31.ボスと激戦を繰り広げました
武庫ダンジョン最下層。
ここで待ち構えているのは階層主アイアンゴーレム。
五階層のストーンゴーレム同様コアとなる部分を破壊しなければ倒したことにならないため他の魔物と比べても非常に難易度が高く、新人探索者がよく使う鉄製の装備ではかろうじてストーンゴーレムを撃破できてもアイアンゴーレムには全く歯が立たないため、隕鉄や鋼鉄をはじめとしたより上位の装備に切り替えなければならない。
因みにいうと俺の持っている魔鉱石を使った武器での討伐履歴はない。
正確に言えばこんな装備を使っている探索者が少ないってことなんだろうけど、硬度だけで言えばアイアンよりも上なので実際の所やってみないと何とも言えないよなぁ。
無理そうなら早々に撤退する必要があるのだが、今の俺にはとっておきのスキルがあるからそれを使ったうえで無理そうなら考えよう。
巨大なホールの真ん中には真っ黒い塊が鎮座しており、ストーンゴーレム同様一定距離まで近づくとドドドドという地響きと共に石が持ち上がり人型に変形した。
「さぁ、お手並み拝見と行こうじゃないか!」
武器を構えて真っ黒いゴーレムと対峙するのだが、ただ向かい合っているだけで威圧感が半端ない。
前に行くことが出来ず何もしていないのに後ろに下がりたくなるのをぐっとこらえていると、突然ゴーレムが動き出した。
「ちょ、速いって!」
まるで肉食動物のように体を沈めたと思ったらバネがはじけるようにものすごい速さでこちらに向かって突進してくるのを横っ飛びでかろうじて避ける。
さっきまで自分が立っていた場所は浅くえぐれており、そのまま立っていたら壁の向こうまで吹き飛ばされていたことだろう。
何トンもありそうなあの巨体が突っ込んでくるとか少しでもかすれば大ケガ間違いなし、トラックが突っ込んでくる恐怖を何度も味わわされることになるのか。
「これを避けながらスキル使うのかよ・・・。」
華麗に避けたもののゴーレムはこちらを振り向き再び同じような行動をとり始める。
向こうは疲れ知らずだがこっちには体力の限界ってもんがあるだけに、いつまでも逃げ回っているというわけにもいかない。
とはいえ下手に突っ込めば即死すらしかねない相手だけにとりあえず避けられる攻撃なら無理をしない方がいいのでは、そんな保身すら働いてしまう。
何をするにしてもまずは情報収集から、そう覚悟を決めてゴーレムの動きに全集中するのだった。
そんなことをしながら気づけば数時間が経過していた。
さすがにその時間逃げ回るのは不可能なので一度部屋の外まで撤退してから休憩を取りつつゴーレムの動きを把握する。
主な動きは突進、振り下ろしと薙ぎ払い、そして五体投地。
いや、マジで両手を広げたかと思ったらそのままぶっ倒れてくるんだから驚いた。
あの下にいたら間違いなく即死、足でも挟まれたら即骨折の中々に恐ろしい技である。
しかもそれが予備動作なしでくるんだから気を抜くことすらできないのだが、その瞬間だけは背中が無防備になり起き上がるのも遅いことが分かった。
他の時にも何度かすれ違いざまに攻撃してみたものの予想通り魔鉱石程度では傷はつけられてもそれ以上の効果は得られないようだ。
つまりこのまま戦っても無駄なわけだが、それはスキルを使わなかったときの話でそれを使えばすべてが変わる・・・かもしれない。
「よし、四回戦と行きますか」
睡眠を含めて少し長めの休憩をとったので筋肉も大分休めたし疲れもそれなりに取れた気がする。
腕時計を確認するとタイムリミットは残り3時間。
次からスキルを使ってみるので、もしそれで難しいようならおとなしくあきらめよう。
まぁスキルを使うって言ってもやることは一つだけ、タイミングさえあれば一発で終わることだろう。
準備体操をしてから再び扉をくぐり再び塊に戻ったアイアンゴーレムを起動させる。
「さぁ、最後の勝負だ」
全身を震わせる咆哮に臆することなくこちらも気合を入れなおした。
狙うは五体投地後の無防備状態、それを誘発するためには目の前まで行って攻撃しなければならない。
まずは最初の突進を余裕をもって避けつつ振り返ったところにボムフラワーを投げ込み爆破、もちろんこれではダメージを与えられないが一時的に視界を失うようなのでその隙をついて一気に近づき顔や足なんかを棒で叩きまくる。
どれだけ必死に叩いてもダメージを与えられないのがなんとも悲しいが、とりあえず技を使わせないことにはどうにもならない。
流石に一回では反応してくれず再び距離を取りながら突進を避け、振り下ろしや薙ぎ払いを警戒しつつ接近、地道に攻撃を行い何度目かの突進を避けたところでその時はやってきた。
突然急ブレーキを踏んだように突進を止め、両手を広げながらこちらに倒れてくるアイアンゴーレム。
それを横っ飛びで避けながらそのまま背後に回り立ち上がろうと膝立ちになった瞬間を狙ってスキルを発動させた。
【フレイムリザードのスキルを使用しました、ストックはあと三つです。】
【フレイムリザードのスキルを使用しました、ストックはあと二つです。】
【フレイムリザードのスキルを使用しました、ストックはあと一つです。】
【フレイムリザードのスキルを使用しました、ストックはありません。】
無防備な背中めがけて連続で放たれる真っ赤な火球。
ストックしていた四つすべてが見事に着弾し、真っ黒だったアイアンゴーレムの背中は赤くなり離れていてもわかるぐらいの熱気を放っている。
一発では変化が無くても四発ともなればいやでもそこが熱くなってしまうもの、鉄も熱すれば柔らかくなるからそこを攻撃すれば・・・とも思ったのだが、それだけじゃどうにもならない相手だ。
ならばどうするか、ここに来るまでに編み出したとある仮説をもとにもう一つのスキルを発動させる。
【ブリザードイーグルのスキルを使用しました、ストックはあと三つです。】
【ブリザードイーグルのスキルを使用しました、ストックはあと二つです。】
【ブリザードイーグルのスキルを使用しました、ストックはあと一つです。】
【ブリザードイーグルのスキルを使用しました、ストックはありません。】
『前階層で得たスキルは次の階層で絶大な効果を持つ』
その仮説を実証するべく武庫ダンジョン最強コンビの一角ブリザードイーグルの氷風を発動、触れたものを即座に凍らせるほどの冷気が真っ赤に熱せられたアイアンゴーレムの背中に直撃してものすごい蒸気を放ち始めた。
慌てて距離をとっても高温の蒸気が容赦なく襲い掛かる。
これじゃあまるでゴーレムに攻撃されたような感じだが、果たして仮説は実証されたのだろうか。
奴はまだ膝立ちのまま動きを止めているがさっきのように背中が真っ赤になっている感じはなく、元のように真っ黒に戻ってしまっていた。
作戦は失敗、あいつが動かなくなる前に撤退を始めなければ・・・そう切り替えようとしたその時だ。
「あっ・・・。」
蒸気の向こうに見えた光景に思わず声が漏れてしまう。
真っ黒くどのような攻撃も通さなかったアイアンゴーレムの装甲、そのど真ん中にさっきまでなかった亀裂を発見した。
魔鉱石では傷一つ漬けられなかったあの体に確かな変化が起きている。
再び動き出したアイアンゴーレムを前にかすかに見えた希望を俺は見逃さなかった。
 




