44.新しいスキルの効果を実感しました
桜さんとリルとの探索は非常に順調に進み、あっという間に九階層へと到着することができた。
七階層は何度か来ていたし八階層は基本駆け抜けるだけなので早く到着するのは当然として、そこまで時間をかけずに到着できたのが非常に大きい。
これもリルの索敵と桜さんの直感スキルがあったおかげ、収奪スキルを使えないとあまり貢献できないのが申し訳ないが、ここから先は戦闘の方でしっかり働かせてもらおう。
「休憩はできた?」
「大丈夫です!」
「わふ!」
「ここから先はさっき話した通りでブリザードイーグルはこっちでもつからフレイムリザードを二人で対処してもらいたい。桜さんが引きつけつつリルのブレスで対応すれば問題なく行けるはず、こっちはマントもあるからよっぽどのことがなかったら大丈夫なはずだから」
先へ進む前に休憩をしつつ最後の打ち合わせをしておく。
ここから先は武庫ダンジョン最強コンビが待ち構えているからちょっとの油断が大怪我につながってしまう。
だからこそしっかりと打ち合わせをして最悪の事態に備えなければならない、俺もあいつらには苦労させられただけに気合いを入れなければ。
そんな感じでいつも以上に気合いを入れて先へと進んだわけなのだが・・・。
「リルちゃんブレス!」
「ガウ!」
「んー、なんだこの安定感は」
常に一対で出てくる武庫ダンジョン最強コンビ、のはずが特に危なげなく確実に対処されている。
まずは桜さんがフレイムリザードのヘイトを稼いで突進やブレスを誘導、隙をついてリルのブレスで全身を纏っている炎を消せばただのトカゲに成り下がる。
炎さえなければ特に怖がる要素は何もないので息のあった連携であっという間に討伐されてしまった。
「ピィィィ!」
「はいはい黙ってな」
俺はというと、ブリザードイーグルのブレスをマントで完封できてしまうので降りてくるタイミングではたき落とせばそこで試合終了だ。
レベルが二桁を超えてから敵の動きがしっかりと見えるようになったのでカウンターを合わせやすくなったのもあるけれど、前回との1番の違いは武器が良くなったことだろう。
振り回しやすく更に丈夫、取り扱いがしやすくなったことで確実に攻撃を当てられるようになった。
撃墜してしまえばこちらもただの鳥、ってことで今回もサクッと最強?コンビの撃退に成功した。
「素材を回収して休憩するか?」
「まだ大丈夫です!リルちゃんのおかげで戦いやすくて、そんなに疲れないので」
「二人ともいい連携だしこれじゃ誰が主人かわからないな」
「わふぅ?」
仲間なんだから当然でしょ?と言わんばかりの顔で俺を見つめてくるリルを少し乱暴に撫でてやると、その様子を桜さんがじっとみていた。
「どうかしたか?」
「な、なんでもありません!それじゃあ次行っちゃいましょう!」
「わふ!」
本来ならレベルの高い俺が先頭を進むべきなんだが索敵と罠感知に優れた二人がいればそんなセオリーは必要ない。
何事も適材適所、やる気十分の二人なら任せていても大丈夫だ。
何よりあんなに楽しそうに探索しているのに邪魔するのはなんだか悪い気がする。
まるで遠足気分で先を進む二人に誘導されながらあっという間に九階層を駆け抜け、予定よりも早く最後の難関へと到着した。
ご丁寧に例の意地の悪いテーブル罠も残っていたのでレクチャーをしつつ休憩しながら最後の打ち合わせを行う。
「私が惹きつけてその隙にリルちゃんが攻撃、和人さんはその間に後ろへ回ってもらって関節を優先的にって感じですね」
「鈴木さんの話じゃアイアンゴーレムにも通用するって話だったけど、まぁやってみないことにはなんとも言えないなぁ」
「和人さんなら大丈夫です!」
「ともかくアイアンゴーレムの突進はくれぐれも気をつけるように、それさえ避ければ後は距離をとっておけばどうにでもなる」
アイアンゴーレムの攻撃には一定の流れがあるので前もスキルなしで戦うことができていた。
この人数なら攻撃も分散するだろうし危なくなったらとっておきを使えばいい。
