337.夢を実際に確認して
リルの口に消えていくオーブ、あまりにも突然の事に誰も反応することはできなかった。
まるでルナの体に魔力オーブが吸い込まれていったかのよう、確かにものとしては魔力の塊ではあるけれどまさかリルが吸収するとは思っていなかった。
「リルちゃん!?」
「わふ?」
「わふじゃねぇよ、大丈夫なのか?」
ルナの時は突然しゃがみ込んで倒れるっていう大騒ぎになったけれども、本人はいたって普通。
なんなら何かありましたか?的な感じですらある。
因みに今のオーブ、ギルドでは700万円で買い取らせてくれと言われた品だったりする。
それをペロリと一口で平らげ・・・たわけではないけれども、それが一瞬で消えてしまうのが中々にシュールというかなんというか。
「まさかリルちゃんが食べちゃうなんて」
「特に変化はないみたいですけど、さすがフェンリルっていう事なんでしょうか」
「一応魔力の塊だったらしいし何かしらの変化はありそうなもんだけどなぁ、この場合どうなるんだ?」
「またおっきくなっちゃうとか!」
「それはまぁ・・・あり得る話だ」
前にリルが成長したのは確か篠山ダンジョンの氾濫を収めた時だったっけ、あの時ダンジョンに満ちていた冷気をリルが全て吸収したことで成長したっていう感じだったけれど、あの時の総量と比べるとオーブ一個ではまだ足りないのかもしれない。
ということは今後まだ大きくなる可能性を秘めているという事、じゃないと吸収する必要ないはずだ。
リルがもっと強くなる、それは俺達にとって非常に素晴らしいことなんだけども・・・それでも一個単価が高すぎるよなぁ。
結局リルに大きな変化はなく、持ち帰った装備の所有者も決定したので話し合いは終了。
ケーキを食べたお腹がいい感じにこなれてきたので久々にみんなで出かけることになった。
今日と明日は完全オフ、ギルドにもいく予定はないので久々にのんびりする・・・はずだったんだが、なぜ俺はこんなところにいるんだろうか。
「皆様、ようこそお越しくださいました」
「予約していました大道寺です」
「お話は伺っております。今日は下見に来られたとか、ぜひ当マンションのすばらしさをご体験くださいませ」
「今日はよろしく願いします」
皆で家を出たところへ黒塗りのリムジンが登場、何事かと思ったらさも当たり前のように桜さんが乗り込み、それを見て皆が続々と乗り込んでいく。
ここで乗らないという選択肢はなく、結果連れられるままやってきたのはとあるタワーマンションのエントランスだった。
入り口に着くなり、中から背の高い超絶イケメンがスーツ姿で登場、モデルか何かでもやってるんじゃないかと思うぐらいのビジュアルなんだが、まさかこの人が案内してくれるのか?
探索者専用タワーマンション。
探索者なら一度は夢見る探索者の探索者による探索者の為の住居。
もちろん俺もその一人で、ここを購入するために探索者になったって言っても過言ではない、夢はでっかくタワマン!なんて言っていたころが懐かしい。
確かに買うつもりだし一度は見てみたいと思っていたけど、なんでいきなりここに?
「あー、桜さん?」
「どうしました和人さん」
「なんで俺達はここにいるんだ?」
「なんでって、下見の為ですよ?」
「誰が買うんだ?」
「和人さんが買うんですよね?」
「いや、まぁそのつもりなんだけど・・・いきなり連れてこられて何が何やらさっぱりなんだが」
もっとこう心づもりというか心の準備っていうか、確かに買うつもりではあったけどいきなり連れてこられても感情がついてこれていない。
動揺する俺とは対照的に桜さんは非常に落ち着いた感じ、他の女性陣も興味深そうにエントランスを見学して回っている。
「こういう機会でもないとなかなか見に来ることはないなと思って、お父様にお願いして見学を組んでもらったんです。因みにここを作ったのも大道寺グループなんですよ」
「マジか」
「大道寺様のご息女だけでなく、今話題の白狼の盾の皆様をご案内できるなんて夢のようです」
「え、私達をご存じなんですか?」
「それはもう!ここにくるお客様の中でもすごい旅団が出てきたと話題になっていますよ、もちろんその中心におられるのは新明様です。そんなすごい方に当マンションをご検討いただいているとお聞きし我々としても非常にうれしい限りです!」
まさかの大道寺グループが作ったとは知らなかった。
だからこそ今回のようにいきなり見学とかができるんだろうけど、俺達ってそんなに噂になっていたのか。
