269.思わぬスキルが効果的でした
目の前にはドライアド、その奥にはウッドハンター、更に近くにはアサシンマッシュルームと中々にめんどくさい状況の中、打開策を探して全員が知恵を巡らせている。
ルナは守りの要、桜さんも側方からの狙撃に対処してもらわないといけないし、七扇さんは索敵スキルでウッドハンターを探しつつ発見次第狙撃してもらう必要がある。
リルはアサシンマッシュルームを唯一発見できるのでその対処、須磨寺さんは全員の応援。
となるとこの状況で何もしていない、いや何かできるのは俺しかいないという事だ。
とはいえ使えるスキルは微妙にかみ合っておらず、状況を打破するようなものではない。
とはいえ何もしないわけにもいかないので、とりあえず試すだけ試してみよう。
【アラクネのスキルを使用しました。ストックは後四つです】
アラクネを見ながら魅了スキルを使用、何かしらの影響があればいいのだがいつまでたっても動きが無い、もしかして効いているのか?と一歩前に出た次の瞬間、右の茂みからから蔓が伸び右手首に絡みついてくる。
「今切ります!」
引っ張ってもなかなか千切れない、何度か試していると横から桜さんがショートソードで蔓を切って切れた。
「すまん、助かった」
「何かしましたか?」
「魅了スキルを使ってみたんだが、残念ながら効いていないらしい。くそ、これはめんどくさい状況だな」
「生身の魔物じゃないからじゃない?ドライアドって実体がありそうでない微妙な存在だから、もしかしたら別の魔物になら効くかもしれないよ。とはいえここのは全部無理そうだけど」
「となると九階層とか前の階層で使っとけって話だよな」
「残りのスキルは?」
「どれも微妙な感じ、ここで攻撃力を上げても意味ないし突進したところでってやつだろ?」
「んー、だねぇ」
現状を打開するようなスキルは無し、万策尽きたわけじゃないので最悪無理すれば何とかなるだろうけどそこまでする状況なのか判断に悩むところだ。
とはいえ、じりじりとメンタルは削れてきているのでどこかできっかけを作らなければジリ貧なのはまちがいない。
「さっきのスマイルはどうですか?」
「は?」
「残ってるスキルで使えそうなのってそれだけですよね?」
「いやまぁ、そうなんだけど魅了も効かなかったんだぞ?」
「でも試していませんよね?」
「そりゃ、まぁ」
「じゃあやりましょう!」
ここにきて桜さんからまさかの提案、確かにまだ試していないとはいえまたあれをするのか?
無意味だとは思うけれども何もしないよりかはした方がマシ、効果が無かったら無かったでまた考えればいい。
恥ずかしさはある、とはいえ相手は魔物なので笑われたところで・・・いや、想像すると結構来るものがあるなぁ。
そんなつまらない自尊心と戦うこと数秒、再びドライアドと向かい合い深呼吸をしてスキルを発動する。
【ディフィリアンのスキルを使用しました。ストックは後三つです】
いつものアナウンスを脳内で聞きながらなんでこんなのが後三つもあるんだと思ってしまったが、収奪しないのは勿体ないという貧乏性がそうさせてしまった。
さて、反応はどんなもん・・・あれ?
「これ、効いてる?」
「なんだかさっきと表情が違いますよね」
魅了スキルでは全く反応の無かったドライアドだが、スマイルスキルでは明らかに反応がある。
なんだろう、ぼーっとしているというか惚けているというか・・・。
まさかマジで魔物には効くのか?
