3.得られたスキルはアタリでした
ホーンラビットにとどめを刺すと死骸はすぐに地面に吸収され、残ったのは角と毛皮、それと処理された肉の塊。
これこそがダンジョンの不思議。
これが外なら素材を剥ぎ取ったりしなきゃいけないのだが、ダンジョンの中では魔物を倒すと勝手に素材が残される。
生肉が地面に落ちるのはどうかと思うがそれよりも不思議なのはちゃんと処理されているという事。
何故そうやって出てくるのかについては二十年以上経った今でも不明だが、手間がかからないという意味では非常にありがたい。
魔物は時間が経つと勝手に増えるのでダンジョンのお陰で世界の食糧事情が好転したという論文も出ているぐらいだ。
穀物を牛や豚に食わせなくても肉が勝手に手に入る事で穀物の不均衡も解消、さらに衛生的な肉が手軽に手に入ることで冷凍技術が一層向上し今やどこでも安心して食糧を手に入れる事が出来るようになっている。
もっとも、それによって問題になってきているのが人口の増加だが、悲しいことにダンジョンに潜って失われる命も多々あるので今の所はそこまでの大問題にはなっていないんだとか。
何とも世知辛い世の中だ。
とりあえず肉は新聞紙でくるんで他の素材と一緒にカバンの中へ。
それよりも今試すべきは手に入れたスキルの方だ。
【突進】はホーンラビットの他、ワイルドボアやロングホーンが使ってくる魔物専用スキルの一つ。
通常よりも素早くそして力強く相手にぶつかるというシンプルなものだが、それを俺が使うとなるとどうなるんだろうか。
とりあえず心を落ち着かせて魔物がいないのを確認してから、通路の中心に立って思い浮かぶがままスキル名を心で念じた次の瞬間。
後ろからものすごい力で体を押されるような感覚と共に5mほど一気に移動した。
それと同時にまたあのアナウンスが脳内に響き渡る。
【ホーンラビットのスキルを使用しました、ストックはありません。】
どうやら回数制限があるのか何度念じても後ろから押されるような感じはやってこない。
とりあえず検証は必要だな、ってことでそのままダンジョンの奥へと進み再びホーンラビットを見つけてスキルを確保する。
【ホーンラビットのスキルを収奪しました、突進。ストック上限はあと二つです。】
このアナウンスから察するに収奪できるのはあと二つ、合計三回分保有できるようだ。
一匹から回収できるのは一つだけみたいなので同じ要領で三回分確保する。
「よし、物は試しだ」
再び通路の真ん中に立ち、スキルを念じるとまたあの力で後ろからぐっと押される。
止まりそうになるたびに念じるとやはり全部で三回、合計15mほどをあっという間に移動することができた。
何とも不思議なのが自分で走っている感覚がない事、そのまま宙に浮くかのように移動しているのが面白い。
【ホーンラビットのスキルを使用しました、ストックはありません。】
使用済みのアナウンスが流れると再び移動することは出来なくなった。
ホーンラビットが使うぐらいだから突進なんてそこまですごいスキルだと思っていなかったけれど、こんなに使い勝手のいい物だったのか。
魔物の分際でうらやましい。
しかしだ、ハズレだと思っていたスキルがまさかの大当たりだという事がこれでわかった。
ダンジョンに出る魔物が使うスキルは基本一種類に一つだけ、つまり欲しいスキルがあればその魔物を狙って奪えばいいというわけだ。
まさに収奪。
強奪スキルの効果は装備品をはぎ取りなのだが、呪われていたりボロボロだったりして相手の戦力を奪う以外にはあまり使い道がないスキルだ。
だが、収奪はスキルを奪うだけじゃなくそれを使用することができ、さらにはストックする事も出来るなんて当たりどころか大当たりといってもいいだろう。
惜しむべきは一種類三回分しか確保できないことなのだが・・・。
「あれ?もしかして他のスキルも確保できるのか?」
この階層にはホーンラビットしかいないので確認できないが可能性はゼロじゃないはず。
この敵の強さだと次に進んでも問題はないだろう。
まさかこんな所でブラック企業で得られた経験が生かせるなんて、ありがとうクソ上司。あんたのしごきのお陰で楽しい探索者生活がおくれそうだ。
そんなわけで次の階層を目指しつつホーンラビットからスキルを収奪していく。
素材はさほど高く売れないけれど金になる物を置いていけない貧乏性なので気づけばカバンがパンパンになってしまった。
まぁいい、この先は第二階層。
次は持ち帰る素材もないので気にする必要は特にない。
下の階層へと続く人一人がやっと通れる程度の階段を50段ほど降りると再び同じ石造りの通路に到着。
ここからが第二階層、ダンジョンではこんな感じの階段を降りることで階層を移動することができる。
ここに出るのは確かコボレート。
狼が二足歩行したような見た目をした魔物で、背丈は小学生低学年ぐらいと小さく幼児程度の知能を持っている。
一匹一匹は先ほどのホーンラビット程度なので大したことないのだが、気を付けるべきは群れで行動する部分。
いくら一匹が弱くても武器を持ち、さらに数で襲われると対処がしづらくなる。
この場合は探索者も複数人で行動するのがセオリーだが、生憎と俺は一人きり。
ま、気を付けていればそこまで苦戦しないので大丈夫だろう。
知らんけど。
「お、早速お出ましか」
通路を進みちょうどL字になった所で曲がり角の先から魔物の足音が聞こえてきた。
足音から察するにおよそ5匹ほどだろうか、向こうはまだこちらに気づいていないはずなのであえて曲がり角から距離を取って曲がってくるのを静かに待つ。
足跡がだんだんと大きくなりついにそいつらが姿を現した。
「グゲ!」
「よぉ、今日も仲良く遠足か?」
突然目の前に現れた探索者に驚きを隠せないコボレート。
だが挑発を兼ねて声をかけるとすぐに手にしていた棒きれや小刀を構え、何故か横一列になって襲ってきた。
なんだかよくわからないけどチャンスはチャンスだ。
棒を胸に前で横に構えままスキルを心の中で念じると、腕を伸ばしたままの格好で体がまっすぐに進み始める。
稼働距離はおよそ5m。
壁までおよそ3m程の場所から発動するとどうなるか、その答えはスキルが停止し勢いが止まった俺の足元にあった。
「これはちょっとやりすぎたか?」
棒を横にしていたことで襲ってきたコボレートを面で捉え、勢いもそのままに壁におしつける。
我ながら恐ろしい事を考えついたもので一匹も残らず絶命したコボレート達はすぐに地面に吸収され、地面に残ったのはボロボロの小刀だけ。
残念ながらこの小刀を再利用はできないそうだが稀に綺麗な物は残るらしく、それはそこそこの値段で取引されるとは聞いたことがある。
とりあえず収奪スキルの効果は確認できたものの複数スキルを所持できるかを調べるためには殺さずに残す必要がある。
引き続き探索していると、仲間とはぐれたのか二匹だけの奴がいたので一匹を残してボコボコにしてやった。
「ドロー」
コボレートの頭に手を置きスキルを発動、すると新しいアナウンスが聞こえてくる。
【コボレートのスキルを収奪しました、犬笛。ストック上限はあと二つです。現在時点で収納できるのは二種類のみです。】
お、二つ目のスキルをゲットだ。
そしてご丁寧に二種類以上は収納?できないらしい。
なるほどなるほど。
正直犬笛がどんな効果まではわからないが二種類同時に所持できるってのはありがたい。
やっぱりこれは大当たりのスキルで間違いない。
「よし!」
最後に足元で動くコボレートにとどめを刺しつつ大きくガッツポーズをするのだった。