328.仕掛けた罠を回避されました
左の通路では地雷と目玉に翻弄され右の通路では巨大な蜘蛛に襲われる。
最初こそ優勢に戦えたけれど途中で変わるのがダンジョンという場所、しかもここは宝物庫ダンジョン【雪盲】の二階層だ。
糸を張り巡らせて機動力を奪うのは他の蜘蛛系の魔物でもやることで、この場にふさわしい攻撃はまだしてきていない。
「ん?ルナ、下がれ!」
四本目の足を潰し終えあと一本でバランスを崩せる、そう判断したルナが体の下に入り込もうとしたその時白蜘蛛が口から大量の白い糸を吐き出した。
幸いにもすぐに気づけたのでルナがそれを浴びることなく横っ飛びで回避することに成功、だが大量の糸のせいで分断されてしまった。
更には吐き出した糸をそこら中にまき散らし地面が真っ白になってしまう。
その間にも残った足がルナに襲い掛かり大楯を構えて猛攻に耐えている。
助けに行かなければと思いながらもまだ突進のリキャストタイムが終わらない、となるとさっきのコンビネーションは使えないわけで。
いや、それよりもルナの所に急がないと危険だ。
再び火纏いを発動し走り出そうとしたその時、リルが俺の腕を噛み止められてしまった。
「ルナを助けに行かないと」
「グァゥ!」
「なんだ、だめなのか?」
ルナが戦っているのにそこに行かせないのには何か理由があるはず、心落ち着かせて一歩後ろに下がるとリルが地面を覆い尽くす大量の糸に向かってブレスを吐きかけた。
炎で燃やせるのは分かっているけれど氷ではどうにもならない・・・と思いきや、足元を覆い尽くす蜘蛛の糸が真っ白い氷に覆われ本当の姿を現した。
「あれはトゲか?」
「わふ!」
「なるほど、さっきの感じで不要に突っ込んだらあれがぶっ刺さるというわけか」
燃やせる糸をまき散らしたように見せかけて実際は違う物を隠しているとは中々の策士、あそこで止めてもらわなかったら雪のような白い地面が真っ赤な血に染まっていことだろう。
だがそれもリルのブレスにより姿を現し、もう引っかかることはない。
【フレイムホースのスキルを使用しました。ストックは後六つ半です】
改めて火纏いを発動し、糸を燃やしながらところどころ隠れているトゲを避けつつ進んでいく。
予想通り少々の炎では燃えないようでリルのブレスが無かったらマジで大けがをしていたことだろう、油断禁物とはまさにこのこと、因みにリルは助走をつけてひらりと飛び越えてしまった。
そんなこんなで無事に白蜘蛛を撃破、図体は大きくても階層主ではないので確実にダメージを与えていけば何とかなる。
【アイススパイダーのスキルを収奪しました。ニードルスレッド、ストックは後九つです。ストック上限はいっぱいです】
収奪スキルはさっきの罠、うーん・・・中衛的な立場ならこれをうまく活用できたかもしれないけど前線で戦いながら罠をまき散らすのはむずかしそうだ。
とりあえず確保しておいて使えそうなら一度使ってみよう。
さっきは途中で引き返したけれどここには例の地雷はなかったので一応通路の奥まで確認、途中もう一体白蜘蛛と戦うことになったけれど残念ながら行き止まりだった。
残るは中央の通路だけ、今までの流れだとここにも別の魔物がいるんだろう。
入り口は他と変わりない大きさだったのに奥へと進むと明らかに通路は広くなっていく。
つまりここが正解、そしてこの広さを必要とする魔物がいると考えることもできる。
さらに広さと反比例するかのようにだんだんと通路が暗くなっていくんだが・・・。
「ワフ?」
「来たか?」
リルが反応したのと同時に薄暗い通路の奥をにらみつけ魔装銃を構える。
【アイススパイダーのスキルを使用しました、ストックは後一つです】
【アイスモアのスキルを使用しました、ストックは後三つです】