「命令か何かしてみてはどうでしょう」
「それいいかも!さすが凛ちゃん、冴えてるぅ!」
「とりあえずやってみるか」
ぼーっとした顔で俺を見て来るドライアド、さっきは一歩前に出ただけで蔓が飛び出して来たのに今回はそれが無い。
それどころか向こうが俺に合わせて後ろに下がってしまった。
「えーっと、止まれ」
「あ!止まった!」
「すごいすごい!魔物が言う事聞いちゃったよ!」
「マジか」
「まるでテイムしたみたいですけど、そういうのとは違うんですよね?」
確かにルナとかリルは俺の指示をしっかりと聞いてくれるのでそれ系の可能性はあるけれど、いつものよなアナウンスは流れてこない。
つまり主従とかテイムとかそういう感じではなさそうだ。
「しばらく攻撃してくるな、それとハンターのいる方向を教えてくれ」
「動かなくはなったけど・・・ハンターの場所はわからないみたいだね」
「でも動かなければ何とか探せそうです」
おそらく二つの指示は同時に出来ないんだろう、攻撃するなと言ったことで慌てたように横の茂みに移動するドライアド。
その顔はまるでアイドルを見た若い子の様で見ているこっちが恥ずかしくなってしまう。
いったい彼女にはどんな風に見えているんだろうか。
とりあえず正面が空いたのでルナを先頭に七扇さんに進んでもらい、ハンターを探してもらいつつリルにはアサシンマッシュルームを警戒してもらう。
いや、それよりもいい方法があるぞ。
「アサシンマッシュルームが来たらそいつを捕まえろ、出来るよな?」
コクコクコク!
まるでルナのように何度も頭を縦に振るドライアド、すごいなここまで意思疎通できてしまうのか。
俺が知らないだけかもしれないけど、普通の魔物と意思疎通ができるってこれってもしかしなくても大発見だったりするんじゃないか?
しゃべれる魔物だったら情報を聞き出したりとかそういう使い方もできるかもしれないし、一時的にとはいえ戦力が増えるのは非常にありがたい。
なんだろう、こんなキラキラした顔で見られたらスキルのせいだと分かっていてもなんだか自分がすごい人になったような錯覚を覚えてしまうんだが・・・なんて思っていると突然木の上からすぐ横の茂みに蔓が突入、ガサガサという音と共に本当にアサシンマッシュルームを捕まえて見せたドライアド。
どや顔する感じは何とも愛らしい感じ、そりゃ召喚用ブレスレットで人気になるわけだよなぁ。
「よくやった、偉いぞ」
いつもリルにしているようにドライアドの頭を軽く撫でてやると嬉しそうに目を細める。
触れられるってことはもしかして・・・
「ドロー」
【ドライアドのスキルを収奪しました。束縛、ストック上限は後七つです】
予想通りスキルを収奪、だが収奪したから今のスキルがつかえなくなるわけではなく、アサシンマッシュルームは蔓に捕まりじたばたともがいたまま。
【アサシンマッシュルームのスキルを収奪しました。ステルス、ストック上限は後七つです】
こちらからもスキルを収奪しつつこいつは遠慮なくとどめを刺しておいた。
スマイルスキル、使うことなく封印するつもりだったスキルがまさかこんな素晴らしいスキルだったなんて思いもしなかった。
これさえあればこの先も大丈夫・・・そう思ったのもつかの間、さっきまで惚けた顔をしていたドライアドが突然真顔に戻り、キノコを捕まえていた蔓が襲い掛かってくる。
「和人さん!」
「やっぱりそう上手い事いかないよな!」
どうやらスキルは一定時間しか効果がないようで、また魔物に戻ってしまったドライアドを桜さんと二人係で攻撃。
攻撃するたびに葉っぱが舞い上がり、最後は核が見えた所で桜さんがそれを叩き壊した。
吸い込まれた後に残ったのは何枚かの葉っぱ、それがドロップ品ではなく彼女が生きた証のように見えてしまう。
一瞬でも仲間みたいに思ってしまったので若干良心が痛んでしまうがこれも宿命だよな。
「仕方ないよ、ダンジョンだから」
「わかってるさ」
「皆さんお待たせした・・・ってあれ?」
其れから少しして無事ハンターをしとめた七扇さんとルナがこちらへと戻ってきた。
さっきと違う雰囲気に首を傾げる二人、ともかく八階層を抜けるにはスマイルスキルが効果的だという事はわかったのでそれでいいじゃないか。
脳裏に浮かぶあの顔を無理やり思い出さないようにしながら先へ進むのだった。