「時間もありますし早速部屋を見せてもらえますか?それから探索者用の練習場と各種使用できる施設の説明など、一通りお願いします」
「かしこまりました、質問は随時お受けしておりますので遠慮なくどうぞ。皆様も気になることがありましたらいつでも聞いてくださいね」
「は~い!」
イケメンなだけでなく笑顔もまた素晴らしい、俺が女性なら思わずドキッとしてしまっただろう。
そんなイケメンに誘導されながら最初に向かったのは上層階の部屋、間取りは3LDKプラスウォークインクローゼット的なものから探索道具の保管場所まで別に用意されている。
武器なんかも鍵付きの収納にしまえるようになっていて、防犯対策もばっちりだ。
窓から見える眺望も素晴らしくちょうど梅田ダンジョンが正面に見えている。
うーん、日中でこの景色ってことは夜はかなりきれいなんだろうなぁ。
どの部屋も最低12畳はありそうな広さ、これぞタワマンってな感じだ。
昔住んでいたあのボロアパートが玄関と同じぐらいだろうか、一人で住むには間違いなく広すぎる。
「続きましてマンション内の施設をご確認いただきます。入居者様はどの施設も無料でご利用いただけますし、お連れ様やご友人の方もご一緒であればご利用いただけます。ではまずはジムから、続きましてプールと修練場へと進んでいきます」
「修練場もあるのか」
「もちろんです、街中で武器を振り回すわけにもいきませんしかといってダンジョンまで足を運ぶのは大変ですから、予約制にはなりますがパーティーの皆様と一緒に使用いただいて連携を確認していただくことも可能です。そのあとはプールでリフレッシュしていただき、最後は温浴施設で汗を流していただくことが多いですね」
「さすが探索者専用マンション、至れり尽くせりだねぇ」
「道具の買い付けや準備などはロビーのコンシェルジュにお申し付けいただけましたら事前にご準備いたします。もちろん少々のお代金は発生しますが、買い物に行く手間などを省くことができるかと」
少々の代金ねぇ、ここを買うような金持ちはその程度の金額で文句を言う人はいないんだろうけど、俺みたいな貧乏人は間違いなく自分で買いに行くんだろうなぁ。
そんな感じで各施設の見学が進み、最後にまたエントランスに戻ってきた頃にはもう夕方になってしまっていた。
ただ見て回るだけでこの広さ、マジですごいな。
「如何でしたでしょうか」
「いや、聞くのと見るのとでは大違いだった。特にあの修練場がいいな、リルのブレスでも傷まないとなるとかなり無茶ができそうだ」
「あまり派手にされますと修繕費を請求しますのでくれぐれもお気をつけください」
「ま、そりゃそうか」
タワマンツアー無事終了、各々感じていることは違うだろうけど概ねプラスの感情じゃないだろうか。
自分の目指すべき場所がここにある、この後問題になってくるのはやはり値段だよなぁ。
「ねぇねぇ、今の部屋でいくらになるの?」
「今回見ていただきましたのは空室の中で最上級のものになります。管理費などはのぞきますが、ざっと計算して4億。もちろん大道寺社長のお知り合いでのあり弊社がスポンサーをしているとなるとそこからのお値引きは入りますが3億5千万ぐらいではないでしょうか。それに加えて管理費と修繕積立費が毎月50万程かかります」
高い、と昔の俺なら言っただろうけど今の金銭感覚だと決して高くない。
むしろすんなり手に入りそうな感じすらある。
頭金は3000万、それにローンを組めば10年ほどで完済出来てしまうだろう。
億単位の買い物が10年で払い切れるって、やっぱり探索者って儲かるんだなぁ。
「思ったほど高くないね」
「えぇ!この金額を高くないって・・・綾乃ちゃん買うの?」
「んー僕一人だと無理だけど凛ちゃんが一緒に払ってくれるならいけるかも」
「そこは男らしく自分が、じゃないのか?」
「運搬人の僕に何を求めているのかなぁ和人君は」
「今の分配ならいけるだろ?」
「そうかもだけど、毎日ダンジョン生活になるよ?支払いに追われる生活はちょっとやだなぁ」
男がっていうところにはつっこまないんだなと思いながら、毎日ダンジョンに潜ればできてしまう事実に驚いてしまう。
確かにD級でも毎日潜れば月300万は稼げるだろう。
年間3600万の10年で3.6億、そう考えると決して不可能ではない。
俺の夢が目の前にある、実際に見ることで益々現実味を帯びてきた。
あとは決断するだけなのだが・・・マジでどうしようか。




