24.隠し部屋に突入することにしました
「和人さんってこんな感じの隠し部屋を見つけたことありますか?」
「申し訳ないけど探索者になったのつい最近だから」
「あ!そうでしたよね、実力があるんでつい・・・」
「前の職場で先輩が見つけたって話は聞いたけど、中にあったのは宝箱だったかな」
ダンジョン内にはもちろん宝箱が存在する。
だが一般的にお目にかかるのは5階層よりも下に降りてからなので、この奥にあるとしたら非常に珍しいことになる。
まぁ過去には一階層で見つかったこともあるのであくまでも珍しいという事だけなのだが。
「敵、いますね」
「それも多くないか?かなり羽音がするんだけど」
隠し通路を進み最初の角を曲がろうとした時だった、直感スキルに反応したのか後ろを歩いていた桜さんが俺に警戒するように教えてくれた。
足を止めて集中するとブブブブという低い音が幾重にも重なったような感じで聞こえてくる。
元々キラービーは群れることがあるけれどそれでも最大で三匹ほど、でもこの音は明らかにそれを超える数がいる気がする。
角の手前で止まり恐る恐る顔を出すと、その先にはそこそこ大きな部屋があり部屋の中を複数のキラービーが飛び回っているのが確認できた。
見えるだけでも五匹、その奥に何かあるのはわかるがそれが何かはここからでは確認ができない。
距離はざっと30mほど。
突入できないこともないけれど、流石に五匹を相手にするのは厳しそうだ。
「どうします?」
「ここまできて戻るっていう選択肢はないけど、流石にあの数を同時に相手するのは危険すぎるから少しずつ間引くしかないかな」
「でもどうやって・・・、遠距離攻撃はできませんよ?」
前衛職だけど別に攻撃手段がないわけじゃない。
今ある物を利用するのも探索者としては必要なスキル、そんなわけで足元に転がっていた石を掴むと心の中で投擲スキルを発動する。
まるでプロ野球選手のようなフォームで投げられた石は目にも止まらぬ速さでキラービーへと向かい、直撃こそしなかったものの羽を破ることに成功した。
「え、和人さん野球選手だったんですか!?」
「まぁ子供の時にね」
本当はスキルだけどこれはまだ常識?の範囲内で使えるのでごまかすことは出来るはず。
どうやらうまく誤魔化せたようで再び様子をうかがうと、羽を破られた奴ともう一匹がこちらに向かってくるのが見えた。
通路から少し距離を置き、角を曲がってきたところを二人同時に襲い掛かる。
羽を破った方を桜さんがもう一方を俺が強襲し反撃すらさせず撃退することに成功、俺は一撃で倒してしまったが桜さんの方は壁に吹っ飛んでまだ地面に吸収されていなかったのでスキルを回収しておこう。
「ドロー」
【キラービーのスキルを収奪しました、毒針。ストックはあと三つです。】
基本は一撃必殺なのでスキルを回収することもなかったが、なるほど予想通りのスキルだった。
これで保有するスキルは毒針が1回に突進が2回。
怪しまれないうちにとどめを刺してドロップ品を回収しておく。
残りは三体、同じやり方で倒すのもありだが気になるのはやはり部屋の中。
恐る恐る近づいた俺達を待っていたのは信じられない光景だった。
「あれって巣だよな?」
「え、キラービーって巣をつくるんですか?」
「そりゃ蜂だから作るんだろうけど、こんなにデカいのがあるなんて聞いたことないぞ」
そもそもダンジョンの魔物が巣をつくるっていう話も聞いた事がない。
5mはありそうな巨大な巣、あの中にいったいどれだけのキラービーが隠れているか見当もつかないんだが。
「どうする?流石に勿体ないとか言ってられない状況なんだが」
「でも、もしかするとあの奥に宝箱があるかもしれないんですよね?」
「まぁ、可能性の話ならな」
「じゃあ近づけるだけ近づいてダメだったらすぐに逃げるってのはどうでしょう」
