241.スキルを隠さず使いました
ソードフィッシュ。
見た目は太刀魚っぽい感じだけど、実際に背の部分が刃のようになっており触れれば普通に切れてしまう鋭さがある。
全部で十を超える群れのうち半数をルナが引き受け残りを俺達で迎え撃つ感じに、乱戦になる可能性が高いので桜さんには大道寺社長のそばにいてもらうことにした。
「リル、出来るだけかき回せ!」
「グァゥ!」
「七扇さんは外れたやつを迎撃、接近戦もあり得るから準備よろしく。」
「わかりました!」
ルナがいつまでも抱えることは難しいので、出来るだけ早く数を減らして助けに行かなければ。
初めから棍を握り、流れて来るソードフィッシュを横薙ぎでまとめて牽制しつつこれ以上後ろに流れないように気を付けながら攻撃し続ける。
【ソードフィッシュのスキルを収奪しました。突進、ストック上限は後七つです】
乱戦は慣れているけれど護衛を守りながらっていうのは初めてなので皆思うように動くことができないでいた、それでもスキルを収奪するぐらいのことはできるし一匹また一匹と確実に数を減らしていた、そう思った時だった。
「しまった!」
ルナが抱えそこなったやつが距離を取りながら移動したせいで牽制するのに間に合わず桜さんの方へ、急ごしらえのタンク役は俺には力不足だったかと思いながらも不思議と慌ててはいなかった。
「桜さんお願いします!」
「まかせてください!」
後ろでやきもきしていた桜さんが嬉々として魔物へと突撃し、ソードフィッシュの体当たりを盾で受け流しながら手にしたメイスを振り回し一撃でへし折ってしまった。
うーん、サブタンクに転向してからメイス持ちになったけれど振り回せるのかという最初の不安とは裏腹にどんどんとその切れ味が増している気がする。
心なしか利き腕が太くなっているような・・・いや、女性の前でこの単語は禁句だな。
「桜さんナイス!」
「一匹でしたら流しても大丈夫です、守りながらでもなんとかなります!」
「それは助かる。リル、ルナの所に行くぞ!」
「ガウ!」
桜さんが一匹倒してくれたことでこっちの残りは二匹、そのうちの一体を七扇さんが倒したことで残りを気にする必要がなくなった。
それが後ろに流れても桜さんが何とかしてくれる、それなら俺とリルはルナの補助に入ればいい。
【ソードフィッシュのスキルを使用しました。ストックはありません】
孤軍奮闘してくれたルナをフォローするべく収奪したばかりの突進スキルを発動、後ろに大道寺社長はいるけれど知り合いでもあるしなによりこのスキルを隠し続けるのはやめる流れになっている。
人の多い梅田ダンジョンで戦っていく以上いずれは周りに見られるし、なにより隠すことで他の仲間が危険にさらされるのであれば使わないという選択肢はそもそもおかしい。
木之本さんや月城さんという後ろ盾がいる以上多少の無茶は大丈夫だろう、という感じだ。
スキルを使用することで一気に加速、ルナに襲い掛かる二匹をそのまま両手でつかんだ棍で押し飛ばす。
残り一匹にリルが噛みつき、最後の一匹をルナが引き受けつつ七扇さんが狙撃をして無事に撃退することに成功した。
「みんなお疲れ。」
「あれだけの数をこの短時間で倒すとは見事なものだ。」
「心強い仲間がいるからです。」
「和人君、切り身どうする?食べちゃう?」
「これからガンガン出てくるだろうからとりあえず回収して保管かな。リル、食べるか?」
「ワフ!」
「じゃあ何匹かはリルちゃんに食べてもらいましょうか。」
「ほ~らリルちゃん、おやつだよ~。」
魚の切り身を食べるフェンリルというのもなかなか面白い感じだが、肉であることに変わりはない。
生肉に比べると食べごたえはないだろうから須磨寺さんのいうおやつという感じで間違いなさそうだな。
