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27.まだ秘密にすることにしました

 死んだように眠った翌日。


 起きた時にはもう昼をまわっていて慌ててリビングに行くも珍しく桜さんの姿はなかった。


 あんなことがあった次の日だし彼女も疲れているんだろう、そう思って冷蔵庫を開けると先に目が覚めていたようで作り置きされた朝食にメモが貼ってあった。


 なんでも父親に呼び出されたとかで夕方まで戻らないらしい。


 まぁそういう日もあるよな。


 ありがたく朝食をいただき、何もする気が起きないので自室でゴロゴロしながら昨日使った装備の手入れすることにした。


 ただの棒とはいえ魔物を倒せば汚れもするし脂もついてくるし、特に昨日はあのおっさんの攻撃を何度も受けることになってしまい至る所に凹みやくぼみができてしまっている。


 それでも長年連れ添った相棒は手をかければかけるほど光を取り戻し一時間ほどでピカピカに磨き上げることができた。


 折角なのでブーツやリュックなんかにも手を伸ばしてきれいにしていると気づけばもう夕方、昔みたいに出勤日があるわけじゃないので明日もゆっくりできると思うと何とも言えない優越感を覚えてしまった。


 もちろん生きていくには命を懸ける必要のある職業だけど、それでも昔の仕事に比べたら何倍も稼ぐことができるのでお金の心配をしなくていいってのは何物にも代えがたい安心感がある。


 加えて、昨日あんなことがあったのにダンジョンに対する恐怖心が出ていない事になんとなくほっとしてしまった。


「ただいま戻りました」


「おかえりなさい桜さん、用事は終わりましたか?」


「昨日の襲撃の件を父が耳にしたらしくて心配しただけでした。和人さんのことをすっごい褒めてましたよ」


「あまり褒めすぎてハードル上げられるのは嫌なんだけどなぁ」


「でも守ってくれたのは事実ですし。あ!お店で料理を包んでもらったんです、一緒に食べませんか?ご飯まだですよね?」


 おそらく中華料理か何かだろう、香辛料のにおいをかいだ途端に自己主張の強い腹が空腹を主張、それを聞いた桜さんがなぜかニヤリと笑ったのはなぜだろうか。


 てっきり総菜か何かだと思ったんだが、さすが大道寺グループの娘だけあって昼食もなかなかに豪華なものだったらしく丁寧にパッキングされた料理が何種類も机の上に並べられいく。


 本人は向こうで食べ過ぎたとかで食べるのを遠慮したのだが俺のためにわざわざ持ち帰ってくれたんだろう。


 正直なところ彼女を助けたのは本当に偶然だったし、父親のお願いとはいえなぜ彼女がここまでしてくれるのかいまだにわからないままでいる。


 それでも決して押しつけがましくないし、強く拒めばすぐに引いてくれるので彼女なりにバランスのいいところを探してくれているんだろう。


 初めて食べる料理にお腹も膨らみ食後のお茶をいただきながらソファーにゆったりとくつろぐ。


 元の家じゃ考えられない広さと家具のすばらしさ、こんなのを知ってしまったらもう元の生活になんて戻れる自信がないんだがまさかそれを狙っているのか?なんて考えすぎだよなさすがに。


