓延るここの怖さはここからが本番だ。
鬼が出るか蛇が出るか、さぁ進もうじゃないか。




