37.新しいダンジョンに潜ってみました
リルを召喚して三日。
召喚した魔物はブレスレットの中に収納できるので移動時はおとなしくしてもらっているが、それ以外の時間は桜さんの希望もあってずっと外で生活している。
あの後冒険者ギルドで召喚魔獣について教えてもらったんだが、登録とかそういうのは必要としないかわりに公共の場では召喚しないという決まりがあるらしい。
もちろん食事も必要。
最初はドッグフードかなとか思ったんだがその辺は魔物、ホーンラビットを見つけると一直線に突っ込んでものの見事に仕留めて帰ってきた。
子犬に見えても中々の強さ、しかも臭いにも敏感で魔物が近くに来るとすぐに教えてくれるのでエコーいらずで非常にありがたい。
普通の犬と違って言葉の意味もしっかり理解できているうえに、隷属化の影響か非常に従順なので全く手はかからなかった。
因みに名前を決めたのも桜さん、俺も色々と案を出したけれど本人がお気に召さなかったようで最終的にこの名前を気に入ってくれたようだ。
フェンリルからとってリル、安直ではあるけれど女の子によく合う名前じゃないだろうか。
「それじゃあ行ってくるね」
「リルちゃんは留守番じゃだめですか?」
「んー、それでもいいんだけど本人がやる気満々だからなぁ」
「わふ!」
足元で尻尾をぶんぶんと振りながら元気よく返事をするリル。
いよいよ今日は第二のE級ダンジョン篠山ダンジョンに向かう日だ。
武庫ダンジョンに関しては桜さんも一緒に潜っているんだけども、今日はお父さんから呼び出しがあったらしく同行することが出来なかった。
まぁ、俺が先行してどういうダンジョンなのか調べたかったというのもあるし、収奪スキルについてはまだ教えていないので一人で潜りたかったんだよなぁ。
初めてだからこそ収奪できるスキルは確認したいし、桜さんを守りながらというのは正直しんどかったりもする。
勝手知ったる武庫ダンジョンなら背中を預けられるけど、知らない場所となるとまだまだ不安が残るってのが本音だ。
実力は申し分ない、でも魔物相手の貪欲さはまだまだ少なめだ。
「くれぐれも無理しちゃダメですからね、武庫ダンジョンとランクは同じでも出てくる魔物は全然違うんですから」
「気を付けるよ。でもそのための装備も準備したし、とりあえず行けるところまでは行ってみるつもりだ。それにリルもいるしね」
「わふ!」
「うぅ、なんでこんな時に呼び出しなんて・・・」
悔しくて涙ぐむ桜さんに見送られ電車を乗り継いで一時間ほどで篠山ダンジョンに到着。篠山城のお堀にできたダンジョンのおかげで観光地化していた城下町はさらに多くの人がやってくるようになったとか。おかげで買い物にも困らないし移動もそこまで苦にならなかった。
もちろんここにもドワナロクの支店があったりもする。
「ようこそ篠山ダンジョンへ、ライセンスカードをお願いできますか?」
「よろしくお願いします」
大手門の手前、駐車場の横に探索者ギルドがありそこで手続きをしてからダンジョンに入る決まりらしい。
都会から離れているにもかかわらず武庫ダンジョンより探索者が多いのは、中で得られる素材が高く売れるからだろう。
たった一時間の移動で三割ぐらい収入が変わったらそりゃこっちに来るようになるよなぁ。
なんてことを考えながら受付のお姉さんにライセンスカードを提示すると、さっきまで眠そうにしていた顔が一気に覚醒し何だったら三度見ぐらいされてしまった。
「あ!貴方が噂の」
「え、噂?」
「武庫ダンジョンの単独走破記録更新はわれら兵探連の新しい希望ですから。まさか!今回も単独走破記録を狙って!?」
「ひょ、ひょうたんれん?」
「兵庫探索者連盟の略称です、まさかご存じないですか?」
ご存じないというか今回初めて聞いたんだけど。
武庫ダンジョンではそういう話は一切なかったし、記録更新は主任が褒められるだけっていう風に聞いていたはずがなんだか大きな話になっているみたいだ。
「すみません、初めて聞きました。それに今日は下見なので狙ってきたわけじゃないんです。もちろん狙えたら狙いますけど、E級ダンジョンって記録更新にレベル制限ありましたよね」
「レベル制限は15ですけど、ギリギリですか?」
現在のレベルは12、あれから何度か桜さんと潜っている間にレベルが1あがったので上限まで残り3レベル。
複数人で潜れば潜るほど得られる魔素が減るのでレベルアップも遅くなるが、単独となると総取りになってしまう分レベルアップも早くなる。
調査に何度か潜っているだけでも上がってしまうだろうから記録更新は難しいかもしれないなぁ。
「今12なのでもしかしたら」
「でも新明様でしたらきっと更新できますよ!どうかよろしくお願いします!」
「よろしくって言われても・・・」
何をそんなに興奮することがあるんだろうか。
そりゃ記録を更新できたら実績が積めるし、報酬も出るので狙えるのなら狙うべきだろうけどそこまで躍起になって挑むものでもないんだけどなぁ。
なんでも現在の記録は10日らしいので、それを目指して頑張ってほしいと何度もお願いされながらやっとライセンスカードを返してもらえた。
中に入るだけでどっと疲れてしまったがむしろこれからが本番、ギルドを出て大手門をくぐりそのまま堀に沿って歩くとぽっかりとあいた入り口に到着した。
「一人か?」
「はい」
「この先は他のダンジョンと違う雪と冷気が支配する場所、くれぐれも気を付けることだ」
篠山ダンジョンの前に立っていたのは忍者みたいに顔を布で覆った細身の男性、俺を一瞥するとさらっと注意だけをして再び前を向いてしまった。
武庫ダンジョンの様な通路型と違って篠山ダンジョンはフィールド型と呼ばれる広いエリアを探索するタイプのダンジョン。
それゆえに下に降りる階段が見つけにくくさらに迷子になりやすい環境になっている。
下に行けば行くほど寒さが強くなり、最下層は氷点下の世界なんだとか。
一応発熱するタイプの肌着をはじめ動きが阻害されない程度に温かい服を着て来たので大丈夫だろう。
黒い壁を抜けて目を開けるとそこは一面の雪景色。
トンネルを抜けるとってのはまさにこんな感じなんだろう。
足元には2cm程度の雪が積もっており、踏むとギュムギュムと可愛い音がする。
景色だけ見れば非常に綺麗で思わず見とれてしまうぐらいだけど、これだけの雪が積もっていると足元の状態が分かりにくいだけでなく踏ん張りが利きにくくなるので戦うときも注意が必要そうだ。
たった2cmと侮るなかれ、大都会はこの程度の雪でマヒするって言われているんだからな。
「リル、出てきていいぞ」
入口から少し離れたところで周りを確認しリルを召喚。
ブレスレットが淡く光ったかと思ったら、足元に雪のように白い毛玉がまとわりついてきた。
「ワフ!」
「雪の中にいるとほんとわからないなぁ」
もちろん目とか口元は色が違うのでわかるけれど、そこを閉じてしまえば景色に溶け込めるという事。
これが敵だったらマジで見つけられないぞ。
「それじゃあ索敵は任せた。もし倒せそうな相手だったら遠慮なく攻撃していいけど、とどめは刺さないでくれよ」
「わふ!」
「よし、それじゃあ探索開始だ」
武庫ダンジョンの時は一人だったけれど、今回はリルという心強い仲間がいる。
久方ぶりの単独探索、今回はどんなスキルを収奪できるのか楽しみだ。




