261.連携攻撃を試しました
「グァゥ!」
リルがサイクロプスの脛に噛みついた事でわずかに体勢が崩れ、俺の少し先をこん棒が通り過ぎていった。
危ない危ない、この辺には届かないだろうと思っていたのにまさか届くなんて思ってなかった。
一瞬の油断が命取り、自分で気をつけろと言いながらこれなんだから流石階層主だなぁ。
「ナイスリル!」
「和人さん、少し下がってください」
「下がるって言ってもなぁ」
「あれだけ同じ場所を攻撃しているのに全く効いている気がしないのはちょっとしんどいですね」
「あぁ、武庫ダンジョンのアイアンゴーレムを思い出すよ」
あの時も効いているのか効いていないのかもわからない中、必死に戦ったのを覚えている。
別に初回で倒す必要はないのでここで一度引いて再度戦いを挑めるありがたさ、黒熊との戦いを経験しているだけに逃げられないような錯覚を覚えてしまうがそんなことはない。
とりあえず桜さんに言われた通り一度後ろに下がり、須磨寺さんからゼリー状の栄養補助食品を貰い一気に胃に流し込む。
「どんな感じ?」
「流石C級って感じ」
「いいねぇ、その返し。強いけど怖くない?」
「怖くはないな。とはいえ俺達の攻撃が効いているのかわからないから別の意味でメンタルに来る」
「なるほどねぇ。でも安心していいよ、こいつはこのダンジョンでもまだ弱い方の階層主だから」
「全く安心できないがとりあえず倒せそうって事だけはわかった」
はぁ、今でも中々苦戦しているのにこれよりも強くなるのかこの先は。
誰だよヘップダンジョンが一番簡単とか言ったやつ、装備をそろえた所で全然簡単じゃないじゃないか!
そんな事を思いながらも不思議と悲壮感がないのもまた装備のおかげ。
真ん中でサイクロプスの攻撃を受けるルナだが、新調した装備のおかげか前みたいに盾が変形しているわけでもないし、ちゃんと攻撃を受けながらも反撃が出来ている。
桜さんもそうだし、リルも比較的余裕がある感じ。
七扇さんはクロスボウがあまり効かなくて不満そうだけど、代わりに毒系の攻撃を加えてなんとかダメージを与えられないかと模索中だ。
階層主と戦いながらもこうやって工夫が出来る当り俺達が成長した証拠、それこそこの間の大規模討伐が俺達を一歩先に進ませてくれたんだろうなぁ。
「よし、行ってくる!」
「頑張って和人君!」
須磨寺さんに応援されながら再び戦場のど真ん中へ、こん棒が振り下ろされたタイミングを狙って一気に近づき何度も狙っている脛に向かって思い切り棍を打ち付ける。
が、反応は芳しくない。
うーむ、やることは変わらないけどいったいどうなってるんだこいつの脛は。
「固いけど、なんだろう違和感がある」
「違和感・・・ですか?」
「脛を殴ってるつもりで脛にあたってないというか、固い物を殴ってるというか。ほら、目を攻撃した時と同じ感じで何かの膜に覆われてるような感じ」
「和人さんの外皮みたいな感じですかね?」
振り下ろされたこん棒が地面近くを薙ぎ払うように再び振り上げられるのを華麗に避けつつ、桜さんと作戦を練る。
サイクロプスの攻撃は主にこん棒、稀に足を使って蹴とばしたり踏みつぶそうとするけれども基本的に広場のど真ん中から動く気配はない。
別に何かに縛られているって感じじゃないんだけど何か理由があるんだろうなぁ。
「次にリルが攻撃するとき、ちょっとしっかり見てもらえるか?」
「わかりました確認してみます」
「俺は七扇さんと一緒に周囲を確認してみる」
再び戦線を離れ七扇さんに事情を説明、本当は桜さんの直感スキルの方が探し物を探すのには適しているんだろうけど、あの至近距離で確認できるのは彼女にしかできないことだ。
何度も地面を叩きつけるように振り下ろされるこん棒を避けながらすれ違い様にリルが爪を振り下ろす。
だが、最初同様高い音が響くだけでダメージを与えられた形跡はない。
それをすぐ近くで確認していた桜さんが急ぎこちらに戻ってきたのだが、その表情は今日一番の明るさだった。
「和人さんの言う通りです!リルちゃんの爪が脛ではなく脛の前の別の何かに阻まれている感じでした!」
「予想通り、ってことはこの広場のどこかにそれを作る何かがあるかもしくは外皮同様一定のダメージで破壊できるかの二択だな」
「どっちから行きます?」
「そりゃ簡単な方だろう。出来る限りの攻撃をして駄目なら全員で捜索、それでも駄目なら・・・」
「駄目なら?」
「壊れるまで叩き続けるだけだ」
やれることはまだまだあるはず、とりあえず一番簡単なことからやってみよう。
再びサイクロプスの下へと戻り、リルと合流して作戦を伝える。
作戦って言ってもタイミングを合わせて流れるように同じ場所を攻撃する、ただそれだけだ。
まずはリルのブレス、そこを目印に俺が棍を叩きつけて続いて桜さんが棍を振り下ろす。
その間にリルが即座に反転して爪か牙を突き立てるかそこめがけてスキルを発動させればいい。
一回でダメなら二回、三回、四回と連携しながら連続攻撃を当ててみればいいだけだ。
もちろん一回で成功するとは思っていないので、タイミングを見計らないながら何度も挑戦を繰り返す。
狙うは軸足の左、最初はリルのブレスに俺が合わせることすらできなかったけれど、五回十回と繰り返すたびにどんどんと連携がうまくなっていくのがわかる。
そして17回目。
「グァ!」
「からの!」
「私も!」
こん棒が振り下ろされた瞬間にリルがとびかかり爪とブレスで目印をつけ、そこめがけて棍を振り下ろす。
真っ白い脛に白い破片が舞い、そこめがけて桜さんが渾身の一撃を振り下ろす。
明らかに最初とは違ってカキン!がガキン!という鈍い音となっているのが分かった。
そして桜さんがそのまま走り抜けると同時に、リルが着地の反動を生かしてバネのように再び足へと飛びかかった。
今度は噛みつき攻撃、それが命中するよりも早くスキルを発動させる。
【ワーウルフのスキルを使用しました。ストックは後一つです】
見えない爪撃が牙よりも早く襲い掛かり、そこにリルの牙が突き刺さる。
完璧な連携攻撃、これでどうにもならなかったら・・・という俺の不安を吹き飛ばすように、ガラスが砕けるような音の後ついにリルの牙がサイクロプスの脛をとらえていた。
飛び散る鮮血とサイクロプスの悲鳴にも似た怒号。
「よっしゃ!」
「ナイスリルちゃん!」
こん棒を持たない反対の手がリルを振り払おうとするも素早く回避したリルが口元を真っ赤にしながらこっちに戻ってきた。
「作戦成功、やったな」
「グァゥ!」
「これで攻撃が通るようになりましたね」
「あぁ、問題はあれがどれだけ続くかだ。すぐに回復するかもしれないし、この機を逃さずもう一回・・・」
脛を噛みちぎられ苦痛に片膝を付くサイクロプス、だが奴は血をまき散らしながらこん棒を杖にゆっくりと立ち上がろうとしていた。
何か嫌な予感がする。
「ルナ、今すぐ戻れ!」
その予感の中心にいるのは間違いなくルナ。
俺の声に彼女が反応すると同時にそれは始まった。
耳をつんざくような咆哮、思わず両手で耳をふさいだ次の瞬間。
地面がものすごい音と共に揺れ始めた。




