41.氷の上で戦ってみました
即席の滑り止めは予想以上の効果を発揮、滑ることなく音のする方へと氷上を駆け抜ける。
真っ白い靄を抜けるとそこではリルと三体のリザードマンが死闘を繰り広げていた。
斧と槍っぽい物を手にした真っ白い蜥蜴人が白い子犬に襲い掛かり、少し離れたところで弓を持った奴が隙を窺っていた。
あいつが俺を狙撃してきたのか。
混戦でのセオリーは遠距離攻撃持ちからつぶす事、幸い向こうはリルに意識を向けているのでこちらに気づいている様子はない。
やるなら今ということで一気に接近して棒をぶち込んでやりたかったところなのだが、突然視界に入ってきた俺に動揺することなく弓持ちは狙いを俺に変えて何発も速射で迎撃してくる。
狙いを定めていないとはいえ当たればかなりのケガをするのは間違いない。致し方なく直進ではなくジグザグに移動しながら接近しようとするも仲間の危機を察知した槍持ちがこちらへ走ってくるのが見えた。
知恵があるとこういう臨機応変な対応をされるから厄介なんだよなぁ。
リルは斧持ちの対応で精いっぱい、となると俺が残りを引き受けなければならない。
どちらか一方ならどうにでもなるのだが二体同時ともなるとこちらもかなりやり辛いわけで。
なんとか到着するまでに攻撃してしまいたかったのだが、結局弓持ちを攻撃する間もなく横から鋭い突きの応酬を受けてしまい距離を取らざるを得なくなってしまった。
幸い足場は何とかなっているけれどこの包帯もいつまでもつかわからないだけにできるだけ時間をかけずに何とかしなければ。
白いトカゲが赤い舌を垂らしながら槍を構えてこちらを睨みつけてくる。
その後ろには鋭い目つきで俺を狙う弓持ち。
この時点で武庫ダンジョン最強と呼ばれる例のコンビ以上に戦い辛いんだが、本当に同じランクなのか?
俺は保温スキルを使っているからどうってことないけど時間がたてばたつほど体温を奪われ動きが鈍くなってくる仕様だけに探索者泣かせにもほどがある。
いい加減にらみ合っていても仕方がない、そろそろ仕掛けないとこっちがジリ貧だ。
「なんだトカゲ野郎、びびってんのか?」
出来るだけ射線に槍持ちが入るように場所を移動しながら槍持ちを挑発、言葉の意味を理解しているかはわからないけどまぁ雰囲気で伝わるだろう。
どちらも長物を使っているだけに同じような間合いで相手をけん制しつつ攻撃するタイミングをうかがう。
コボレートなら何も考えずに突っ込むところなんだけど流石にこいつを相手にするには無謀すぎるし、なにより突進スキルがない。
せめて氷爪が届く距離まで接近できれば・・・そんな風に考えていると、しびれを切らしたのか奇声を上げながら槍持ちが突っ込んできた。
目にもとまらぬ連続突きを冷静に受け流しながら視線の奥にいる弓持ちを警戒しつつ狙いにくい場所に移動しながら相手のすきを窺い、わずかにリズムがずれたところでホワイトウルフのスキルを発動させる。
【ホワイトウルフのスキルを使用しました。ストックは後三つです。】
同じ長物使い、間合いの外からは攻撃できないだろうと油断したところで見えない爪が槍持ちを右肩から左わき腹にかけて切り裂き、緑色の血が氷の上に飛び散った。
おそらく致命傷になったんだろう、そのまま膝をつくように倒れてくる槍持ちを左腕で抱え込んで肉の盾にしながら弓持ちへと突貫、棒の射程圏内に入る寸前でそいつを投げ落として勢いに乗ったまま棒を突き出す。
残念ながら、それも華麗なステップで避けられてしまったが距離を詰めればもうこっちのもんだ。
先程の槍持ちのように素早い突きを繰り出しながらも急に棒を横に振りぬき、下から左上、右上から左下とリズムを変えながら点ではなく線の攻撃に切り替えることでどんどんと追い詰めていく。
いくら相手が氷上の戦いに慣れているとしても追い詰められればボロが出るというもの、氷のでっぱりに足を取られて尻もちをついたところを逃さず喉を貫いた。
