287.調査を依頼されました
ヘップダンジョンを出た後依頼達成をギルドへ報告。
早速旅団としての実績を積んでその日は解散になった。
自宅へと戻った後、自作した魔物のスキル資料を改めて確認しながらどれがコンビネーションに適しているかを考察。
これが楽しくて気づけば夜中になっていた。
「ふぁぁぁ、おはよう」
いつもよりも寝坊してしまったが今日はオフ、寝ぼけ眼でリビングへと向かうと桜さんが優雅に香茶を楽しんでいた。
リルは日当たりのいい所で丸くなっている。
壁に設置したホワイトボードに目を向けると、須磨寺さんと七扇さんはルナと一緒に買い物に出かけたようだ。
皆大人なので誰がどこに行ったのかをいちいち把握する必要はないんだけど、女性陣的にはこういうのがあった方が動きやすいらしくいつの間にか設置されていた。
「おはようございます和人さん、昨日はずいぶん遅かったんですね」
「ん?あぁ、コンビネーションが発動しそうなスキルの組み合わせとか考えてたらつい楽しくてな」
「成果はありそうですか?」
「んー、ぶっちゃけ試してみないと分からないけどとりあえずは。問題はそこまで取りに行かなきゃいけないって所なんだよなぁ」
クリスタルで手に入れたスキルならいつでも発動できるけど、俺の場合は魔物から収奪してこないといけないので無限に仕えるというわけじゃない。
なので毎回ダンジョンに取りに行かなきゃいけないわけだが・・・ぶっちゃけどこに行くかが重要だ。
例えば城崎ダンジョンだけでも突進とフレイムホースの火纏いを同時使用とか最高にかっこいいと思うし、エーフリートの火炎球を連続投げ出来たら火力も二倍になりそう。
まぁどっちも階層主っていう残念な現実はあるけれど、ゴリランド―ンの投擲はかなり汎用性あるしミノタウロスの剛腕はどんなスキルとも相性バッチリだ。
ヒーリングポットの回復(小)も三回使ったら(中)になるのかも確認したいし・・・と、ダンジョン一つでこのありさま。
これが徒歩圏内ならゆうことないけど、残念ながらそこそこ移動しなければいけないわけで。
「急ぎの依頼とかもありませんし、なんだったらまた前みたいに一週間とか一か月かけて滞在してもいいと思いますよ。別に梅田ダンジョンじゃないと実績を上げられないわけじゃないですから国内ダンジョンを思いつくまま走破していくのも面白いかもしれません」
「ダンジョン走破縦断旅とか?」
「そんな感じです、そういえば前にそんなことやっている人が居たような・・・」
皆考えることは一緒か。
そんな他愛もない話をしながら遅めの朝食を摂り、久々にだらだらとした時間を過ごす。
とはいえ貧乏性なのでベッドで転がり続けるとかはできなくてなんだかんだ装備の点検とかをしてしまうんだよなぁ。
探索者にとって装備は命そのもの、もちろん好きな音楽をかけながらなので意識はそっちに行ってるわけだけど手は別の事をしている感じだ。
そんな事をしているとコンコンとドアがノックされ、桜さんが声をかけて来た。
「和人さんちょっといいですか?」
「ん?」
「今綾乃ちゃんから連絡があって、蒼天の剣から連絡があったそうなんです」
「蒼天の剣から?内容は?」
「そこまでは。とりあえず急ぎ事務所まで来てほしいってことなんですけど、どうしますか?」
んー、正直今日はオフの気分だから行きたくない気持ちが強いけど、それを理解している須磨寺さんがわざわざ要請してくるあたり何かあったと考えるべきだろう。
表向きは同盟を組んでいるので初回から其れを断るのもあれだし、仕方ない行くだけ言ってみるか。
「とりあえず行くだけ言って話を聞こう。ただし、装備は無しで」
「わかりました、すぐ準備します」
あくまでも今日は非番、緊急だったとしても装備を取りに戻ることはできるだろうし何もなければそのまま買い物でもして帰ればいい。
急ぎ身支度を整えて蒼天の剣の事務所まで移動。
相変わらず大きなビルだなぁここは。
「あ!和人君桜ちゃん、こっちこっち」
