296.収奪スキルについて指摘されました
「なぁ」
「ん?」
「それ、どうなってるんだ?」
泉のダンジョン二階層。
全ての泉が解放されるまでの間、何度目かの襲撃をやり過ごした時だった。
共に戦っていた岩城さんが興味津々という感じで俺を見て来る。
目線の先はずばり足元、探索用に分厚いブーツを履いてはいるもののそこは床ではなく水面を踏みしめている。
岩城さんを含め全員がくるぶし付近まで水に浸かっているにもかかわらず俺だけがそうなっていないことにどうやら気づかれてしまったようだ。
「あー、スキルの効果だ」
「スキル?なんてスキルだ?」
「水走っていうんだが・・・知らないよな」
「しらねぇなぁ、そんな便利なスキルがあればこのダンジョンも随分と楽になるんだが・・・いや、それがあると潜れないのか」
確かにこのスキルを使っている以上水の中に潜ることは出来ない。
保温同様階層限定スキルのようなので階をまたげばオフに出来るけれども、両方を切り替えるという事は難しい。
今後潜って移動とかそういうのが必要なダンジョンでは使えないスキルになるな。
「よほどのダンジョンでなければ潜って移動なんてないだろうし、プライベートでもそこまで困ることはない」
「ってことはオンオフできるのか、なるほどな」
「そういう事にしておいてくれ」
「さっきのぶん回しもそうだが、棒術っていうか?なかなか面白い戦い方をするんだな。打撃攻撃も出来て仕込みを使えば斬撃まで対応、普段あまり見かけないがいいチョイスだ」
「そりゃどうも」
最初は新米旅団という目でしか見てこなかった岩城さんだが、一緒に戦う事である程度は認めてくれたようで随分と気さくに話しかけてくれるようになってきた。
団員の皆さんも一見するとごつくて厳つい人ばかりだが中身は優しくてうちの女性陣に対して色々とフォローをしてくれている。
須磨寺さんに対してはまぁアレだが、中身を知らなければまぁいいだろう。
「何を楽しそうに話してますの?」
話しの間に割り込むような形で氷室さんが話しかけてきた。
岩城さんほどではないにせよ最初のような冷たい感じは減っているように感じる。
こちらもまた実力を認めてもらったから、という事にしておこう。
「そう見えたか?」
「えぇ、その水に浮く不思議なスキルについてかしら?」
「なんでわかるんだ?」
「皆羨ましそうに見てますもの。あのフェンリルもそうですし、あちらのタンクも人ではなさそうですわね。スキルだけでなく仲間にも恵まれて羨ましい限りですわ」
「なんだ、やっぱりあの姉ちゃん人じゃなかったのか」
「そうでなかったらあの矢の雨が降る中で大楯だけ持っていこうとは思いませんわよ。いくら鎧が素晴らしくとも隙間はありますし、普通は怪我を嫌って避けるものですわ」
なるほど、そういう考え方なのか。
恐らく魔力というかそういうのでも察知したんだろうけど、それでどうこう言われることはなかった。
どのような存在であれ俺の大事な仲間、下手なこと言われたら言い返してやろうかとも思ったがどうやら杞憂に終わったようだ。
「貴方、新明さんと言ったかしら?」
「あぁ」
「そのスキルだけでなくほかにも不思議なスキルを使うみたいですけど、詳細を隠しておくのならあまり人前でさらすのは避けたほうがよろしくてよ。嫉妬は時として災厄に変わるものですから」
「それか初めから周りに知らせておくかだな、世の高ランクスキル所有者は公表することで自分の身を守っている奴もいる。希少性から大事にされるし下手な奴らの妬みを買う事も少なくなるしな」
「なくなるわけじゃないのか」
「知らせる事でなくなるのなら苦労はしませんわ。私達なんて魔法がつかえるだけで妬まれるんですもの、人の嫉妬程怖いものはありませんわよ」
