42.無事地上に戻ってきました
スパイクのおかげで氷上での戦闘も楽になり、先程のように前・中・後衛の最強?トリオが出てきたところで苦も無く対処できるようになった。
あれから何度か戦闘になったが、リルと受け持ちを変えながら対応することも出来たのでいい訓練になったともいえるだろう。
上層階は魔物は一種類しか出てこないはずなのに武器を変えて襲ってくるのはどうなんだ?とおもいながらも、収奪スキルは一種類だけなのであくまでも一種類の魔物ということなんだろう。
よくよく考えればコボレートも一応武器を変えていたのでダンジョンの定義からははずれていないようだ。
とはいえイレギュラーな戦闘の中、スパイクが無かったらこうも簡単にいかなかっただろうからほんとスキル様様ってやつだなぁ。
「ふぅ、到着っと」
数回の戦闘の後、湖上のど真ん中に設置された階段を発見。
体力的にはまだ戦えそうな感じだったけど、素材の他に武器なんかもドロップしてしまったので邪魔にならないうちに引き返すことにした。
今回はリルと俺の二人だったけど、ここに桜さんも加われば討伐速度はさらに上がるわけだからすぐに荷物がいっぱいになってしまうのはまちがいない。
カバンを増やしたところで限界もあるし、いずれ運搬人が必要になる日も来るんだろうなぁ。
とはいえ、リルだけでも中々な秘密なのに収奪スキルまで見せることになるわけだしその辺の秘密をしっかり守ってもらえる人じゃないと困る。
となると毎回別の人というよりも専属契約をする必要もあるわけで・・・。
ぶっちゃけ高いんだよなぁ、専属って。
C級ダンジョンとかならともかくE級ダンジョン程度じゃ稼げる額にも限界があるし、この辺は桜さんと応相談ってところか。
「お、戻ってきたか」
「お陰様で無事に戻ってきました」
「ふむ、あの冷気の中で三階層まで下りるとはなかなかの実力。ただしこれに自惚れず精進することだ」
「ありがとうございます」
忍者職員(たった今命名)さんにも一応褒められたようなので上機嫌でギルドまで戻ると、例の受付嬢が目を輝かせながら手を振ってくれた。
別の探索者と接客中だったにもかかわらずそんなことをされると変に注目を浴びるので勘弁願いたい。
武庫ダンジョンではそれなりに名前と顔が広まっていてもここはまだアウェイ、もちろん今後はここをメインにやっていくつもりだけども余所者にはあまりいい顔しない人が多いだけに目立たないように注意しないと。
現に先に話しかけていた探索者がなんだよあいつ!みたいな顔でこっちを見てきたし、ほんと申し訳ない。
大人しくソファーに座って待つこと数分。
先程の探索者がギルドから出ていくのを見送ってから受付へと向かった。
「おかえりなさい新明様、篠山ダンジョンはどうでしたか?」
「うわさに聞いていたよりも大変でしたけど、まぁ何とか」
「流石ですね。えっと、買取ですよね。それではライセンスカードと査定品をお願いします」
「ちょっと多いけどよろしくおねがいします」
「かしこまりました・・・って、えぇ!?」
ライセンスカードを先に渡してからカバンに押し込んでいた素材を順番に取り出していく。
上から押しこんでいるので最初にアイスリザードマン、続いてホワイトウルフ、そして最後スノーラビットの素材が積みあがっていく。
あ、それと装備品も出たんだった。
おまけに足元に転がしておいたアイスリザードマンの斧をドン!と乗せた。
いやー軽くなったなぁ。
「あの、もしかしてもう三階層に?」
「はい。一応準備しておいたのでなんとか。予想以上に三階層で苦戦しましたけど、次回は滑り止めをしっかり準備しないとだめそうですね。着替えてくるので後はよろしくお願いします」
「そ、それじゃあ整理券をお渡しします、どうぞごゆっくり~」
心ここにあらずという感じの受付嬢から整理券を預かり、そそくさと更衣室へ移動する。
寒さのきついダンジョンだからかシャワーではなく大浴場が用意されているのが非常にありがたい。
保温スキルがあったとはいえ思ったよりも体の芯から冷えていたようなので、いつもよりも長湯をして体の芯から温まってから再びカウンターへと戻った。
「おかえりなさいませ、当ギルド自慢のお風呂はどうでしたか?」
「想像以上に広くて非常に快適でした」
「これを目当てに通われる方もいるぐらいなんですよ。ですからまたどうぞ来てくださいね!なんでしたら毎日でも構いませんので!」
「あはは、とりあえず今日は様子見なので。査定はどうでしたか?」
これ以上はまた走破記録の押し売りをされそうなので慌てて話題を切り替える。