呼吸が出来ずその場でもだえるリザードマンを足で押さえつけながら収奪スキルを発動、回収を確認して今度は胸を貫いて絶命させる。
【アイスリザードマンのスキルを収奪しました。スパイク、ストック上限は後三つです。】
やれやれ、何とかなったな。
あとはリルの方・・・と後ろを振り向いた時にはもう戦いは終わっていたようで、緑色の返り血にまみれながらもそいつの上に前足を乗せて勝鬨代わりの遠吠えをあげていた。
気付けば白い靄は晴れ、凍った湖上にリルの遠吠えが響き渡る。
うーんまだ小さいとはいえさすがフェンリル、絵になるなぁ。
「よく頑張ったな」
「わふ!」
「肉が落ちればそのまま食ってもよかったんだが、ドロップは尻尾と鱗・・・それとビー玉?」
気付けば死体は湖面の下に消えてしまい残っていたのは分厚い尻尾の先端と真っ白い鱗が数枚、それと水色のビー玉。
ビー玉に見えるだけで実際は違うんだろうけど鑑定できないから今は何も言えない。
まぁ邪魔になるわけじゃないしとりあえず回収しておこう。
そんなわけで三階層最初の戦闘は何とか無事に終了、最初はかなりやばかったけど何とかなったって感じだ。
だが巻いていた包帯はもうボロボロ、一応予備はあるけど数回の戦闘で底をつく可能性が高い。
残るは収奪したスキルの効果だけど・・・。
「とりあえず使ってみたらわかるか」
スパイクっていう名前から察するにとげみたいなのが出る可能性が高いのでリルを後ろに下がらせてからスキルを発動する。
【アイスリザードマンのスキルを使用しました。ストックはありません。】
スキルは発動した、だが一向に何かが飛び出てくる気配も何かが起きる様子もない。
発動したアナウンスは流れたわけだから保温スキルのようになにか目に見えないことが起きているのは間違いないんだが、いったい何が起きているんだろうか。
リルが不思議そうな顔でこっちを見てくるのでとりあえず検証をあきらめてカバンを取りに戻ろうとしたその時だ。
「ん?」
ボロボロになった包帯の下から何か音がする。
歩くたびにカチャカチャというような軽い音がして心なしか歩きやすい。
もしかしてと包帯を全部外してみても最初の時のように滑るようなことはなかった。
何なら走ってみても靴の下にある何かが氷をしっかりとつかんでいるので体重をかけても滑ることなく移動することができる。
「スパイクってそっちかよ」
誰に言うわけでもなくツッコミを入れてしまうのは関西人の性だろうか、てっきり攻撃スキルか何かだと思ったのだが実際は移動用補助スキルだったようだ。
補助とは言うけれど、氷だらけのこの階層以外にも似たようなフィールドが続く篠山ダンジョンでは必要不可欠な素材といえるだろう。
保温といいこのスパイクといい武庫ダンジョン同様まるで用意されたようなスキル。
これが無くてもなんとかなる、でもあればあるだけ重宝する。
まぁ犬笛とか雄叫びとか必要が無ければ全く使わないようなスキルもあるけれど、必要な時には使うスキルだけに無駄がないというかなんというか。
氷爪だって無かったらあのトカゲを倒すのはもっと苦労しただろうし、実際効果としては突進並みの使いやすさがある。
スキルを唱えるだけで見えない攻撃を繰り出せるんだから便利以外の何物でもない。
逆を言えばそれを使わないといけないような強い敵が待ち構えているという事。
やれやれ、調査だけで終わらせるつもりががぜんやる気が出てきてしまった。
リルと共にいったいどこまで行けるのか、とりあえずは下に降りる階段を探しに探索を続けよう。
敵はまだたくさんいるはずだからな、スキル確保のついでに新しい武器の練習台になってもらわないとな。
実戦に勝る練習無し、桜さんとは違った戦い方を経験して更に上を目指さなければ。
目指せタワマン、そのためにもしっかり実力をつけてがっつり実績を上げてやるぞ!




