281.旅団について詳しく決めました
旅団設立から三日。
大道寺グループとレリーズ商会が同時に新規旅団を支援するというニュースが世に出てからというもの、事務所には連日多くの来訪者があり終日その対応に追われていた。
これが七扇さんの言う事務所と自宅を一緒にするなというやつだったのか。
その多くがスポンサーの申し出、後は旅団同士の同盟希望とか、専属でダンジョンに所属してほしいギルドの職員とか市区町村の偉いさんとか、ともかく多くの人がやってくるので二日で休業の札を出した。
はぁ、蒼天の剣になんであんなに職員がいるのかよくわかった気がする。
これを俺達だけで処理するのは流石に無理があるよなぁ。
「・・・疲れた」
最後の客を帰し、事務所に戻る力もなくそのまま応接室のソファーからずり落ちる。
疲れた、マジで疲れた。
そんな俺を見て横で一緒に話を聞いていた須磨寺さんがペットボトルのお茶を頬に当てて来る。
いつもならそれを払ったりするけれども、今日はその元気もなくされるがままだ。
「お疲れ様、でも今日はマシだったんじゃない?」
「一回五分の面談とはいえ十時間は流石にやりすぎだろ。100件だぞ100件、出来たばっかりの旅団にいったい何を求めてるんだよ」
「そりゃ知名度も実力もあって更には超巨大企業がスポンサーにつき、あの蒼天の剣と同盟を結んでいるとなれば万が一の可能性に賭けて話を聞いてほしいんじゃないかなぁ。それで、めぼしい所はあった?」
「ない!」
「あはは、まぁそうだろうね」
何処も自分本位で俺達に対する配慮というかメリットというか、そういうのを一切感じられなかった。
地元の名産品を渡すからダンジョンに所属してくれとか、税金を安くするから自分の街に事務所を構えてそこで活動してくれとか、ともかくそんなのばっかりだ。
もちろん切実なお願い的なのもあったけれども、それを俺の一存で決めることは出来ないのでこれは後で話し合うとしよう。
しばらくすると七扇さんと桜さんが戻ってこない俺達を探しに応接室へやってきた。
「団長、お疲れ様でした」
「七扇さんマジでやめてくれ」
「ふふ、凛ちゃんは言いたくて仕方なかったんですよ」
「そうそう、僕も呼んでいいかな新明団長!」
嬉しそうに団長と連呼する七扇さんと須磨寺さん、確かにその身分ではあるけれども俺達はパーティーメンバーなわけだし別に偉くもなんともないんだがなぁ。
因みに旅団結成時にいくつか役職を決めなければならなかったのでここにいる全員が一応役職についている。
団長は俺、副団長は桜さん、会計が七扇さんで倉庫番が須磨寺さん。
今後メンバーが増えてもこの役職は変わりない。
もちろん組織が大きくなるとそれに合わせた規則というか旅団のルール的なものが必要になってくるんだろうけど、生憎と今は人を増やすつもりは無いので俺達で全てを片付けなければならない。
メンバーとは関係なく事務員を置くところも多いので、こっちは早急に検討した方がいいだろう。
これに関してもスポンサーが手配してくれるので俺達の懐が痛む心配はない、本当にありがたい話だなぁ。
「ふふ、それじゃあ私も。新明団長、お疲れのところ申し訳ありませんが書類の山が出来ていますので団長室へお願いします」
「マジで今からやらないといけないのか?」
「別に明日でもいいですけど、もっと書類が積みあがりますよ」
「こんなことするために旅団を作ったんじゃないだけどなぁ」
「今だけですから頑張りましょう、私も手伝いますから」
「ガウ!」
こくこく。
自分達も手伝うとやる気満々のリルとルナ、彼女達も旅団の広告塔として大変な日々を過ごしている。
旅団の名前になるぐらいだから仕方ないとはいえ本当に申し訳ない。
疲れた体に鞭を撃ち、応接室を出てその足で団長室へ。
李社長が手配してくれた旅団事務所は非常に広く部屋だけでも10を超え、その全ての部屋に置かれた調度品もかなり豪華だ。
これらのほとんどはスポンサーであるレリーズ商会と大道寺商会が用意してくれたもので、最初は不要だと断ったんだけど旅団の品格が問われるからと強引に置かれてしまった。
結果としては置いてくれた事で見栄えも良くなり相手から舐められなくて済んだけれども、一つ壊すとものすごい金額になるらしいので非常に気を使ってしまう。
