244.取り巻きごと倒しました
オノゴロダンジョン四階層。
初めての護衛依頼、しかも未経験のC級ダンジョンなのでどうなることかと思っていたけれど気づけばもうこんなところまで来てしまった。
本来であればここから一度地上に戻るのだが、今回は次の階層主を倒さなければ地上に上がれない。
なにより護衛依頼の達成条件が階層主の突破なのでここで引き返すという選択肢は無しだ。
四階層は二階層のような砂地が広がる海底、とはいえさっきほどサラサラではなくそれなりに足場はありそうなのでこれなら戦いになってもなんとかなりそうな気がする。
「疲れてませんか?」
「うむ、私はただついて歩いているだけだから問題ない。」
「他のダンジョンはもっと広いですから、このぐらいで疲れてもらっては困ります。」
「相変わらず厳しいねぇ桜ちゃん。」
「本当の事ですから。」
相変わらず父親の事になると厳しい桜さん、これが全くの他人だったらまた反応も違うんだろうけど肉親故というやつだろうか。
三階層も一方的な戦闘だったため疲れはさほど出ていない、このままでいけば五階層への階段もすぐに見つけられるんじゃないだろうか。
そう思っていた時もありました。
「あーーーもう、多い!」
「桜ちゃん、そっちに二匹!」
「お父さん伏せてください!」
「お、おぉ!」
桜さんの方に流れる二匹の魚、そのうちの一匹を桜さんのメイスが叩き潰し死骸が大道寺社長の真横に着弾。
もう一匹をカバーリングで美味く受け流しながら体制を崩すことなく対処していく。
前に一度持たせてもらったけど、あのメイスって中々の重量があるんだよな。
それをあんな風に片手で振り回すんだからもしかすると俺よりも腕力が付いているんじゃないだろうか。
「和人君、前!」
「おっとぉ!?」
【フロアンダーのスキルを使用しました。ストックは後四つです】
猛スピードで体当たりを仕掛けてくるのはマグロのような巨大な魚、砂地で足を取られそうになるもフロアンダーのスキルを使えば足場が悪い所でも軽やかに動くことができる。
間一髪のところで避けつつ、その勢いを使ってその場で回転して後ろから魚の尾びれを叩くと軌道が変わりルナの方に向かってしまった。
ロケットのような加速でまっすぐ突っ込むマグロもどき、だが臆することなく盾を構えた彼女はその突進を盾で受け止め、少し後ろに押されながらも完全にその勢いを殺して見せた。
「グァゥ!」
最後は横からとびかかったリルが首元を真っ二つにすれば討伐完了、砂に沈んだ死骸の後には赤みの柵が残されていた。
「あぶな・・・くはなかったみたいだね。」
「いやナイス忠告、こっちも気を引き締めないとな。」
「本体はドロップを残すのに取り巻きは残さないってのがちょっと納得できないけど、まぁこれ全部ってなったらすごい事になるから仕方ないよね。」
「ドロップ品目当てに人が殺到、すしネタは全部オノゴロダンジョン産とかになるかもな。」
オノゴロダンジョン四階層、ここに出るのはプライドフィッシュという魔物・・・というか魔物の集合体。
低階層なので一階層に一種類しか魔物は出ないという概念を崩してくる魚の群れそのものが魔物というなんとも非常識な奴らだ。
一匹一匹に個性があり、素早さ重視のアジみたいな奴もいれば毒針のついた触手をそっと忍ばせて来るクラゲみたいなやつもいる。
一応その中心にいるのがさっきのマグロもどき、あいつが本体というかドロップを落とす魔物の様でそれ以外の魚を倒しても一切ドロップは手に入らないみたいだ。
さらに他のやつからスキルを収奪できないかと試してみたけれど、取り巻きではスキルを手に入れることはできなかった。
となると本体からしかスキルもドロップも収奪できないわけだ。