「綾乃ちゃん!」
「一体何事なんだ?」
「さぁ、買い物してたら急にギルドの人に呼び止められたんだ」
「でもなんだか急いでいる感じだったので、お休みなんですけど連絡したんです」
「あの蒼天の剣が急ぎの案件ねぇ・・・」
受付前にいた須磨寺さん達が元気に手を振ってこっちへ走ってくる、少し遅れて追いかけるルナも季節的には厚着な感じだが一見するとどこにでもいる女の子のようだ。
この間顔を見たからだろうか、余計にそんな風に見えるんだよなぁ。
そんな風に受付前で話をしていると奥から如何にも探索者っていう人が近づいてきた。
「白狼の盾の皆さまですね、どうぞこちらへ」
「何かあったんですか?」
「それに関しては上でご説明させていただきます」
「とりあえず行くだけ行ってみようよ」
桜さんが訪ねてみてもここでは他人の目があるのか詳しく教えてくれなかった。
その時点で嫌な予感がするんだがここまで来て帰るのもあれなのでとりあえず話だけ聞いてみよう。
直通エレベーターに乗って上層階へ、今日も多くの団員が忙しそうに何かの作業をしている。
旅団を結成したばかりの俺達でもやることが盛りだくさんなんだ、この人数ともなるとそれはもうものすごい量なんだろうなぁ。
「やぁ新明君、急に呼び出して悪かったね」
「月城さんどうかされたんですか?」
「んー、どうかしたというか今からどうにかなるというか。今回は同盟旅団として話を聞いてほしくて来てもらったんだ、とりあえず奥に行こうか」
廊下を進んでいると、何かしらの報告を受けながら歩く月城さんとバッティングした。
悪い予想は的中するというか、やはり何かが起きているようだ。
更には月城さんを先頭に歩いていると後ろに何人もの団員が付いてくる。
手には大量の書類、そのまま会議室らしき大きなホワイトボードが設置された部屋へと案内されると流れるように書類が配られた。
どうやら俺達以外にも複数の探索者がいるようで、よく見ると雑誌とかで見たことのある人もいた。
流石上位旅団、声をかける人が豪華だなぁ。
「なんだか大ごとになっちゃったねぇ」
「ここに呼ばれた時点でわかってただろ?」
「でも緊急事態って程ではなさそうだよ?」
「それを判断するのはこれからだな・・・っと、始まるみたいだぞ」
書類を手にした月城さんが正面に立つだけで一気に部屋の空気が変わるのが分かった。
「ようこそ蒼天の剣へ。まずは急な要請にも関わらず集まってくれた同盟旅団の皆に感謝を、来てくれて本当にありがとう。今日この場に来てもらったのは当旅団の方針であるダンジョンの平穏が脅かされる可能性が出てきたからだ。本来であれば僕達だけで解決するところなんだけど、残念なことにそれが叶わない状況になりつつある。まずは手元の資料を一枚捲ってくれるだろうか、これは梅田ダンジョン内泉ダンジョンの平常時だ。本来であれば資料にあるようにコンコンと湧き出ているはずの魔力水だが、調査の結果激減していることが判明した」
資料を手にスラスラと説明を始める月城さん。
そういやこの間カレンさんとアレンさんが泉のダンジョンに行ってたけど、どうやらこれの調査だったようだ。
最初はただ魔力水が減っただけと思いきや、資料をめくれば捲る程自体が悪い方に進んでいることが分かる。
最初は軽い感じで話を聞いていた他の探索者も事態の重さを知り難しい顔になっていく。
間違いなく俺もそんな顔をしているだろう。
はぁ、なんでこういろいろ問題が起きるのやら。
「以上が梅田ダンジョン内泉のダンジョンの状況だ。これを放置すれば梅田ダンジョン全体に影響が広がり難易度が跳ね上がる可能性はゼロじゃない。ダンジョンの平穏を守るためにも僕達はこの状況を打破しなければならない、その為にもどうか力を貸してもらえないだろうか」
話を終えた月城さんが深々と頭を下げ、一緒に並んでいた他の団員も同じように頭を下げる。
重苦しい雰囲気の中、誰かのため息が静かな会議室に響き渡った。




