268.植物に狙われました
ヘップダンジョン八階層。
男女ともに殺意の湧く魔物をボコボコにした俺達は新たな階層へと足を踏み込んだ。
ムーディーな雰囲気とは一変、今度はフロア全体が足元から天井まで植物でおおわれている。
いきなり森の中に迷い込んだのか!と思ってしまうけれど上を見上げれば太陽は見えているし、風も通るので今までの同じようなダンジョンと違って蒸し暑くて息苦しいという感じはないが、息を吸い込んで感じる香りは一緒だ。
「これまたビルの中とは思えない光景だな」
「まぁダンジョンだからね、そもそも空間が違うし各階層の広さも多分違うと思うよ」
「それをダンジョンで片づけられるのがアレだけど・・・ま、先に進むだけだ。ここには何が出るんだっけ?」
「ドライアドとウッドハンター、それとアサシンマッシュルームの三種類ですね」
「また女の子ですか」
「大丈夫だよ桜ちゃん、さっきと違ってドライアドは僕と一緒でツルペタだから和人君の守備範囲外だし。そう、僕と一緒でツルペタ・・・」
「いや、なんで自爆するんだよ」
自分の胸部を撫でながらテンションを急降下させる須磨寺さん。
そんなに落ち込まなくても、っていうかそもそも彼は男だ。
そりゃ胸部パーツがふくよかな男性もいるけれど、総じてそういう人は腹部にもいい感じに肉がついているわけで。
そう、最近の俺みたいに・・・。
「なんで和人さんまで落ち込んでいるんですか?」
「ちょっと現実を確認していただけだ」
「綾乃ちゃんは今のままでいいんです」
「うぅ、そう言って慰めてくれるのは凛ちゃんだけだよ」
「そう言いながら私の方を見るのはやめてください!」
「だって、ねぇ」
「羨ましいです」
七扇さんに抱き着きながらチラチラと桜さんの胸部を見る須磨寺さん、その視線に桜さんが慌てて両手で胸を隠すのだが残念ながら胸当てから若干こぼれてしまっているのは隠せていない。
ちなみにそんなやり取りを見ていたルナがそっと自分の胸部を確認していたのを俺は見逃さなかった。
いや、その下は骨だからと指摘してはいけない、世の中には言わない方が良いことがたくさんある。
「ともかくだ、ドライアドはともかくウッドハンターとアサシンマッシュルームは姿を見せないからくれぐれも気を付けてくれ。特にリル、マッシュルームの方は任せたぞ」
「ワフ!」
「ルナは一番前で道を作りながら七扇さんは引き続き索敵を継続、桜さんは遠距離狙撃に注意してくれ。資料によるとウッドハンターはかなりの遠距離から狙撃してくるらしい、それでもカバーリングのある桜さんなら何とか受け止められるはずだ」
「おまかせください!」
「で、和人君は?」
「いつも通り出たとこ勝負」
「あはは、でもそれが一番大事だからね」
それぞれにはそれぞれの役割があるけれどそれに縛られてしまうともしもの時に言い動きが出来なくなってしまう。
臨機応変に動けてこそ一人前の探索者、俺みたいにスキルで色々できすぎるとこれ!という役割が無かったりするけれど、前でも後ろでも好きなように動いて戦えるのが俺の売りなので今はそれを実直にこなすだけだ。
ルナが道を切り開きつつゆっくりとダンジョンの奥へと進んでいく、しばらくすると突然開けた場所に出てしまった。
更にその先に獣道のようなものまである。
今までと明らかに違うわざとらしい空間、リルが唸り声をあげて周囲を警戒しているあたり誘い込まれたのは間違いない。
「いつどこから撃ってくるかわからないからな、気をつけろ」
「綾乃ちゃんはしゃがんでください」
「オッケー、任せた!」
「さぁ、どこからでてくる?」
草木は胸の高さまであるのでそれよりも低くすれば直接ハンターに狙撃されることはないだろう。
ルナが一歩また一歩と中央に進んでいくと、どこからともなく撃ち込まれた矢が構えた盾にはじかれる。
すぐに七扇さんの方を見るも残念ながらどこから撃ち込まれたのか把握することはできなかったようだ。
「完璧に相手のテリトリー内ってか?七階層との落差がありすぎるだろ」
「一体一体はそこまで強くないけど、ここまで露骨に狙われると別の意味で神経を使うよね」