「はぁ、料理の名前はわからなかったけどどれも美味しかった、ご馳走様」


「お粗末様ですって、私が作ったわけじゃないですけどね」


「でも片付けまでしてお茶まで出してくれたんだし、なんだか申し訳ないなぁ」


「いいんですいいんです!私が好きでやってるだけだし、和人さんはそれを受け取る権利もあるんです。それよりも、この間襲撃されたときのことなんですけど・・・」


 ホッとしていたのもつかの間、彼女が唐突に質問を投げかけてきた。


 襲撃者から逃げるときに収奪スキルを使ったのだがどうやらそれについて気になっているらしい。


 そりゃ自分を殺そうとしてきたおっさんの手が突然紫色になり毒に侵されたともなれば気にもなるだろう。


 あそこにはキラービーはいなかったし何がそうさせたのか気になるのも無理はない。


 本当はスキルについて話すべきなんだろうけど、まだ彼女のことを信じ切れていない自分がそれについて伝えることを拒んでいる。


 今後を考えればいつかは伝えるべき、だがそれは今じゃない。


「やっぱりあれは和人さんがやったんですね!」


「ほんと運良く偶然なんだけど、いてもたってもいられなくてあの毒針を投げたんだ」


「でも、それが手にあたったおかげで私が助かった」


「いやいや、助けたというかなんというか。でも大変なことにならなくて本当によかったよ、もし桜さんに何かあったらお父さんに顔向けできないからね」


 命まで取られなかったとしても何かしらの後遺症を残すようなけがをしてしまったとしたら、いったい俺はどうなってしまうんだろうか。


 今のこの家を失うとかなら全く問題ないけれど探索者そのものを引退させられるか、もしかするとこの世から消されないとも限らない。


 そういう部分でも彼女との探索に関しては別の危険を伴うわけなのだが・・・。


「もしそうなっても絶対に父は和人さんを責めないと思います。ダンジョンに挑むのは私の意志で、和人さんはそのお手伝いをしてくれているだけですから。恨んだりは絶対にしません」


「わかった、その言葉を信じるよ」


「もし心配だったら父に念書を書かせましょうか?」


「いやいや!そこまでしなくてもいいから!」


 大道寺グループの社長に恨まないでくれなんていう念書を書かせるとか、マジで勘弁してくれ。


 向こうはものすごく期待してくれているけれど、偶然当たりスキルを手に入れた新米探索者に過ぎないんだから。


 その後もことあるごとに俺を気遣ってくれる桜さんだったが、今後もっと危険な所に行くんだからその辺も俺が慣れていくほかにない。


「それじゃあ改めて今後について決めようと思うんだけど、引き続き連携を深めつつ七階層を目指すってことでいいのかな?」


「それで大丈夫です。私も今回のことでまだまだ自分が弱いってことを痛感したので、和人さんが一人で潜っている時は鍛錬をつけてもらうことにしました。本当は実家に頼らないつもりだったんですけどそうも言ってられませんし何より和人さんに迷惑はかけられませんから」


「迷惑だなんて思ったことはないけどこっちも桜さんに負けないように練習しよう」


「今でも十分強いと思うんですけど、そういうストイックな所がかっこいいんですよね」


「ごめん、それについてはよくわからないかな」


 彼女がなぜそこまで俺を気に入っているかはよくわからないけれど可愛い子に褒められるのは悪い気はしない。


 とはいえあのデブのおっさんに勝てたのも収奪スキルがあったおかげだし、せめて実力で倒せるようにならなければ武庫ダンジョン制覇なんてのは夢のまた夢だ。


 加えて、現在ギルドで話題になっているのが俺の単独ダンジョン走破。


 なんでも過去に新人がそれを成し遂げた例はほとんどなく、更に言えば探索者になってこれだけの短期間であそこまで潜る実力者が出てこなかったこともありよくわからない所で期待されていると彼女に教えてもらった。


 別に実績とかそういうのには興味なかったけれど、今回の一件をうけてその考えも変わってきている。


 もしそれを成し遂げれば少なからず俺に対してケンカを売ってきたりちょっかいを出してくる人は少なくなるだろう。


 更に言えばある程度の実績を積み上げておけば、もしスキルのことが明るみになってもそれを利用しようとするやつらから自分を守ることができるんじゃないだろうか。


 何もない新人のままだといいように利用される可能性だってあるが、ある程度名が広まっていればそういう悪事を働くことはできなくなる。


 結果として彼女に迷惑をかけることもなくなるというわけだ。


 今まではただダンジョンに潜って金を稼げればそれでよかったんだけど今後はそうもいっていられなくなる。


 もっとも、もしそうなったときには大道寺グループの権力を存分に使わせてもらって身を守るつもりでいるけどね。


 俺に手を出せば大道寺剛太郎が黙っちゃいないぞ、なんてセリフを吐く日が来ないことを祈りつつ次なる目標に向けて話し合いを続けるのだった。

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