299.予想外の状態になっていました
泉のダンジョン四階層。
残念ながら以前調査に来たときにアレンさん達は三階層で引き返してしまったので、ここからは先の状況は分からないらしい。
水位はさっきよりも更に上がり足首よりも上に水が来ている状況、身長次第では脛のあたりまで水が来ることになる。
流石にこれは予想外だったのか月城さんが旅団リーダーを集めて今後について話し合うことになった。
「まさかこれほどに水位が上がっているとはね」
「さっきぐらいならまだ何とかなったが、この水量はちょっとまずいな。特にうちみたいなデカブツばかりだと動きにくくて仕方がない」
「申し訳ありません、私達がもっと調査していればよかったんですが」
「ウォールスライムを二人だけで倒せっていうのは無理ですから仕方ありませんわ。それよりも今はこの先をどうするのかについて考えましょう。通常であればこの先はアクアロスのテリトリー、油断しなければどうにでもなる相手ですけど・・・正直どこまで潜りますの?」
「降りれば降りるほどに水位が上がるとするならば、いくら魔物が弱かったとしてもまともには戦えなくなる。今回の目的は泉のダンジョンの調査、現状を把握したうえで一度戻って対策を考えても遅くはないんじゃないか?」
転送装置は五階層の奥、このまま上に戻るという選択肢はあるけれどそれなら潜った方が早い。
とはいえいつものようなポテンシャルを引き出せないのもまた事実、このまま潜ってまともに戦えるんだろうか。
「確かに新明君の言うとおりだ。ギルドから依頼されたのはあくまでも調査、全容を解明して元の状態に戻せたら最高だけど正直このまま潜っても被害が大きくなるのは間違いないだろう。仕方ない、切りのいいところまで上に戻ろう」
「いいのか?」
「絶対に解明して来いとは言われていないし、実際引き返したこともあるしね?」
そういえば篠山ダンジョンの時も先発隊が全容解明できずに引き返したことがあったなぁ。
あの時の代表も月城さん、なるほどそういう感じでいいのか。
「それでは五階層の階層主を倒してから地上に戻る、それでいいですわね?」
「問題ない」
「俺達もそれで大丈夫だ」
「今のまま水位が増えるとして、これが十階層になったらいったいどうなるんだろうねぇ」
オノゴロダンジョンのように水の中?でも呼吸ができるのならまだしも、ここは普通のダンジョン。
水位が上がれば抵抗はあるし、水に顔をつければおぼれてしまう。
この程度の水位でもうつぶせになれば溺れてしまうんだ、絶対に死なないという保証はどこにもない。
とりあえず話がまとまったので改めて四階層の探索をスタート、ここに出るのはアクアロスと呼ばれる馬の魔物。
フレイムホースのように体が水で覆われているのかと思ったらそうではなく、体そのものが水で作られているタイプなんだとか。
神話で言うケルピーとかそっち系の魔物、実体がないというわけではないらしいけど物理攻撃は非常に効きづらいんだとか。
でもまぁ『効かない』わけではないし、それならそれで戦いようがある。
「それじゃあ上と同様に各旅団で泉を探して解放して回ろう。アクアロスがどう強化されているかはわからないけど僕達なら対処できる。ただし油断は禁物だよ」
「次こそは私達が勝ちますわよ!」
「望む所だ、うちが二箇所解放してやるよ」
相変わらずの感じで両旅団が出発、月城さん達も彼らとは違う方向へ向かっていく。
初めての魔物ではないとはいえどう強化されているかわからないのに、よく勢いよく出発できるよなぁ。
各自の役割分担がしっかりしているからこそ打ち合わせなしで移動できるんだろうけど、怖さとかそういうのはないんだろうか。
「須磨寺さん、アクアロスは何を注意すればいいんだ?」
「アクアロスは水魔法を使ってくるからね、体の周りに水弾ができたら気をつけて!」
「了解。ルナ、この水でも大丈夫か?」
コクコク。
「リルはまだ行けそうだな、桜さんは?」
「ちょっと水が重たい感じですけど何とか」
「ならサブタンクは俺が変わろう。桜さんは後ろから様子を見つつ指示を出してくれ」
相手が水魔法を使ってくるだけなら何とかなるはずだ。
「和人さんがタンクを?」
「避けるだけならなんとかなるってわかったからな、ルナでカバーできなくなった時だけ入るから基本前衛だと思ってくれ」
「了解です!」
ルナを先頭に蒼天の剣と反対方向へ移動。
だが、水量が多く思ったように進行速度が上がらない為、動ける俺とリルで先に様子を見に行くことにした。
天井からポタポタと水が滴り、時折頭にそれが当たる。
「冷た!」
あまりの冷たさに思わず声が出てしまった。
篠山ダンジョンほどではないけれども心なしか空気が冷たくなっている気もする。
俺は水の上だしリルも冷気耐性があるからあまり気にしないが、これだけ冷たい水に晒されているといくらブーツで防いでいるとはいえ限界があるだろう。
月城さん達が慌てたのももしかするとこの環境が原因かもそれない。
「わふ」
「ん?来たか?」
ブンブン。
尻尾を振り身を低くするリル、薄暗くなった奥の方に目を凝らすとぼんやりとした何かが近づいてくるのがわかった。
ジャバジャバと水をかき分けるような音は一切ない、静かにでも確実に向かってくる。
「なるほど、水の馬って言うぐらいだしそりゃ同じようにできるか」
向かってきたのはアクアロスは俺と同じく水の上を静かに歩いてきた。
青い体は少し透けており、鬣から水滴が跳ねては体に吸い込まれている。
スライムっぽい感じはあるけれどこっちは完全に馬の顔に馬の形、地面を蹴るかのように前足で水面を蹴る姿は何とも不思議な感じだ。
「とりあえず俺が先に攻撃するからいい感じのところを狙ってくれ。」
「わふ!」
「しばらくしたら皆が来る、それまでに奴の弱点だけでも策っておかないとな」
アクアロスに向かって棍を構え円を描くかのように移動、奴も俺の方が脅威だと感じたのかリルから視線を外し頭を下げてタイミングをうかがっている。
どちらが先に攻撃を仕掛けるか、天井から落ちてきた水滴がポチャンと音を立てたその瞬間、奴がまさかの行動に出た。
「は?」
「わふ!?」
「ちょ、待て!嘘だろ!?」
突然踵を返し走り出すアクアロス、突然の事にすぐに行動できなかったがここで逃げるのには何か理由があるはずだ。
【ラピッドパーゲルのスキルを使用しました。ストックは後九つです】
普通に走るだけでは追い付かないので俊足スキルで一気に加速、リルもあわてて走り出すもやはり水の抵抗があるようで思ったように速度が上がらないようだ。
彼女よりも早く走るのはちょっと不思議な感覚だが、それよりも今は奴を追いかけないと。
幸いスキルを使った方が早いのかどんどんと間隔が狭まっていく。
このままいけば追い抜きざまに攻撃することができるはず、そんな淡い期待を抱いたものの奴の周りに浮かぶ物を見た瞬間に脆くも崩れ去ってしまった。
須磨寺さんが言っていたと思われる水の玉、シャボン玉ほどのそれがいくつも周りに浮かび上がり奴がチラリとこちらを振りむいたかと思ったらものすごい速度で向かってきた。
確かに水の魔法を使ってくるとは聞いていたけど、まさか逃げながら使ってくるのはちょっと想定外だ。
迫りくる水弾、それから目を離さないようにしながら次の手を発動するのだった。