「どこからでも撃ってきそうで、どこを警戒していいのかわからなくなります」
とりあえず正面は何とかなるとして、側面から狙われると一番危ないのは背の高い俺ってことになる。
いきなり脳天に矢を撃ち込まれるとか勘弁願いたい。
その時だ、ガサガサという音共に正面から緑色の何かが姿を現した。
出てきたのは全身緑色の少女、葉っぱを折り重ねたようなドレスがなんとも可愛らしいがその肌の色から明らかに人でないことが分かる。
ドライアド、確かにさっきの階層と比べて胸部装甲は薄めだが愛らしい姿から探索者の中にファンがいるというのも納得だ。
警戒する俺達に臆することなく一歩また一歩と近づいてくるそいつに合わせてルナが大楯を前に構えようとしたその時、突然左右の茂みから緑色の蔓が伸び桜さんの腕に絡みついた。
「え?あ!キャァ!」
盾を持つ左手に蔓が絡みつき、慌てて振りほどこうとしたところを狙って更に右足首にもそれが巻き付いたことでバランスを崩す桜さん、引っ張って振りほどこうとするもかなり丈夫なのか引きちぎることは出来そうにない。
「これでどうだ!」
慌てて対処するべくルナの前に飛び出ると相手の思うつぼ、ということで魔装銃を構え後ろからドライアドの額を撃ちぬくも頭部分がパッとはじけたように見えるも実際は葉っぱが霧散するだけでダメージを与えられている感じはなかった。
「くそ、これじゃダメか」
「この・・・切れた!」
尻もちをつきながらも素早く腰にぶら下げていたショートソードで蔓を切り落とすことに成功、引張る力には強くても所詮は蔓、切られたりするのには弱いらしい。
「大丈夫か?」
「なんとか」
「ドライアドは核になる部分を攻撃しないとさっきみたいに葉っぱが舞うだけなんだ。直接こっちを攻撃してくるわけじゃないけど今みたいに蔓で行動を阻害、その隙を狙って・・・」
「ウッドハンターが狙撃してくると」
「そういう事。しかもそれだけじゃないんだよね、ここは」
そう、ここに出る魔物は三種類。
さっきからリルが身を低くしているのはそいつを警戒しているからだ。
【恒常スキルを使用しました。エコー、次回使用は10分後です。】
スキルを使うもドライアド以外に反応は無し、という事は何か別の方法で身を隠しているんだろう。
ガーゴイルの擬態とかそういうスキルなのかもしれない。
正面にはドライアド、茂みの奥からはウッドスナイパー、そしてどこかにもう一種類。
ドライアドそのものは攻撃してこないようだが、狙われるという事がこんなにも精神的に疲れるとは思っていなかった。
全員の緊張が高まり短い時間なのにその何倍も時間が経っているような錯覚を覚える。
収奪スキルで現状を打破できればいいんだが、残念ながらそれに適したものを持ってきていない。
七階層で収奪したのも残念ながら使えそうにないしなぁ。
直接攻撃されているわけじゃないのになんでこんなに疲れるのか、そんな言葉がのどまで出かけたその時だ。
「グァゥ!」
突然リルが飛び出し、何もない茂みに向かって爪を振り下ろすと、さっきまで何も反応が無かったエコースキルに人型の何かが姿を現した。
もちろん肉眼でも確認、キノコ頭の人間いや人の形をしたキノコ?
ドライアドよりも小さなそいつは、リルの爪によって上半身を袈裟懸けに斬り割かれその場に倒れる。
「あれがアサシンマッシュルームか、さっきまでエコーにも反応しなかったってことはスキルか何かで隠れていたのか?」
「多分そうじゃないかな」
「リルが居なかったら膠着状態のまま近寄られて、あの手に持ったナイフでブスリってか?」
「もちろん毒付きだから」
「ここにきてC級らしい難易度に持ってくるなよな」
しばらくしてキノコ人間が地面に吸い込まれたのを確認してから身を伏せたままリルがこちらに戻ってくる。
後はどこかにいるハンターを何とかするだけ、とはいえいつキノコ人間が近づいてくるかわからない状況で飛び出すのも難しい上にドライアドがそれを邪魔してくるというなんともめんどくさい状況。
やれやれ、一筋縄ではいかせてくれないようだ。




