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28.次の準備を始めました

 この前の襲撃以降、ビビることなく何度もダンジョンに潜った俺達は今まで以上に連携を意識した戦いができるようになっていた。


 元々それなりに戦えていたけれど、基礎が上がると応用の幅がさらに広がるのか最初苦戦していた七階層も今では楽に攻略できるようになっている。


 今のところ投擲スキルに関しては言い訳がきくので、率先して使うようになったことで稼ぎもかなり増えていた。


「お待たせしました、諸々買い取りまして全部で8万4千円とゴールドカードの適用で10万とんで800円の買取額になりますがよろしいですか?」


 この金額に加えてこの間発見した巣の発見報酬と襲撃犯の捕縛報酬について決定したらしく別途15万円が提示された。


 二つ合わせて26万弱。


 転送装置で七階層へと潜り、半日走り回って鶏と大蝙蝠をしこたま倒してから地上へ戻る。


 それをするだけで二桁万円の金額を稼ぎ出せるんだから探索者ってのは本当に儲かるもんなんだなぁ。


「よろしくお願いします」


「すごいですねぇ、一日でこんなに稼げるなんて」


「えへへ、頑張りました」


「これなら九階層の走破も時間の問題ですね、これまでの記録まで残り一週間ですがギルドとしても期待しています」


「あはは、無理のない範囲で頑張ります」


 報酬の入ったカードを受け取り、桜さんと共にギルドを後にする。


 毎日のように大量の素材を持ち込むものだから今やギルドで一番の注目株になってしまったわけだが、それに焦って命を落とすわけにもいかないのであえて反応しないようにしている。


 記録に関しても破りたくないわけじゃないが今はその時じゃない、とはいえこれだけの報酬をまとめてもらうとついつい頬も緩んでしまうわけで。


「報酬が多くてびっくりしました」


「まさかこんなに追加されると思ってなかったけどこれで例のマントに手が届きそうだ。だが本当にいいのか?二人で戦って手に入れたものなんだから折半するのが普通だけど」


「普通はそうかもしれませんけど今は和人さんの装備が最優先です。残りあと一週間、なんとしてでも記録を更新して実績を作りましょうね!」


 ソロであれば手に入れた報酬はすべて自分のものになるけれど誰かと一緒に戦えばその人数で報酬を分け合うのが一般的だ。


 その考えで行くと桜さんとも折半するのが普通なのだが今は九階層を超えるという共通の目的ができたために俺の総取りということにしてくれている。


 桜さん曰くお金に困っていないからということなのだが、それでも命を預けあっているだけに申し訳ない感じがなくならない。


 そんな俺を励ますかのようにまるで自分のことのように気合を入れる桜さん。


 なんだろうこの人懐こい感じ、ついつい昔飼っていた大型犬を思い出すなぁ。


「どうしました?」


「なんでもない、何でもないぞ」


「ならいいんですけど。どうします?このままドワナロクに行きますか?」


「んー、この前の報酬もあるしとりあえず現物見ておきたいし。マントだけじゃなくてほかにも使えそうなものがあれば一緒に買っておきたい。でもなぁ、全部買うのはさすがにお金がなぁ」


「お父様に言えば半額ぐらいにはなりますよ?」


「ゴールドカードでも十分安くしてもらってるし、やっぱり自分で稼いで買うのが大事だと思うんだ。ほら、後で難癖付けられても嫌だしさ」


 そもそもゴールドカードを使っている時点でどうかという話ではあるけれど、これに関しては正式な対価としてもらっているだけに普通の値引きまでなら文句を言われる筋合いはない。


 とはいえ湯水のように金がわいてくるわけではないので安いに越したことはないし難しいところだ。


 ドワナロクに到着して最初に向かったのは探索者向けの装備エリア、探索者証を提示してゲートをくぐると突然スーツを着た男性が現れた。


「ようこそお越しくださいました新明様。」


「えっと、どちらさまでしょう。」


「わたくし、当階を担当しております鈴木と申します。剛太郎様より新明様の補佐をするように命じられておりますので何なりとお申し付けくださいませ。」


「お久しぶりです鈴木さん。」


 突然やってきた初老の男性・・・鈴木さんに向かって桜さんがにこやかに挨拶をする。


 えっと、俺専属の店員さんってことになるのか?それもこの階の一番偉い人が?