折角ならと前方に罠を設置、奥はさらに暗くスコープ越しにはかすかに見える程度だがいつまでたっても魔物が来る気配はない。
「おかしいな、来ないぞ?」
「わふぅ」
「ルナは何か感じるか?」
フルフル。
「リルの勘違いっていう感じじゃなさそうだが、こう暗いとよくわからんな」
折角罠を張ったのでリルに先行してもらって様子を見てきてもらう。
俺とルナは定位置で待機、もし魔物が追いかけてきたらいつでも狙撃できるよううつぶせになって準備をする。
待つこと数分、ドドドドという足音が地面を伝って腹に響いてきた。
スコープ越しに見えるのはリル、それと彼女と同じような白い狼。
シルバーウルフやアイスウルフともまた違う感じだがともかく狼系の魔物であることに間違いない。
それならあの罠にも引っかかるはず、変則的な動きで敵を引き付けつつギリギリのところで罠を回避。
それを知らずに追いかけてきた四体の狼がその上を・・・通過した。
「は?」
確かに罠の上を通った、何なら踏んでいるところまで確認した、なのに罠は発動しなかった。
「くそ、どうなってんだよ!」
慌てて魔装銃を投げ捨てて立ち上がり棍を構えたころにはもう目の前までそいつらが近づいていた。
【恒常スキルを使用しました。突進、次回使用は十五分後です】
振り上げられた爪が直撃するよりも早く突進スキルで一気に距離を詰め、短く持った棍で腹を思い切り殴りつける・・・はずが、振りぬいたはずなのに殴りつけた感触がない。
にもかかわらず爪を避けきれなかった俺の上腕はパックリと避け、鮮血が噴き出すのがわかった。
「なんで当たらないんだよ!」
罠も当たらなければ攻撃すらも当たらない、にもかかわらず向こうの攻撃は命中する。
そんなことがあっていいのか?
【恒常スキルを使用しました。回復(小)、次回使用は三十分後です】
即座にスキルで傷口をふさぎ次に備える。
後ろを振り向くと着地した狼が血の付いた自分の爪をペロリと舐め、にやりと笑った。
リルが別の奴に襲い掛かっているけれど効果はいま一つ、同じくルナも攻撃を受け止めたはずが大楯を通り抜けて鎧に傷がついている。
一体どうなっているんだろうか。
「落ち着け、考えろ。なんで向こうの攻撃は当たるんだ?」
余りにも理不尽な状況だがそれには必ず理由があるはず、正面の狼を警戒しつつその奥で戦うリルの方を見ると、相手は自分より一回り大きいリルの爪を避けることなくスルー、だがすれ違いざまにリルの毛皮には血がにじんでいる。
まるで最初から避ける必要がないとわかっているような動き、かと思いきやブレスを吐かれると素早く後ろに下がった。
リルもそれに気づいたのか小刻みにブレスを吐くも、氷系の魔物にはほとんど効果がない。
「つまりこういう事か?」
【エクスプロージョンのスキルを使用しました。ストックは後七つです】
再び俺に突っ込んでくる白い狼に向けて火炎放射を発射、するとさっきまで避けようともしなかったのに明らかに炎から距離を取ろうとする。
その先にいるのはルナ、だけど彼女の体当たりは華麗にスルーされてしまった。
ここから導き出される可能性は二つ、属性攻撃しか受け付けないか、それとも・・・。
「こいつら実体がないぞ!」
ブレイザーやゴーストと一緒で実体を持たないため物理攻撃は効かない、倒すには属性攻撃か魔法を打ち込むしかないけれど今のメンバーだと俺しかダメージを与えられなさそうだ。
なるほど、だからさっきの罠はスルーされたのか。
ここで戦うと逆に自分たちが罠に引っかかりかねない、かといって引き返しても倒さなければならないことに変わりはない。
ならば行く場所は一つ。
「奥だ!」
「わふ!?」
「大丈夫、ついてこい!」
どんどんと暗くなっていく中、背後から迫りくる白い狼の吐息を聞きながら罠を飛び越え俺達は走り続けた。




