342.氷の迷宮を見に行きました
「ついたー!」
「ここが札幌!そしてあれがかの有名な札幌ダンジョン!」
札幌駅を下車してから一番最初に向かったのはホテル・・・ではなくまさかのダンジョン。
観光名所と名高い大通公園のシンボルであるテレビ塔だが、残念ながら今は登ることが出来なくなっている。
ダンジョンが発生した際に展望エリアに向かうためのエレベーターごと変化してしまい今は見上げることしかできなくなってしまった。
それでも観光名所としての機能は有しているので一般人と探索者が入り乱れる珍しい場所でもある。
そんな一般人に混じってテレビ塔をバックに写真を撮りまくる須磨寺さん、あの七扇さんが若干引き気味だがそんなことお構いなしという感じだ。
なんだろう、普段からハイテンションな人だけどここまでは珍しいな。
「随分とテンション高いな」
「探索者時代色々回ったけど、結局ここにはこれなかったからねぇ」
「つまり観光客と探索者、二つの感情が合わさってハイテンションと」
「まぁ八割観光だけど」
「おい」
「あはは、明日からちゃんと働くから今日ぐらい許してよ。それに和人君だってラーメン食べたいでしょ?」
そりゃここまで来てラーメン食べないわけにはいかないけど、別に今日じゃなくてもかまわないんだが。
「え、ジンギスカンじゃないんですか?」
「桜さんが食いつくのそこ?」
「えへへ、私も楽しみだったので」
「木之元からそっちも頼まれていますから、あとで美味しいお店にお連れしますね」
「ありがとうございます!」
観光気分丸出しの俺達にも嫌な顔せずついてきてくれる柊さん、あの後すぐに確認を取ったら案の定木之元さんが俺に伝えるのを忘れていたらしい。
柊さんにも平謝りをしていたけれど、あっちはあっちで何か弁済があるらしいのでご本人も特に怒っている感じではなかった。
本人曰く昔からそういう事はある人なので諦めているのだとか。
それでも、あとでたっぷり返してもらうからとなんとも含みのある顔をしていたのを俺は見逃さなかったけどな。
「で、結局ここまで来たけどどうする?」
「え?どうするというのは?」
「中見ていかないのか?」
「和人君、さっきB級だから無理みたいなこと言ってなかった?」
「いやー、ここまで来たらせめて入り口だけでも見ておきたいなと思ったんだが・・・ダメか?」
今回の目的はあくまでもD~C級ダンジョン、なので札幌ダンジョンは残念ながら対象外なわけだがここまで来てみていかないのもなぁ。
世界でも類を見ない美しいダンジョンって言われているクリスタルパレス、宮殿と名の付くその姿をぜひとも一度は拝んでみたいわけで。
「わかってると思うけどB級だからね?」
「入口、入り口だけだから!」
「とか言いつつ奥の方も見たいって進むのが目に見えてます」
「ぐぬぬ・・・」
「入口付近は魔物が出ない安全地帯なので大丈夫ですよ。流石に奥まで行くと出てきますけど、木之元の話を聞く限り一階層なら皆さんでも大丈夫かと」
せっかくここまで来て一番有名なダンジョンに入らないなんて考えられない。
まぁ、自由時間もあるだろうからそのタイミングでリルとルナについてきてもらう手もあるんだけど、無断でそれをやるとものすごく怒られるので事前に確認を取ったんだが思わぬところで救いの手が下りてきた。
あの木之元さんが大丈夫と言ってるんだからここはいくしかないだろう。
「そうなのか?」
「一階層の魔物はアイスコボレート程度ですから」
「・・・程度?」
「B級とはいえ所詮はコボレートです。ちょっと数が多いだけですよ」
「本当ですか?」
「強さで言えばC級程度です、そこをいくつも超えている皆さんでしたら大丈夫でしょう」
うーん、それを大丈夫と評価していいかはなんとも言えないけれどもとりあえず行ける雰囲気になったので強引にギルドまで誘導する。
テレビ塔の下に作られた札幌ギルド、まるで観光客用のチケット売り場みたいなんてことは言っちゃいけない。
