295.全員で守り抜きました
「あった!」
泉のダンジョン二階層。
魔力水の漏洩によって魔物の強さが変わるという何とも不思議な状態を調査しに来たわけだが、早くも第二階層でその洗礼を受けている。
魔物の強さはそれほどでもないが、なんせ数が多い。
倒せども倒せども魔物がわき続けて常に追われている感じだ。
そんな状況でも決してあきらめず走り続ける事数十分、いい加減諦めかけたその時目的の泉を発見した。
一階層同様、泉を守るかのようにヒュージリザードマンが三体立ちふさがるもちょうど突進スキルのリキャストが終わった所だったので、一体を強引に押しのけた隙にリルがもう一体を攻撃する。
そこまで強くないとは言うけれどここはC級ダンジョン、E級ダンジョンの階層主ぐらいの強さはあるんじゃないだろうか。
「邪魔するなっての!」
【イエティのスキルを使用しました。ストックは後七つです】
更に剛腕スキルを使って棍を振り回して残った一体を吹き飛ばしつつ、勢いもそのままに押しのけて転倒したヒュージリザードマンの頭を剛腕スキルで強化した棍で叩き割る。
何とも言えない感覚が腕に伝わってくるけれど、考えないようにして動かなくなったそいつからスキルを収奪した。
【ヒュージリザードマンのスキルを収奪しました。ぶん回し、ストック上限は後九つです】
ぶん回し、か。
間違いなく今の俺にふさわしいスキル、特に純粋な範囲スキルを持たない俺にとってはいくつあっても困らないやつだ。
其れなら残りの奴も・・・と思った次の瞬間、横からものすごい衝撃を受けそのまま吹き飛ばされた。
水走スキルのおかげで水の上を転がる感じに張ったけれど、衝撃を殺すことが出来ずいい感じの距離を吹き飛ばされる。
視界の端には四体目のヒュージリザードマン、どうやらぶん回しを使う前にぶん回された銛を当てられたようだ。
わき腹から鈍い音がしたので間違いなく肋骨は折れたはず、痛みでまともに呼吸が出来ず浅い呼吸で酸欠になりそうになる。
「くそ、油断した」
【ヒーリングポットのスキルを使用しました。ストックは後九つです】
わき腹を抑えながら回復(小)を発動、すると呼吸が出来ない程の痛みが緩和され鈍い痛みはあるもののなんとか動けるようになってきた。
吹き飛ばされた俺に驚きリルが慌てて戻ってくる。
「これぐらいなら大丈夫だ、まだやれる」
「わふぅ」
「心配するなって、このぐらいじゃ死なないから」
「グァゥ!」
敵を取ってやると言わんばかりの殺気を放ちながらリルが俺を吹き飛ばした奴を睨みつける。
とはいえ向こうもその程度でひるむわけもなく、グゲゲゲと笑いながら銛を掲げて威嚇をしてきた。
久々の被弾、今まではルナとか桜さんがいたので直接攻撃を受けることは殆ど無かったけれど、これがダンジョン、これが魔物との戦闘だという事を思い出させてくれた。
むしろこの程度でよかった、もし銛で突き刺されていたら肋骨だけでは済まなかっただろう。
偶然に感謝しつつ恨みを晴らすべく相手をボコボコにし、やっと一息つくことができた。
「さて、魔力水の回収だ」
泉を起動させ沸き上がってきた魔力水を専用の容器に入れる。
これで二か所目、前みたいに水が引かないことを考えるとまだすべての泉は起動していないんだろう。
次を探すべきかはたまた戻るべきか、足元の鱗を回収しつつしばし悩んだ後最終的にみんなの所に戻ることにした。
他の泉は他の旅団員が探してくれているし他にも月城さん達が探してくれているはず、それならば中央で耐えてくれている皆の所に戻るべきだ。
リルに皆の気配を探ってもらいながら中央付近へと急ぐ。
「くそ、こっちにも群れが・・・」
「わふ!」
「そっちだな、了解!」
目の前に群れが見えるとその場で方向転換して出来るだけ距離を置いて群れを回避しつつ走り続ける。
