341.北の大地に降り立ちました
見渡す限り森・森・森。
北の玄関口である千歳は周囲を原生林に囲まれた特殊な場所にある。
ダンジョンができる前は札幌とも高速道路でつながっていたらしいけど、ダンジョンができた際の氾濫によって交通機関は修復不可能なほどに破壊されてしまった。
元々土地が広くどこにダンジョンがあるのかわからないために氾濫が氾濫を呼び、周囲は魔物であふれる死の森に代わってしまったそうだ。
現在もダンジョンの総数は判明しておらず、定期的に駆除はされているもののどこから魔物が出ているかは一切不明。
土地が広いというのも考えものだなぁ。
幸い飛行系の魔物はおらず、彼らも不用意に飛行機を狙うことはしないらしく現在は空港周辺を巨大なフェンスで囲う事で辛うじて機能を維持、空港への移動は地上ではなく地下を通る魔導列車で行われている。
「さて、到着っと」
「やってきました北海道!食べるぞー!」
「「おー!!」」
そんな魔物はびこる大森林を見た後だというのにこのテンション、いつもの三人はともかくルナまでハイテンションなのは中々に面白い。
持ち込んだ探索道具が無かったら見た目は完全に観光客、まったく困ったもんだ。
「いや、旅行じゃないから。その辺わかってる?」
「もちろんわかってますよ。今回の目的はローン返済のためのダンジョン走破、その土地土地の名産品を食べながら広い大地を駆け巡るんですよね!」
「違わないけど・・・なんだかなぁ」
「わふぅ」
「こんな時まともなのはお前だけだよリル」
「あ、リルちゃん!あそこにディヒーアの干し肉が売ってるけど食べに行く?」
「グァゥ!」
まさかの1秒裏切り、彼女もまた花より団子・・・探索より観光のようだ。
まぁ一分一秒でも長くダンジョンに潜りたいわけじゃない、オンオフの切り替えがあってこそ最高のポテンシャルを発揮できると思っているので多少は観光するつもりではいたけれども、どうやらそれでは足りないらしい。
俺はまぁ金が稼げたらそれでいいのでスポンサーのご機嫌を取るためにも今日は好きにさせるとしよう。
それから一時間ほど空港内を思う存分堪能した俺達はそのまま魔導列車に乗り込み札幌市内へ移動を開始、大森林の影響を避けるべく地下100mまで一気に潜って移動する魔導列車を導入するまでにどれだけの困難があったかは想像に容易い。
これが出来たことで
「これも魔石で動いているんだったか?」
「そうです。電気を必要としませんので魔石のある限り走り続ける事が出来ます。馬力もあるので地下深く潜ってもしっかり上ってこれるそうですよ」
「見た目は昔の蒸気機関車、煙突は何のためにあるんだ?」
「・・・ロマン?」
「知らないんかい!」
須磨寺さんが私知ってる!みたいなドヤ顔をするからてっきり答えが変えてくるのかと思ったのだが、まさかの返事。
相変わらずだなぁこの人は。
「あの煙突は魔石による余剰な出力を外に逃がすためにあるんですよ」
「そうなんですか?」
「本当はそのまま動力にすることもできるそうですけど、それをすると私達がぺちゃんこになっちゃうそうです」
「なるほど、Gに耐えられないのか」
突然後ろの席にいた男性が横から顔を出して答えを教えてくれた。
見た感じ木之元さんと同い年ぐらいだろうか、見た目が幼い感じなので実年齢はなんとも言えないけれど雰囲気がどことなく似ている気がする。
「突然ごめんなさい、気になるようだったのでつい・・・」
「いや、俺も答えを聞けてすっきりした。ロマンじゃないってことがわかっただけでも大収穫だ」
「ロマンもある意味間違いないかもしれませんけどね」
「ほら~、僕だって間違ってなかったでしょ?」
「いや、そもそも答えになってないから」
