34.小箱の中身は意外な物でした
ダンジョン走破から二日。
手続きを終え、買取金等をもらった後はそのまま家に戻ってすぐ眠ってしまったようだ。
桜さん的にはお祝い的なのを考えていたみたいだけどもそれをする元気もなく気づけば翌日の夕方、あれこれしようと思いながらも結局そのまま寝てしまいあっという間に朝がきていた。
肉体的にというよりも精神的な疲れが原因だと思うんだけど、前に一気にレベルが上がった後もこんな感じだったからもしかするとそういうのが原因なのかもしれないので、今度ギルドに行ったら聞いてみよう。
「おはよう」
「おはようございます和人さん!体調はもう大丈夫ですか?」
「お陰様で二日寝たら大分スッキリしました」
「よかった、今日も体調悪そうだったらお医者様を呼ぼうかと思っていたんです」
「心配してくれてありがとう」
身支度を済ませてリビングへ行くと桜さんが太陽のように明るい笑顔で出迎えてくれた。
昨日の夕方飲み物を取りに行ったときに一度話はしているけれど、その時もひどい顔をしていたようで随分と心配をかけてしまった。
「手伝うよ」
「ダメです、和人さんは座って待っていてください」
「でも・・・」
「ダメです」
一度席に座ったもののなんだか申し訳なくなって立ち上がったのだが、強引に再び着席させられてしまった。
そしてすぐに温かな朝食が運ばれてくる。
「何から何までありがとう」
「私がしたくてやってるだけなんで気にしないでください。さぁいただきましょう!」
「いただきます」
何もしなくても運ばれてくる明るい食事、それが可愛い女の子と一緒ともなればさらにおいしく感じるものだ。
丸一日何も食べていなかったのでぺろりと完食して、食後のコーヒーのお替りまでいただく。
「今日はどうしますか?」
「元気になったしそろそろ次に向けた準備もしないとなぁ。宝箱の中身も売りたいしやっぱりドワナロクかな、桜さんの予定は大丈夫?」
「今日は特に用事なかったので、すぐに準備しますね!」
「そんなに急がなくてもいいからね」
ダンジョンを走破したとはいえE級ダンジョン、走破報酬もそこまで高くないのでいつまでもやすんでいるわけにもいかない。
流石に後片付けはやらせてもらい、部屋に戻って買い物の準備をしていると机の上に置いた赤い小箱が目に留まった。
そういえばアイアンゴーレムからこんなの拾ってたな。
あの時は鍵がなかったからどうにもできなかったけど今は両方そろってるわけだし・・・。
書類机の引き出しを開けて鍵を取り出しゆっくりと鍵穴に差し込むと、予想通り綺麗にはまり軽くひねるとカチン!という音と共に小箱の蓋が微かに開いた。
お!開いた開いた、中身は何かなっと。
小箱をパカッと開けると中に入っていたのは銀のブレスレット。
触った感じ普通の銀よりも軽くて触っている部分がほのかに温かい。
女性用のサイズかなと思いきや、切れ目が入っているのでそこが広がると何とかはめられそうだ。
正直なところ能力の上がる指輪とか補助スキルの使える魔道具的なのが良かったんだが、そういうのについている石が無いのでおそらく違うんだろう。
「見た感じはただのブレスレット、とはいえドロップ情報がない物だけにどうしても期待しちゃうよなぁ」
誰にいうわけでもなくそんな言葉が出てしまった。
単独走破という他の誰もやらないような偉業を達成したうえでドロップした物だけにどうしても期待してしまうが、蓋を開けてみれば効果が無かったなんていう可能性はある。
鑑定スキルがないのでどういう物かはわからないけれどE級ダンジョンで手に入る程度なんだからそこまですごい物じゃないんだろう。
というかそういう風に思っておかないと後で落胆してしまいそうなので事前に自分の心をしっかりケアしておかなければ。
「和人さ~ん、準備出来ましたよ~」
「ごめん、すぐに行くからちょっと待ってて」
扉の外から桜さんの声が聞こえてきたので慌ててブレスレットを腕にはめて、カバンに必要なものを詰め込んで外へと飛び出す。
カバンって言っても探索用なのでそこそこ大きいしその中には例の長剣も刺さっているので結構重かったりもするけど、レベルが上がったことにより力もかなり上がっているのかそこまで重くは感じなかった。
むしろこれが当たり前、ならこのままレベルが上がるとどうなってしまうんだろうか。
「お待たせ」
「私もさっき準備しおわった所ですから・・・あれ、ブレスレットなんてつけてましたっけ」
「ん?あぁ、ちょっとね」
慌てて隠すのも変なので特に気にしていないそぶりでそっとブレスレットに手を乗せる。
「何か特別なやつなんですか?」
「んー、さぁ」
「さぁ?」
「この間手に入れたんだけど、効果までは確認してないんだ。機会があったら一度見てもらわないと」
慌ててつけてしまったのだが引っ張ると外れる感じはあるので呪われているわけではなさそうだ。
なんとなく温かい感じはするし雰囲気的に悪い感じはしないのでおそらく大丈夫だろう。
「じゃあ後で一緒に見てもらいましょう」
「そうだね、まぁそんないい物じゃないと思うけど」
「わかりませんよ~、もしかしてすごい力があったりして!」
「そうだといいんだけど」
目ざとくブレスレットを見つける桜さん、女性ってなんでこういうところにすぐ気づくんだろうなぁ。
そんなに派手な色でもないし長袖なのでそこまでがっつり見えているわけでもない、にもかかわらず一番最初に指摘できるんだから不思議なもんだ。
そんなことを考えながら家の前でタクシーを止めてドワナロクへ直行する。
今までだとタクシーなんてもったいなさ過ぎて使えなかったけれど、ある程度お金を持つようになると時間をお金で買う感覚になるからか捕まえることに何の違和感も覚えなかった。
まぁ、抜き身の長剣を持ったまま電車に乗るのがはばかられたってのもあるんだけど。
「ありがとうございました」
ドワナロク前でタクシーを降りて入り口の方を見ると探索者に限らず多くのお客が今日も探し物を求めて中へと吸い込まれていく。
探索道具は問題ないとして今回買うのは主に武器と防具。
マントと靴は気に入っているけれど鎧とかその辺は探索者になる前とほとんど変化がない。
自分の命を守るものだけにその辺もしっかり用意しないといけないのだが、どうしても武器の方にウェイトが向いてしまうんだよなぁ。
攻撃は最大の防御というだけあって、武庫ダンジョンではほとんど攻撃を受けることはなかった。
もちろんヤバかった場面はいくつかあったけれどそれでも収奪スキルのおかげで事なきを得たので、まずはその武器をしっかりと決めてしまおう。
「楽しみですね」
「次でも使えるようなのが見つかるといいんだけど」
「みつかりますよ!だってドワナロクなんですから」
「ま、それもそうか」
「それに、もしなかったとしてお父様に言って探してもらうことはできますから。それじゃあ行きましょう!」
桜さんに引っ張られるようにドワナロクの入り口をくぐる。
その足で向かうは武器売り場、事前連絡なしで向かったのだがフロアに到着するとなぜかあの人が俺達を待っていてくれた。
 