本当は真ん中を突っ切ってもよかったんだが、そうすると群れが俺達を追いかけて来るしそれが重なるとものすごい数に追われることになる。
俗にいうトレインという状況で、こうなるといくら旅団員が強くても数で攻められて連携に綻びが出てしまうものだ。
それを俺が引き起こすわけにもいかないので、出来るだけ群れを回避し続ける。
だがそれにも限界はあるし、結局後ろを振り返れば複数のヒュージリザードマンが俺を追いかけていた。
「こいつらをどうにかしないと戻るに戻れない・・・やるしかないか」
「わふ!」
「かなり多いが無茶はするなよ、どうしてもヤバそうなら俺を置いて逃げろ」
最悪スキルを使いまくればあれぐらい一人でどうにでもなる。
その隙にルナたちを呼んできてくれればさらに増えても最悪何とかなるはず、そう決意して走る速度をおとした時だ。
「そのまま走り抜けろ!」
「え?」
「良いからさっさと行きなさい!」
真正面から聞こえてきたのは両旅団リーダーの声、言われるがまま走り抜けると頭上を無数の矢が飛んでいき後ろを追いかけてくる群れに襲い掛かった。
助かった・・・のか?
ほどなくして先ほどの矢を放ったであろう弓使いの部隊とすれ違い、そこで初めて足を止めると両リーダーが出迎えてくれた。
「ご苦労さん、だがもう少し連れて来てもよかったんだぞ」
「もう少しって、かなりの数だぞ?」
「あの程度でかなりっていうようじゃまだまだだな」
「そうですわね、あの程度他のダンジョンでも十分遭遇しうる数ですもの」
いや、その数が多すぎて途中で戻って来たんじゃなかったか?
この程度で臆するようじゃまだまだだな、みたいな空気を出してるけどそれが出来るのも全員で守っているからだろ?
「まぁまぁ、和人君だって僕たちの事を思って戻ってきてくれたわけだしさ。ってことで、おかえり」
「ただいま。こっちは随分と余裕なんだな」
「んー、余裕っていうか余裕すぎというか。いくら魔物が多くてもしかるべき方法で対策をすれば恐るるに足りずって事を改めて認識させられた感じだよ」
「つまり・・・どういうことだ?」
「お前んとこのタンクが優秀すぎるんだよ。聞けばあのブラックとまともにやり合ったそうじゃないか、そんな奴がこの程度の魔物に囲まれたところでなんともないだろ」
「タンクが魔物を引き付けてその隙に遠距離アタッカーが一斉に攻撃。タンクは中心で魔物を盾に身を守れば怪我をする心配もない、理屈ではわかっていても実際にそれをやる度胸に感服いたしましたわ」
ルナが率先して魔物を引き付るのはいつもと同じことだが、その状態で遠距離攻撃の雨あられをしっかりと防ぎ切り魔物だけを撃退していたんだろう。
普通の人間なら怪我をするかもってことで出来ないことも、肉体を持たないルナにはそれが出来る。
疲れ知らずのルナが魔物の状況を確認して一か所にまとめ、自分ごと攻撃させるというなんともワイルドな戦い方だが、そのおかげで誰一人かけることなくここまでこれたようだ。
「なるほど、つまりうちのが大活躍だったと」
「そういう事だな。そっちはどうだった?」
「泉を一つ開放することはできた、他はわからないがもうすぐ解放されるんじゃないか?」
「そうあってほしいがこればっかりは仲間を信じるよりないな」
「そして皆が戻るまで私達はここを守り抜くだけです」
そう言うと同時に氷室さんが再び杖を構え、俺の後ろを睨みつける。
世間話をしている間にいつの間にかまたヒュージリザードマンが増え、今か今かとタイミングをうかがっているようだ。
俺達にできる事といえば仲間を信じ全員でここを守り抜くよりほかにない。
終わりなき戦いに終止符を打つべく棍を構えじりじりと近づくと影を睨みつけるのだった。