ベテラン探索者の忠告、確かにいつまでも隠し通せるものではないので後ろ盾が出来た所でそろそろ公表してもいいのかもしれない。
その際は木之本主任が力になってくれると言っていたので、この調査が終わったら相談させてもらうとしよう。
この場で使っていたのはあくまでも水走とぶん回しだけ、水走はともかくぶん回しなんてスキルにも見えないようなごくありふれた動きの筈なのだが、まさかそこから収奪スキルを不思議なスキルとして見破られるとは思わなかった。
氷室さんが特別なのか、はたまた別の何かで察したのかはわからないけれどとりあえずこの場はお茶を濁しておいた方が良いだろう。
「忠告感謝す・・・お?水が引いてる?」
「どうやら全部の泉を起動できたみたいだな、やれやれやっと下の階に行けそうだ」
「気を抜いている場合じゃありませんわよ、水が抜けたという事は周りにいる魔物が一気に集まってくるという事。ここからが本当の戦いになりますわね」
「マジか」
「どれだけ来ようが俺達の敵じゃねぇ、それに全部終わったってことは月城んとこもこっちに来るんだろ?なら向こうの敵はあいつらが片付けてくれるからそこまで多くはない筈だ」
「だといいんだがな」
だんだんと低くなる水位、そしてそれに引っ張られるように広大なフィールドの奥から無数の魔物が近づいてくるのがわかる。
ここからはもう一仕事、最後まで気を抜かないで行こう。
「ルナは前に出て敵の引きつけ、桜さんはサポーターの近くで待機、七扇さんは須磨寺さんをよろしく!」
「お前ら、この階層最後の大掃除だ。気張っていくぞ!」
「私たちも負けていませんわよ。範囲魔法準備、サポーターはバフを撒きなさい!」
各々が自分の役割を果たすべく行動を開始、かくして二階層最後の一戦はド派手な攻撃魔法と共に幕を開けたのだった。
「皆無事で何より、君達がきてくれて本当に良かったよ」
「よく言うぜ、結局自分達だけで三つの泉を解放したんだろ?大儲けじゃねぇか」
「でも仲間を助けてくれたことには感謝しますわ」
最後の大掃除が終わったあと、ゾロゾロと三階層への階段前まで移動すると蒼天の剣と一緒に泉を探しに行った精鋭二組が先に到着していた。
合流後話を聞くと俺とリルが解放した泉以外の三つは蒼天の剣が解放してくれたらしい。
いくら熟練ギルドの精鋭とはいえ多勢に無勢、泉を見つける前に魔物に囲まれていたところを助けてもらったんだとか。
旅団としての実績は上げられなかったものの、大事な仲間が戻ってくればそれで十分。
大手になればなるほど団員の扱いが悪くなると聞いたことがあるけれど、この人たちはそうじゃないようだ。
「まだ二階層でこの状況、下はどうなってるんだ?」
「次は今に比べたら比較的マシだと思うよ」
「その根拠は?」
「敵の数が少ない」
「その分強くなっていたんじゃなんの意味もありませんわよ?」
「それに関しては僕達なら問題ないと思っている。ここには僕が考えうる最強の仲間達がいるからね」
屈託のない笑顔でそう断言する月城さん。
この笑顔の下に打算や思惑が隠れていると分かっていても、なんとなく大丈夫と思ってしまうんだからこう言うのをカリスマ性って言うんだろうなぁ。
恐らくここにいる全員がそれをわかっていても、なんだかんだ着いてきてしまうわけで。
「須磨寺さん次の魔物は?」
「次はねー・・・うん、強くなってたらめんどくさいやつ!」
「だからそれはなんなんだって聞いてるんだが?」
「それは見てのお楽しみだよ和人君」
お楽しみとかそういうのいいからちゃんと教えて欲しい。
いろいろ大変な感じだけどまだ二階層、果たして次は何が待っているのやら。