「それにしてもあの加速、あれは君のスキルなのか?」
「まぁそんな感じです。」
「なるほど、あのスキルにフェンリルそして頼れる仲間が君の快進撃を支えているわけか。」
「桜さんにも助けてもらってばかりでありがたい話です。」
「正直な話、君についていっているだけで探索者として本当にやっていけているのか不安だったがどうやら私の考えすぎだったようだな。」
ダンジョンという危険な場所に娘を送り出すのは父親として不安だったんだろうけど、実際に戦う姿を見せることでその不安も払しょくできたようだ。
なんせ最初のダンジョンで死にかけていたぐらいだからなぁ、不安になるのも致し方ない。
「新明さん、回収終わりました。」
「ごめん手伝えなくて。」
「いえ、綾乃さんと回収して回っただけなので。」
「罠とかそれ系はどんな感じ?」
「今のところあまり反応はありません。事前資料によれば元々罠は少ないらしいですけど、無いわけではないので引き続き警戒しておきます。」
「索敵はリルにやってもらうからそっちに注力してもらえると助かるかな、引き続きよろしく。」
大道寺社長と話している間に後片付けは終わったようだ。
ソードフィッシュから突進を収奪できるのは非常にありがたい、数も出てくるので出来る限り回収しつつ次の階層へ向かうとしよう。
そんな感じで何度か襲撃を受けるも抜群の連携ですべてを撃退、C級ダンジョンという事で構えていたところはあるけれど何とかやっていけそうな感じだ。
「あ、階段発見!」
「話に聞いていた通り階層自体は狭い感じだなぁ。」
「五階層迄行くことを考えるとありがたいですね。」
「とはいえ長丁場は長丁場だ、大丈夫ですか?疲れていませんか?」
「あぁ、問題は・・・。」
「父なら問題ありません、すぐに行きましょう。」
いや、桜さんが決める事じゃないと思うぞ。
相変わらずお父さんのことになると厳しいもんだ。
そんな桜さんを先頭にひとまず二階層へ。
到着した先は先ほどのサンゴ礁エリアとうって変わって砂地のエリアが広がっている。
一歩進むたびに足がとられ思うように先へと進めない感じでしかも隠れる場所がないときた。
さっきは足の踏ん張りがきいたので自由に動き回れたけれど、ここではそれは出来そうにない。
「よし、休もう。」
「え!?」
「どう考えても足場が悪いし、ここで無理する必要もない。それにだ、ドワナロクの経営者に自社製品を使ってもらう絶好の機会だと思わないか?」
如何にもという理由をつけてみたけど、実際は俺が休憩したいだけ。
俺の言葉に須磨寺さんがカバンを下し、てきぱきと階段の横に携帯用の椅子を並べていく。
桜さんは少々不満げな感じだけど俺の決定なのでそこまで強くは言えないようだ。
ひとまず大道寺社長を近くの椅子に座らせ、その前にドワナロクで買い求めた探索道具をこれでもかと設置。
少々早い休憩だけど護衛対象を疲れさせないのもこの依頼に大事な事、実際歩きなれないダンジョンに社長もそこそこ疲れているようだ。
「どうぞ。」
「うむ、ありがとう。」
「そんなに甘やかさなくてもいいのに。」
「まぁまぁ桜ちゃん、和人君が休みたいんだからいいじゃない。」
「そうなんですけど。」
「これは大事な指名依頼、偶然桜ちゃんのお父さんだったけど他の人だったらどうするかを和人君は見せてくれているんだと思うよ。今後こう言うのも増えて来るしいい経験だと思えばいいじゃない。」
「・・・わかりました。」
ナイス須磨寺さんグッジョブ。
半分正解で半分違うけど桜さんが納得したのならそれでよし。
やっといつも通りになった桜さんと共に休憩しながら次の階層をどう駆け抜けるのかについて話し合うのだった。




