289.ダンジョン調査の準備をしました
梅田ダンジョン内『泉のダンジョン』。
ダンジョンが出来る前からダンジョンと呼ばれていたのはここだけだろう。
以前は大きな噴水がありゲームのセーブポイントとの様だと言われていたが、実際にダンジョンが発生した後は噴水から魔力水を噴出するダンジョンへと生まれ変わった。
「で、その魔力水は何に使われているんだ?」
「主に製薬関係だね、一部は工業用品にも使われているけど魔力の特性を生かすとなるとどうしても薬品系が多くなるみたい」
「ってことは製薬会社が牛耳ってるのか」
「それがそうでもないんだよね、ダンジョンの運営管理はあくまでもギルドの仕事だから魔力水もギルドを通じてでしか買えなくなってるんだ。しかも独占を防ぐ為に各社決まった量しか買えないし、一度買うとしばらくは購入権がなくなる徹底ぶり。おかげで中小企業にも魔力水が広まるから新しい薬とかも続々生まれているんだって」
なるほど、その辺は例のギルド長みたいに独占したり横流ししたりしないように管理されているのか。
そのおかげで公平に魔力水がいきわたり新しい薬や道具が生まれていると。
上手くやれば城崎ダンジョンもより発展しただろうけど、まぁそれは今後に期待だな。
「そして、そんな大事な魔力水の量が激減しているんですね」
「そういう事みたいだね」
「更にはそのせいでダンジョン内の魔物が活性化、C級ダンジョンなのにB級ダンジョンぐらいの魔物が出始めていると。やばすぎるだろ」
「それを調査して元に戻すのが今回の目的、泉のダンジョン自体は20階層の一般的なC級ダンジョンだけど、今回に至っては魔物の強さや性質に注意するべきだろうね。見た目は同じでも使ってくる技が違ったとか体力がものすごい増えているように感じたっていう報告もあるみたいだし一筋縄ではいかないと思うよ」
「カレンさんとアレンさんが持ち帰った情報だったな、よくまぁそんなダンジョンに潜ったもんだ」
Bランク探索者の二人がいればドノーマルなC級ダンジョンなんて楽勝、なわけもなく中々大変だったとレポートに書かれていた。
北淡ダンジョンと言い今回のといい、普通とは違う状況が続いているけれどこんなもんなんだろうか。
そもそもダンジョンが出来てまだ四半世紀も経っていない中、新しいダンジョンも生まれ続けている。
ダンジョンの普通が定まっていない以上こういうイレギュラーは今後も続いていくんだろうなぁ。
「それじゃあ私達は道具の準備をしてきます」
「了解、鈴木さんによろしく伝えてくれ」
「わかりました。和人さんのブーツも用意してもらいますね」
「サイズは・・・まぁ何とかなるか」
ダンジョン調査に向けてそれぞれが準備を開始、女性三名はドワナロクに向かいこれからダンジョン用のブーツを選びに行くそうだ。
ダンジョン内は常に2~3cm程度の水で満たされていて長靴代わりのブーツは必須、上げ底にするかはたまた耐水性の高い素材を使うかで分かれるが対策なしで行くとものの数時間で足の感覚がなくなってしまう場所らしい。
加えて休憩するにも常に水で満たされているせいで直に座ることが難しく、仮眠をとるのも一苦労なんだとか。
折角スポンサーから借りた最新の探索道具も今回は役に立たないので、それとは別に泉のダンジョン専用の探索道具なんかを貸してもらえるよう桜さんが交渉していた。
スポンサーなんですからこれぐらい当然だと彼女は言うけれど、そういうのになれていない一般探索者からすると申し訳ない気持ちの方が強くなってしまうよなぁ。
「そんじゃま俺達は俺達で準備しますか」
「グァゥ!」
こくこく!
女性陣はドワナロクへ装備を回収しに、俺達はダンジョンへスキル回収へと向かう。
俺達だけだったらまぁ何とかなるけれど今回は他の旅団も一緒に行動する合同探索という形になる、出来るだけ迷惑をかけないようしっかりとストックを増やして挑まなければ。
という事で女性陣と別れて向かったのは御影ダンジョン。
家から近いだけでなく多種多彩なスキルを収奪できるのでコンビネーションも含めて確認していこう。
「ということでまずは四階層でマッドスパイダーから糸吐きを収奪しつつ、五階層でロケットをフルストックまで増やす。それが終わったら一度十階層まで移動してから九階層でサンダーバードの帯電をフルストックにしてから最後は十二階層で俊足とステップを収奪したら作戦終了。途中で色々試しながらになるからお付き合いよろしくな」
御影ダンジョンの魅力は多種多様な魔物が出る事、ヘップダンジョンなんかは人型ばっかりだし川西ダンジョンもアンデッド限定のダンジョンだが、ここはそういう制限がないので色々なスキルを入手できる。
その中でも移動系スキルは補助スキルとの相性が抜群なので大人数でダンジョンを進むのにピッタリなはずだ。
岡本さんに挨拶をしてからダンジョンの中へ、前まではリルを隠しながら潜っていたけれどこれからは堂々と連れて歩けるのが非常にありがたい。
桜さんの代わりに今回はルナが一緒に潜ることになったけど、立ち位置としてはそこまで変わらない上に自分のレベルも上がっているので特に苦戦することなく五階層へ到着。
相手はあのファットボア。
こいつから収奪できるロケットスキルは移動スキルとしてでなく攻撃手段としても使えるので非常に使い勝手がいい。
問題があるとすると短距離での使用に向いていないという事だけど、それに関しては突進を恒常化しているのでそれで代用すればいいだろう。
「ルナ!」
ファットボアの超突進をルナが真正面から受け止める。
大楯で受けたまま1mぐらい後退したけれど、そこでしっかりと勢いを落とした隙にリルと俺が連続攻撃で一気に体力を奪う。
息の合ったコンビネーションで戦闘時間はわずか五分程、この分だともう少しタイムを縮められそうだ。
スキルを収奪した後に残ったのは肉と毛皮、とりあえず肉はリルのお腹に消えるとして毛皮はそこそこの値段で売れるのでこいつはしっかりと回収しよう。
「思っている以上に余裕だなぁ」
あれだけ苦労したのにわずか五分で倒せてしまう事実になんとも言えない気持ちになる。
もちろんそれだけ自分が強くなったってことなんだろうけど、ここに来られるのは全体の半分ほどで残りは挫折するか怪我するかもしくは死亡するかのどれかが該当する。
そうならないよう自分自身で強くなるのは当たり前として、それでも実力のある者がその道筋をつけてやればもっと多くの探索者が先に進めることだろう。
今まではただがむしゃらに強くなりたいと動いてきたけれど、今後はそういった後進の育成についても力を入れる必要がある。
実際、蒼天の剣はそれを行い成長させてきたことであそこまで大きな旅団に成長したわけだし、今は俺達だけで何とかなっているけれどいずれはそういう事もしていかないといけないんだろうなぁ。
「ま、そういうのはまだまだ先の話だからさくっと終わらせて次に行こう」
「グァゥ!」
「それと、今回のの調査が終わったら二人と行きたいところがあるからそっちもよろしくな」
こくこく!
「俺達の実力があれば十分何とかなるはず、頑張っていこう」
ここはともかく次に向かう場所は中々大変だと聞いている、それでもリルとルナがいれば乗り越えられるはずだ。
心強い二人に支えられながら収奪スキルを求め、より深い深い所へと移動し続けるのだった。