唯一そういうものが置かれていないのは事務所に用意してもらった俺専用の個室、元々は団長室裏のウォークインクローゼットなんだけどそこを自分専用の個室に改造してもらった。
団長としての我儘だが、これぐらいしてもらわないと正直やってられない感はある。
「次は所属ギルドの決定です、本日も問い合わせが多かったので正直早めに決めた方が良いと思いますけど、どうしますか?」
「んー・・・俺的には武庫ダンジョンかなぁ」
「本当にそこでいいんですか?正直梅田ダンジョンとかの方が色々と便宜を図ってもらえますし、報酬とかも上がりますけど」
「だけど、探索義務が発生するだろ?問題が起きれば調査にもいかなきゃいけないし、正直そういう面倒な事はやりたくないってのが本音だ。その点武庫ダンジョンなら木之本主任もいるし、あの人なら面倒な事は言ってこないと思ってる。いや、本当に面倒な事が起きたら要請されるんだろうけど、そんな事になったらどこに所属しても要請されてるだろうしな」
旅団を作った事により色々と面倒な手続きや義務が発生、これに関しては事前に勉強していたので理解はしているけれど、探索要請とかは非常にめんどくさい。
主に氾濫なんかが起きた時に潜るように要請されるっていうやつなんだけど、武庫ダンジョンにしておけばその心配はほとんどないので自由に潜ることができるだろう。
今日事務所に来ていた職員さんもほとんどが所属の勧誘、いい加減めんどくさいので桜さんの言うようにさっさと決めたほうがよさそうだ。
「じゃあ明日木之本主任に連絡しておきますね」
「岡本さんに怒られませんか?結構真剣に打診されてましたけど」
「それはそれ、これはこれ。御影ダンジョンでもいいんだけどあの人は絶対こき使ってくるから却下で」
「ま、それもそうだね。後は同盟旅団だけど、これは蒼天の剣があるから他を断っても文句は言われない。スポンサーも付いたことで倉庫の物資は順調に増えているし、さみしいといえば運営資金の方かなぁ」
そう、スポンサーが付いたから全て解決というわけじゃない。
彼らが支援してくれるのはあくまでも物資や事務所などの間接的な物であって、現金は支援してもらえない。
ギルドを運営するのにはお金がかかる、これはそのままの意味で電気ガス水道代は出してもらえても自分達の食い扶持や装備を買うお金は一円も出してもらえないんだよなぁ。
基本的にパーティー単位でダンジョンに潜った場合に得られる報酬は今まで通り個人単位で分配されるのだが、旅団に所属しているとそのうちの1%が運営費として差し引かれて旅団内の基金へとプールするように義務付けられている。
これは折角できた旅団を財政難などで潰さないようにするためで、これらのお金は経理が厳しく管理することになっている。
また、この基金は旅団内で死者が出た時などに支払う見舞金などに使われるため結果として自分に帰ってくるお金として非常に重要な意味を持つ。
パーティーで死ねば最悪一円も遺族に残らない、だが旅団に所属していると最低限のお金が遺族へと支払われる。
これは高ランク探索者を守るためのものであり、ここまで成長した探索者が得られる権利でもある。
じゃあ死亡率の高い低ランク探索者も所属させてやれよという話も過去に出たらしいが、あまりにも死者が多くてすぐに破産する旅団が出てくるので見送られたんだとか。
通常探索者が死亡した場合は探索者協会から見舞金が支払われるが、旅団に所属しているとそれとは別に見舞金が出るので探索者はより条件のいい旅団に所属するし、旅団も所属探索者が増えればより探索がしやすくなるので結果としてwin-winの関係が出来ている。
「運営資金に関してはダンジョンに潜って増やすしかないから、とりあえず休みが明けたらスキル回収ついでにダンジョンに潜ってくるよ」
「無理しないでくださいね」
「新生和人君のデビュー戦、頑張って!」
そう、いい加減レベルアップしたスキルを確認したくてうずうずしていたんだ。
スキルレベルは10。
新しいスキルを手に入れたことでどんなことが出来るようになったのか。
あぁ、事務処理なんてさっさと終わらせて早くダンジョンに潜りたいなぁ。