そういえば探索者用の雑誌にも見た目が残念過ぎるギルドとして名前が載っていた気がする。
B級なんだからもっと豪華にすればいいのに。
「それじゃあ十五分後に集合で」
「本当にいくの?」
「せっかく装備も持ってるんだし、ここまで来て本物のクリスタルパレスを見ていかないのももったいないだろ」
「と言いつつ和人君が見たいと」
「そういうことだな!」
「とうとう隠す事もやめちゃったよ!でもまぁ僕も一度は見てみたかったし、良いんじゃない?」
そんなわけで強引に了承を取り付けて各自更衣室へ。
柊さんには申し訳ないけれど、少しの間待ってもらうとしよう。
「「「「おぉ~~~~!」」」」
御影ダンジョン同様疑似的な空が広がっていて、太陽っぽい光源が宮殿を照らしキラキラと光り輝いているようだ。
最初あれだけ文句を言っていた女性陣もこの光景に感無量の様子、黒い壁を抜けた先に現れたのは巨大な氷の宮殿、そしてその前には同じく氷でできた巨大な庭園が待ち構えている。
今いる場所が少し高くなっていて庭園を見下ろすような感じになっているんだけど、なんていうか迷路みたいなんだよなぁ。
「これはあれか?迷路を抜けないと次に進めないやつか?」
「そうみたいですね。札幌ダンジョンは他と違って階段を下りるのではなく、黒い壁を抜けて階層間を行き来するそうです」
「つまり安全地帯がない?」
「そうなります」
さすが七扇さん、こういうのも事前に調べていたのかスラスラと答えが返ってきた。
今までは階段という安全地帯で休憩をとることもできたけれど、ここから先はそういう概念が無くなってしまうらしい。
それがB級だからなのかはわからないけれどとりあえずそういうところもあるってことだ。
「それじゃあとりあえず行くだけ行ってみるか。前衛はルナとその後ろにリルと俺、殿は桜さんな」
「おまかせください!」
「魔物が出たらとりあえず戦ってみて、ヤバそうなら速攻で退避ってことで」
今日はあくまでも観光、本物のクリスタルパレスを確認できればそれで十分だ。
階段を下りて氷の迷宮へ突入。
思ったよりも通路が狭く二人横並びに歩くのが精いっぱいという感じ、こういう場所では長物を振り回せないだけに魔装銃に切り替えて様子を伺うもスコープを使うほどじゃないんだよなぁ。
それでも柊さんが言っていたように進めども進めども魔物の姿はない。
「いないな」
「誰かが駆除したんでしょうか」
「その可能性はあるけど、それよりも道がわかりにくい」
「目印になりそうなものなにもないですしね。半透明で向こうが見えることもあって、どこを歩いているのかわからなくなります」
因みに殴っても壊れなかったので、破壊して突き進むという裏技は使えないらしい。
最初はそうでもなかったんだが、周りが氷のせいかどんどんと気温が下がってきている。
冷気耐性のある俺は別として皆も我慢できないほどではないみたいだけど、まともに準備もしてこなかったのでここらで引き返した方がいいだろうか。
「そろそろ戻るか」
「え?でも、戦ってませんよ?」
「俺とリルはともかくみんな寒いだろ?」
「寒いですけどこれぐらいは我慢できます」
「僕も大丈夫だよ?」
「とはいってもなぁ、すぐに戻ることも出来なさそうだし・・・ん?」
さっきまで明るく空?を照らしていた光源に雲のような何かがかかりあたりが薄暗くなる。
ダンジョンに雲の概念はあるのだろうか、そんなことを考えていた次の瞬間。
「はぁ!?」
光源を隠した何かが突如霧散、それと同時に空から大量の何かが降ってきた。
もしかして魔物がいなかったんじゃなくて、まだ出てきてなかったってことか!?
「入口まで走れ!」
こんなダンジョンのど真ん中で挟撃されるとかマジで勘弁してほしい。
俺の合図に桜さんが走り出すも透明な壁に来た道がなかなかわかりづらい。
これがB級ダンジョン、空からの強襲というまさかの洗礼に一気に気が引き締まるのだった。