「チャレンジャーだな」
「だってもったいないじゃないですか」
桜さん的には自分達で倒せる魔物だけに何とかなると思っているんだろうけど、俺からすれば下手なリスクは冒したくないわけで。
だが、この機を逃すのは惜しいと思う自分もいる。
とりあえず様子を見ながら近づいて、やばかったら逃げるってのも悪い作戦ではないか。
「確か蜂って超音波に弱いんでしたよね。それなら共鳴棒を使えませんか?」
「あれは蝙蝠用じゃなかったか?」
「とりあえずやってみましょうよ、減る物じゃありませんし」
なにが彼女をそこまでさせるのかはわからないが、とりあえず使ってみてから考えるのもありか。
やる気十分の桜さんに共鳴棒を手渡して部屋のすぐ近くまで移動してから思いっきりそれで床を叩く。
耳をつんざくような音が部屋中に反響し、それに反応した飛び回っていたキラービーが俺達に向かってくる。
棒を捨てて武器を構えた桜さんだったが何故か奴らの速度が遅くなりそのまま地面に落下してしまった。
まるで殺虫剤を撒かれたかのような反応。
図体がでかいと効果も大きくなるんだろうか。
「えっと、どうしましょう」
「どうしたもこうしたもこの機を逃す手はないだろう」
死んだわけでなく巨大な足が弱々しいながらも動いているので慌てて近づいてとどめを刺していく。
【キラービーのスキルを収奪しました、毒針。ストック上限はあと二つです。】
【キラービーのスキルを収奪しました、毒針。ストック上限はあと一つです。】
とりあえず確保できるものは確保しておこう。
飛び回っていたやつはなんとかなったので残るはこのバカでかい巣だけ、見た感じ入り口っぽいのはないんだけれど・・・。
「気配はしませんね」
「え、ほんとに?さっきので倒れてるだけじゃなくて?」
「さっきはわからなかったんですけどここまで近づいても魔物の気配はありません」
「ってことはこれで終わりなのか?」
この階層で5匹のキラービーが一部屋にいるだけでもかなり珍しい、それを駆除したと考えればありえないはなしではないんだけども。
とりあえず警戒しながら巣の周りを確認するも羽音も穴も確認できなかった。
ついでに言えば宝箱もない。
桜さんはかなり期待していたみたいだけど、どこを探してもそれらしきものは発見できなかった。
折角の隠し部屋だったというのに残ったのはこの巣だけか。
「どうします?」
「このまま放置するのもあれだし、とりあえず壊してみて中身を確認するぐらいかな。もしかしたら中に何かあるかもしれないし」
「そうですよね!折角の隠し部屋なのにこれだけなわけないですよね!」
一縷の望みをかけて巣を破壊する。
もしかすると魔物が飛び出してくるかもしれないので細心の注意を払って破壊していかないと、そんな話をしていた時だ。
「うわ、なんやあれ。」
「もしかして巣か?そうだとしたら大発見だぞ」
突然聞こえてきた声に慌てて後ろを振り返ると、そこには先ほど入り口ですれ違ったあの男たちの姿があった。
隠し通路を追いかけてきたのは別に違法でも何でもないけれど明らかに俺達を値踏みするような雰囲気に緊張が一気に高まる。
「これは俺達が見つけたものですので報告はお任せください」
「まぁまぁそんな事言うなって、報告するだけやなくてこの巣を持ち帰った方が確実やろ?手伝ってやるからさ」
「結構です」
「なんだよ、人が善意で言ってやってるのにその口の利き方」
「年長者に対する態度ってやつを教えてやらなあかんみたいやなぁ坊主」
やっぱりあの時の桜さんが覚えた違和感は間違いなかったようだ。
あろうことか俺達に向かって武器を向けるオッサン二人組、狙いはやっぱり俺達だったようだ。
『魔物よりも怖いのは人間だぞ』
そう言っていた先輩の言葉が今になって思い出されたのだった。