306.新しい姿を手に入れました
共同調査から三日が経過。
中々過酷な探索ではあったけれど、それに見合うだけの報酬を手に入れることができたと思っている。
格上の相手に対するコンビネーションの有効性とか、上位ランカーとの連携とか普通に潜っているだけでは経験できないようなことをたくさんさせてもらった。
何より一番の収穫はやはり魔力オーブだろう。
元々魔素の多いダンジョンだけあってドロップ率は高いと言われていたけれど、シーサーペントが大量に魔力水を摂取したことで体内でそれらが圧縮されドロップ品としてそこそこの数を手に入れることができた。
そのうちの半分、3個が俺たちの取り分。
くわえて手に入れた魔力水と物々交換して手に入れた1つを合わせて合計4個を手に入れたことになる。
普通に現金で考えるとなかなかの金額になるけれども、俺たちの目標はルナの肉体を取り戻すこと。
前に一つ手に入れたことで一瞬ではあるけれど肉体を手に入れることができた、あれからいろいろと調べてみたものの残念ながら同じような例はなく手に入れられるというのは推測でしかない。
それでも実際に起きたのは間違いないし、彼女が魔物である以上魔力は必要不可欠なもの。
主従というものすごく特殊な存在であることは間違いないし元階層主ということもあり必要以上に魔力を必要とする可能性も十分ある。
なので今回のを合わせると全部で五個になるわけだけど、足りないようであれば追加も検討したほうがいいだろう。
ともかく、新たに手に入れたオーブをルナに使うことになったわけだが・・・。
「本当に大丈夫なのか?」
こくこく。
「ルナちゃん曰く、前はびっくりしてあんなことになったけど今回はもう大丈夫だって」
「本当だろうな」
「確かにあんな風に震えられたら心配になりますよね」
「でもさ、こう考えることもできるんじゃない?レベルアップ酔いと一緒で最初はしんどいけどなれてきたらそうでもないって。ほら、最初は痛いっていうのと同じだよ」
「言い方」
「あはは、でも間違いじゃないよね?」
それを女性陣に聞くのはどうかと思うが、たとえとしてはまぁわからなくはない。
現にレベルアップ酔いに関してはほとんど感じなくなっているし、ルナ自身が大丈夫というのであればそれを信じるしかない。
とはいえ何かあっても困るので、オーブの摂取には桜さんと七扇さんにも同席してもらうことにした。
もちろん俺と須磨寺さんは待機、リルは魔力を吸収してしまう可能性があるので同じく待機だ。
客間を使った魔力オーブの取り込み開始からおよそ一時間、まるで手術が終わるのを待っていうような落ち着かない感じがずっとつずいている。
「そんなにそわそわしなくても大丈夫だよ和人君」
「そうはいっても前のあれを見ているだけに心配じゃないか」
「心配してもそれを受けいるのはルナちゃんだし、あの子なら大丈夫だよ」
「だといいんだがまぁ」
確かに心配したところで何かが好転するわけでもないし、おとなしく待っていたらいいんだろうけど生憎とそこまで心の余裕はないんだよなぁ。
今やパーティーに、いや生活にいて当たり前の存在が突然いなくなる恐怖。
あんな思いはもう二度としたくない。
「でもどうする?ボインボインの女の子だったら」
「どうするって別にそれは・・・」
「ほんとに~?」
「まぁ嫌いじゃないけど」
「あはは、そういう正直なところ嫌いじゃないよ。桜ちゃんからすればライバル登場だけどハーレムだね、和人君」
そんな漫画みたいなことになるとは思えないんだがなぁ。
それに相手は元魔物、恋愛感情というのがあるのかすらわからない。
もちろん肉体を手に入れなくても彼女がよく思ってくれているのは分かっているけれど、それが恋愛感情かどうかは話が別だ。
「あ、もどってきた!」
それからさらに30分、いい加減どんな感じか聞きに行こうと思ったタイミングで桜さんが部屋から出てきた。
「どうだった?」
「とりあえず成功です」
「とりあえず?」
「まぁちょっと色々ありまして、和人さんはもう少しだけ待ってもらえますか?」
「そりゃまぁいいけど・・・」