武庫ダンジョンの三割り増しぐらいとは聞いているけれど果たして実際はどれぐらい稼げたんだろうか。
「そうでした!では素材から順番にご説明します、まずスノーラビットの毛皮が12枚、肉が6個、ホワイトウルフの毛皮と爪、それと牙がそれぞれ8個ずつ、最後にアイスリザードマンの鱗と尻尾が15枚と水の魔結晶が4個、ここまでは間違いないですか?」
「多分そんな感じで」
「普通は複数人で分けるので単価も説明するんですけど、とりあえず全部合わせて15万9千円です!」
流石武庫ダンジョンの三割り増しといわれるだけあって三階層まででこの稼ぎ、これはヤバい。
そりゃ一時間かけてこっちのダンジョンに来るのもわかる気がする。
「お!因みに一番高かったのは?」
「単価でいくと水の魔結晶の1万円ですね。スノーラビットの毛皮が5000円、ホワイトウルフの毛皮が6000円、あとの牙や爪なんかは一つ1000円での買取りです」
「ってことは毛皮をメインで集めた方が儲かるのか」
「それはそうですけど、一緒に落ちるものですしわざわざおいていく人はいませんから」
「まぁそれもそうか」
上級ダンジョンともなると不要な素材は置いていくこともあるらしいけど、E級ダンジョンに来るのは皆駆け出しばかり。
いくらこちらの方が儲けがいいとはいえわざわざ金を捨てられるほど稼げているわけじゃない。
それに普通は複数人で潜るのでこれぐらいの素材なら分担して持てばまだまだ持って帰れるだろう。
「それと、アイスリザードマンの斧ですが氷属性がついていますので正直ドワナロクにもっていった方が高く売れると思います。ここでの買取りは6万円になっちゃうんですけど、どうしますか?」
「じゃあ一本だけ買い取ってください」
「ありがとうございます!全部合わせまして21万9千円です。」
「あ、ゴールドカードもあるんだけど」
「えぇ!大道寺グループのゴールドカード!?私、初めて見ました・・・」
いちいちリアクションが大きいので周りの人が何事かとこちらを見てくる。
お願いだから早く終わらせてほしいんだけど・・・。
「いくらになります?」
「えっと・・・あった!二割増しですので全部で26万2800円です!」
「じゃあそれでお願いします」
「かしこまりました!いいなぁ、私もこれぐらい稼いでみたいなぁ」
ギルド職員は探索者上がりの人が多いって聞いているけど、この人もダンジョンに行けばそれなりに稼げるんじゃないだろうか。
もしくは事務方は一般人だったりする?
まぁ、こういう手続きなら一般の人でもできるだろうしその可能性は十分あるよなぁ。
「お待たせしました!ライセンスカードをお返しします」
「ありがとうございました」
「今日から9日ありますから明日も絶対に来てくださいね!私、待ってますから!」
「あははは・・・」
カウンターから身を乗り出すような感じで手を振る受付嬢から逃げるようにしてギルドを飛び出し、人気の少ない角で大きく息を吐く。
あー、疲れた。
探索でっていうよりもあの人の相手で疲れた。
稼ぎもいいし実力を上げるにはぴったりの環境だけども、毎回あの人と会うのは精神的にちょっとしんどいなぁ。
本人は良かれと思ってやっているんだろうけど合わない人がいるってことは理解してほしい。
「和人さん!」
「え、桜さん!?」
「お父様との話が終わったので来ちゃいました。今帰りですか?」
気を抜いた瞬間に声をかけられ、小さく飛び上がりながら振り返るとまさかの桜さんが立っていた。
お父さんと話をするって言ってたからてっきり家で待ってると思ったのに、会食会場からここまで結構距離あると思うんだけど。
「ちょうど終わったところだけど桜さんは?」
「私もちょうど来たところです。お疲れですよね、車で来たので乗って帰りましょう。ほら、こっちです!」
全然待ってないとか言ってるけど絶対待ってたやつだよなこれは。
そのまま背中を押されるように駐車場の方へ移動し、周りの車とは明らかに異質な黒塗りの車の前まで移動させられる。
これ、桜さんじゃなかったら確実に拉致される奴だよな。
っていうかこんな車乗ったことないんだけど。
「いいのかな、かなり汚れてるんだけど」
「大丈夫ですよ!ほら、早く奥に詰めてください」
「でも荷物は?」
「それはわたくしが、狭い車内ですがどうぞおくつろぎください」
どこからともなく表れた紳士に荷物をするりと外されそのまま後部座席へ押し込まれる。
やれやれ、これでやっと休める・・・わけもなく、桜さんからの質問攻めにあいながら家路へと就いたのだった。
 