今のところあのマグロもどきが本体っぽいんだけど資料によっては白身がドロップしたっていう話もあるので毎回違うのかもしれない。
因みに本体を倒しても取り巻きは残るので結局全部倒さなければならないわけで、あまりの数の多さに流石のルナもすべて受けることが出来ず、結果乱戦になってしまう。
足場の悪い中で戦うのは至難の業、リルは持ち前の素早さで何とかなるみたいだけどルナは鎧の重さで砂地に足を取られてしまうのかいつもの様にヘイトを稼ぎ続けるという事が出来ないらしい。
一体一体はそんなに強くなくても数の暴力は中々に大変、今は何とかなっているけれど少しでも崩れたら大道寺社長に怪我をさせてしまいかねない。
一応俺はフロアンダーの軽歩スキルでそこまで沈まず戦うことはできるけれど、それだけで群れの全魚を追いかけることはできないわけで。
さすがC級ダンジョン、そう甘くはないらしい。
「これで終わりです!」
「みんな無事、みたいだな。」
ひとまず群れを片付けた所で皆の無事を確認、ここではいつまたあの群れがやってくるかわからないのでゆっくり休憩するというわけにはいかない。
それでも気を抜かないと後で大変なことになってしまうので、すぐさま一か所に集まり社長を真ん中にして短い休憩を取ることに。
「七扇さん、右腕怪我してるぞ」
「ほんとだ、気づきませんでした」
「凛ちゃんも桜ちゃんの横で結構倒してくれたもんねぇ、接近戦もいけるんだからホント凄い!偉い!可愛い!でも早く治療しよっか。」
「嬉しいんですけど、最後のはちょっと・・・。」
「えー、ホントの事なのに。」
七扇さんを茶化しながらもてきぱきと彼女の腕を治療する須磨寺さん。
運搬人の仕事だけでなくこういう裏方の仕事を率先してやってくれるからこそ、快適に探索できているんだよなぁ。
単独走破がすごいと言われるのはそういう補助を一切受けることなく潜り続けるから、でもそれをC級でやろうってのはいくらリルとルナがいたとしても難しいだろう。
そもそもあの量の魔物を一人でさばけって言うことが無茶すぎる。
「良い仲間に恵まれているんだな、桜は。」
「いえ、恵まれたのは私の方です。このパーティでは欠かすことの出来ない大事な一人が桜さんですよ。」
「最初は君の足手まといになるんじゃないかと思っていたし、実際指名を入れた時まではそう思っていた。だがふたを開ければ立派に探索者として活躍しているではないか。自社で作った道具を娘が喜んで使っている、これに勝る物はないな。」
「やっと認めてくれたんですね。」
「いや、認めるのは次の階層主を越えてからだ。聞けばかなり危険な相手、お前が足手まといでないことを証明して見せるがいい。」
「望むところです。」
なんだかんだ心配しながらも桜さんを焚きつけてやる気にさせる大道寺社長。
だがそこには複雑な親心が垣間見える。
親として子供の成長を喜びつつ危険な場所に送り出すことを不安に思う。
もし自分が同じ立場だったら・・・いや、そもそも子供を作る以前の問題だった。
「意気込んでくれているところ恐縮だけど、まだ四階層を走破できてないからまずはそっちに注力してもらおうか。ほら、次が来たみたいだぞ。」
「グァゥ!」
「前方敵多数!え?プライドフィッシュが二体います!」
「ってことはこれ以上の乱戦になるのか。」
「そこで静かにしてて、お父さん」
「しっかり守ってくれよ我が娘。」
一体だけでも乱戦になったのに二体まとめてきたらそれはもう大変なことになるだろう。
近付いてくる群れのうち片方にはさっきのマグロが見えるけど、もう片方にはその姿はない。
つまりリーダー的な奴をあの中から探さないといけないわけで・・・うん、無茶苦茶めんどくさいな!
それでも不思議と不安はなかった。
このメンバーなら大丈夫、そう確信しつつリルとルナと共に最前線へと身を投じるのだった。