何をするにも命を大事に、いざとなったら逃げる選択肢があることを強調しつつ武庫ダンジョン最後の壁、2度目のアイアンゴーレム戦が始まった。
「大振り来ます!」
「リルは今のうちに裏へ回れ、これが終わったら突進が来るからいつでも逃げられるようにしておけよ!」
「ガウ!」
ゴーレムが動き出して早数十分。
三人の連携は完璧でアイアンゴーレムを翻弄しつつ確実にダメージを与えていた。
今までの魔鉱石と違って火水晶の棍は見た目のクリア感と対照的にガンガン叩きつけても欠けることはなく、装甲をしっかりと変形させている。
リルのブレスもアイアンゴーレムの動きを遅らせるだけでなく関節にダメージを与えているのか段々とギシギシと軋む音が大きくなっているきがする。
後は決定打さえ与えられれば一気に優位に立てるんだが・・・。
その時だ、今までと違うタイミングでゴーレムが突進の構えを取り俺に向かって突っ込んできた。
そんなイレギュラーな動きでも距離をとっていれば十分対処できる。
スペインのマタドールのようにスレスレの位置で突進を回避、そのまますれ違いざまに背面への攻撃を繰り出す前に桜さんのよく通る声が耳に飛んできた。
「そのまま膝の裏を叩いてください!」
疑問が頭に浮かぶより早く言われるがまま膝裏へ棒を叩きつけると、パキン!という音ともにアイアンゴーレムが膝から崩れ落ちた。
「リルちゃん反対の足にブレス!」
「ガウ!」
「和人さんは凍ったところにもう一撃お願いします!」
的確な指示を受けリルのブレスを待ってから同じく棒を叩きつけると火水晶のおかげか反対側の関節も軽い音共に砕けたのがわかった。
桜さんの新しいスキル【弱点看破】
あの時三つのクリスタルを使って二つ連続でハズレを引いた時はダメだと思ったけれど、まさか最後の最後にAランクスキルを引き当てるとは思わなかった。
その名の通り相手の弱点を見破るスキルで、本人曰く弱点部分にフォーカスするようなマークが付くらしい。
そのおかげで見事アイアンゴーレムの足を奪うことに成功、まだ這いずりながら攻撃しようとしてくるも動きも遅いゴーレムなんてただの的でしかない。
その後はワンサイドゲームの展開で最後は桜さん自身がゴーレムの核を貫いてついにアイアンゴーレムは地に伏した。
大喜びする桜さんをよそに大急ぎでゴーレムへと近づきスキルを発動。
【アイアンゴーレムのスキルを収奪しました、鉄壁。ストック上限はあと三つです。】
前回も手に入れたものの結局効果が分からないままだったので今回こそ効果を確認したい。
防御系だとは思うんだけど、どんな感じなんだろうか。
収奪スキルを発動してすぐゴーレムが地面に吸い込まれ、前回同様青い石をいくつか残していった。
前回のストマイロ鉱石も残っているのでこれだけあれば桜さん用の新しい武器を作れるんじゃないだろうか。
鉱石を回収すると桜さんが満面の笑みを浮かべながらこちらへかけてくる。
「和人さんやりました!」
「最後はなかなかかっこよかったね」
「スキルのおかげでどこを狙えばいいかがわかるのですっごい戦いやすいんです。これもあの時和人さんが背中を押してくださったからですね」
「いやいや、自力で引き当てた桜さんの運のおかげだよ」
「そういえば和人さんのスキルは何かわかったんですか?」
「んー、それがなかなか」
このスキルを手に入れたのは桜さんの運がよかったからで俺もまたその一人ということになる。
とはいえ次もまた手に入れられるかはクリスタル次第だし、ぶっちゃけこれ以上のスキルはないと思っている。
そろそろ桜さんにも伝えるべきなんだろうけど、申し訳ないがもう少しだけ黙っておこう。
公表するにしてもそれなりに実力を積んでからじゃないと、上位冒険者にいいように使われるっていう話も聞くだけに桜さんのこのスキルについてもあまり口外しないようにしないとなぁ。
ともかくだ、目的だった武庫ダンジョン走破は無事に達成、ストマイロ鉱石を手土産にギルドに凱旋しようじゃないか。