「お久しぶりです桜様。それで今日は何をお探しですか?」


「和人さんが武庫ダンジョンの九階層に挑戦するのでそれ用の装備を探しに来たんです。ブリザードイーグル用にマントを新調したいんですが、いいものありますか?」


「もちろんございます。ですが同時に出ますフレイムリザードの装備は用意できておりますか?」


「それに関しては対処できるので大丈夫です。とりあえずイーグルだけどうにかできれば。」


「かしこまりました、いくつか候補がございますのでどうぞこちらへ。」


 九階層に出てくるのはフレイムリザードとブリザードイーグル。


 常に一対で出てくる凸凹コンビだが、実力者でも苦戦する組み合わせでもあるのでここで挫折する探索者も多い。


 装備やチームワークで何とかなる相手ではあるけれど、どうしても難しい場合は手前で実力を積みながら実力を上げてほかのダンジョンに行くのが最近の回避ルートになっている。


 そもそもそんな魔物を相手にソロで走破しようってのがおかしな話なのだが、おそらくフレイムリザードは水鉄砲のスキルでどうにかなるはずなので最初さえしのげば後は何とかなると踏んでいる。


 これまでの経験上フレイムリザードのスキルさえあればブリザードイーグルにも対応できるはず、とはいえその最初をどうにかするのに必要なのが今回探しているマントというわけだ。


 案内されたのは外套やローブなどが並べられたエリアで、近くのマネキンが身に着けていたマントの値札は驚きの50万円。


 うーん、別世界というか場違いというか。


 そんな雰囲気の中でも桜さんは特に気にする様子もなく、まるでファストファッションを見るかのように装備品に手を伸ばしていく。


 その間に複数の職員さんが三体のマネキンを設置、商品を手に戻ってきた鈴木さんが大事そうに商品を羽織らせていく。


「今回ご提案できますのはこの三種類。手前がフレイムカウの皮を使いましたマントで、耐熱性能にすぐれておりブリザードイーグル程度の冷気であれば防ぐことは可能でお値段も30万円と比較的手ごろになっております。しかしながらこの中では一番重く、素早く動くには不向きな商品です。真ん中がウィンドディヒーアの皮を使たもので、マントを覆う風の魔素が冷気を吹き飛ばし守ってくれます。もちろん風にも強く別のダンジョンにいった際に重宝することもあるかと、お値段は40万円ながら軽さと色合いで非常に人気の商品です。そして一番奥がホワイトベアの毛皮を使ったマントで当店一押しの品となっております。零下20度の寒さでも活動でき、見た目以上に軽いだけでなく少々の炎であれば防ぐことが可能です。篠山ダンジョンにもいかれるのであれば買っておいて損のない逸品となっておりますが、価格は80万円と非常に高価となっております。」


 テレビショッピングを聞いているかのような滑らかな話し方に、思わず聞きほれてしまった。


 この階を管理しているだけあって販売経験もものすごくあるんだろうなぁ。


 俺だったら最初の商品紹介だけで噛みまくっていることだろう、ぶっちゃけ説明とかあまり得意じゃないんだよな。


「鈴木さんのおすすめはホワイトベアなんですね。てっきりウィンドディヒーアかと思ってました。」


「桜様のようなお若い方には人気の商品ですが、実用性で考えると風の強いダンジョンはC級以上となっておりそれ以外での役目はあまりないかもしれません。ひとまず九階層を超えるのであればフレイムカウだけでも構いませんが、見たところそちらの棒で戦われるご様子。動きを殺すのは得策ではないと思われます。」


「でもさすがに80万はなぁ・・・。」


「新明様はゴールドカードをお持ちですし剛太郎様よりくれぐれも粗相のないようにもうしつかっておりますので勉強させていただくおつもりです。ざっとこのぐらいでいかがでしょうか。」


 提示された金額はゴールドカード諸々を差し引いてもなかなかの金額だったのだが、武庫ダンジョンをクリアした後は篠山ダンジョンに行くつもりでいたのでこれを逃すのはもったいない気がする。


 でもなぁ、予算オーバーだしなぁ・・・。


 思わぬ形で出てきた最高の装備。


 装備一つでダンジョンの難易度はぐっと下がるといわれているだけにどれが正しいのか必死に考えるのだった。

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