「綾乃ちゃん、ちょっと」
「え、僕?」
「緊急会議です」
とりあえず?無事に終わったらしいのでそれはよかったのだが、何故か外待機だった須磨寺さんまで部屋の中に入っていった。
男は入っちゃいけないんじゃなかったか?そんなことを聞く間もなく再び扉は閉められてしまった。
「なんだよ緊急会議って」
「わふ?」
思わずリルに愚痴を言ってしまったが、リル的にはあまり興味がないようで俺に頭を押し付けながら再び眠ってしまう。
そんな彼女の頭をなでながら更に待つこと30分、一度閉じられた扉が再び開かれルナがゆっくりと出てきた。
「ルナ、大丈夫か?」
こくこく。
「そうか。とりあえず成功したんだよな?」
「とりあえずはね」
「だからとりあえずって何なんだよ」
「それに関しては私から説明しますのでリビングに行きましょうか」
最初と違って難しい顔をした桜さんが紙の束をもって部屋から出てきたかと思ったら、そのままリビングへと移動する。
いつものようにソファーに座ると、桜さんとルナが正面に立ちぺこりと頭を下げた。
鎧を着ているということはまだその下は骨ということ、やっぱり駄目だったんだろうか。
「これより、ルナちゃん緊急おめかし会議の結果を発表します」
「わー!パチパチパチー!」
なんとも雑な盛り上げ方、心なしか七扇さんの表情も硬いままだ。
「はい?」
「結論から先に言いますと、ルナちゃんのオーブ吸収は無事に終了。肉体を取り戻すことはできたんですけど、完璧にはまだ魔力の量が足りなかったようです」
「なるほど?」
「魔力が減ると肉体は消失してしまいますが、オンオフするみたいに切り替えることはできるので必要に応じて出してもらいます。具体的には外で買い物をしたり、人に会ったりするときですね。これにより一緒に買い物をしたりできるようになったわけですが問題が発生しました」
「ズバリ、ルナちゃんのスタイルがよすぎるんです」
「・・・」
「これまでは骨を隠すような服を選んできましたが、今後はスタイルを生かした着こなしをしていく必要があります。まず大至急必要なのは下着、それから当面の服ですね。はぁ、あんな大きな胸・・・うらやましい。」
「かばんや小物なんかも必要になります。幸い部屋に空きはあるのでそちらを使ってもらえばいいんですけど、なんにせよ外で生活していくための準備が全く出来ていません。これは非常に由々しき事態です」
何をそこまで真面目に話す必要があるのか、そんな風にさえ思ってしまうがそれにツッコミをいれられるような空気ではない。
簡単に言えば肉体を手に入れた後の準備ができていないからすぐにやろうよ、ってことなんだろうけどそんなに真剣な顔でやらなければならない案件なんだろうか。
ベクトルのかける方向がなんだか違う感じはするけれど、とりあえず成功したのなら何よりだ。
「そこでですね、和人さんにはルナちゃんに着てほしい服を教えてもらいたいんですけどズバリどんなのがいいですか?」
「無茶ぶりにもほどがあるだろ!」
「だって何着せても似合いそうなんだもん。ちなみに今鎧なのは下着がないからだから許してあげてね」
「ルナちゃんがぜひ新明さんに決めてほしいと言っているんです。下着は何色がお好きですか?シンプルな奴ですか?それともレースなんかがついているもの?」
「欧米スタイルだからTバックなんかも似合いそうだよね、背も高いし絶対モデル事務所からお誘いが来るよ」
「いいなぁ、私ももう少し身長が高ければ・・・」
桜さんがルナのほうを見て、自分の頭に手を乗せてルナとの差を確認している。
なんだろう、あれだけ心配していたのが馬鹿らしくなってきた。
っていうか俺の下着の好みを彼女たちの前で言わなければならないとかどんなセクハラだよ。
親しき中にも礼儀あり、彼女たちはいたって真面目な感じなので余計にたちが悪い。
「これもルナちゃんのため、和人君の好みをたっぷり教えてもらうからね!」
ジリジリと俺に近づいてくる女性陣、肉食獣に狙われる草食動物はこんな気持ちなんだろうか。
そんなどうでもいいことを考えてしまった。