ロマンを否定するわけじゃないがあくまでも理由を知りたいのだから嘘でもそれっぽいことを言ってほしかった。
「その荷物、皆さんは探索者ですか?」
「あぁ、観光半分って感じはあるけどD~C級のダンジョンをいくつか回るつもりだ」
「そうでしたか、それでしたらクリスタルパレスには入られないんですね」
「札幌ダンジョンだったか?あそこはB級だからなぁ、行けなくはないけど今回は候補に入ってないんだ」
札幌ダンジョン、またの名をクリスタルパレス。
残念ながらクリスタルではなく氷でできたダンジョンではあるけれど、篠山ダンジョンや氷ノ山ダンジョン次ぐ冷気ダンジョンとして名高い。
ぶっちゃけ俺とリル、ルナの三人ならこの前の宝物庫ダンジョン同様に何とかなるかもしれないけれど、B級ダンジョンともなると普通の魔物もかなりの強さなのでそう簡単にいきます!とは言えないんだよなぁ。
そこに潜れるのは装備を完璧に整えた一部旅団ぐらいなもの、ほぼ彼ら専属と言えるダンジョンだ。
一応Cランクの俺達なら入ることはできるので機会があればさわりだけ見てみてもいいかもしれない。
「札幌ダンジョンを愛称で呼ぶなんてダンジョンにお詳しいんですか?」
「いえ、詳しいって程では」
「見た感じ一般人って感じでもないが、もしかして同業とか?」
「元、ですね今はもう潜っていないんです。知り合いに人が来るから面倒を見てほしいと頼まれたので千歳まで行ったんですけど、一時間経っても来なかったので戻るところなんです。ちょうど皆さんぐらいの年齢だと聞いているんですけど・・・」
ん?
一時間待ってこなかった?
いや、別に迎えがいるとかそんなことは誰にも言われていないし北の大地に向かう事を知っているのもごく少数、大道寺社長が鈴木さんみたいにドワナロク支店の誰かをよこした可能性は否定できないけどそれなら桜さんが知っているはずだ。
にもかかわらず嫌な感じがするのはなぜだろうか。
「あー・・・因みにその探していた人ってのは?」
「白狼の盾っていう話題の旅団なんだ。全部で5人いて白い狼を連れているからすぐにわかるって聞いていたんだけどおかしいなぁ」
「えぇ!?」
「知ってるのかい?」
「知ってるっていうか・・・なんていうか・・・」
全員の目線が俺に集まる。
確かにリーダーは俺だけどそんな話一切聞いてないし、それなのにこんな親切な人に知らず知らずのうちに迷惑をかけているとは知らなかった。
運賃と動物乗車禁止の兼ね合いでリルとルナには中に戻ってもらっていたんだけど、どうやらそれがあだになってしまったみたいだ。
「すまん、白狼の盾は俺達だ」
「え?君たちが?」
「1人は俺の指輪に、目印の白狼は乗車の兼ね合いでブレスレットの中なんだ。だが、迎えがあるっていう話は誰からも聞いてないんだけど・・・いったい誰に言われたか教えてもらっていいか?」
「武庫ダンジョンの木之元主任と言えばわかるかな」
「木之元さんが?」
いやいやマジで初耳なんだが?
でもあの人が俺達に黙ってそんなことをするとは思えないしどこかで伝達が漏れたとしか考えられない。
確認しようにもここは少なくとも地下数十メートル下、電波が入らないので確認のしようがないわけで。
「どうやら行き違いがあったみたいだね」
「本当に申し訳ない、見ず知らずの俺達にこれだけ親切にしてくれた人に迷惑をかけていたみたいだ」
「いやいや知らなかったのなら仕方がないよ、でもここで合流できてよかった。僕は柊、木之元から君たちをよろしく頼むと言われた元札幌ギルドの職員さ」
「新明だ。詳しい話は木之元さんに問いただすとして、とりあえずよろしく頼む」
思わぬところでつながった縁、かくして波乱万丈になるであろう北の大地の旅はここから始まったのだった。




