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23.違和感を確かめる事にしました

 シューティングシュリンプの味に感動した翌日。


 俺と桜さんは完全防備の装いで武庫ダンジョンの前に立っていた。


 向かうは六階層。


 レベル上げを目的とするならば五階層のストーンゴーレム一択なんだが、九階層を走破するためには二人で行くにせよ装備の充実を図らなければいけない。


 となるとやる事は一つ、そう金策だ。


 武庫ダンジョンで一番儲けが多いのは第六階層、まずはそこを目指しつつ問題無ければ七階層まで行って転送装置を利用できるようにしておきたい。


「それじゃあいつもの通り四階層から行って、ストーンゴーレムを撃破。それから六階層に行ってアングリーバードとビッグムルシェラゴを相手にすることになる。予習はしてきたね?」


「アングリーバードだけなら私が抑えて和人さんが撃破、ビッグムルシェラゴがいるなら先にそっちを倒してからアングリーバードを撃破。その為の道具も持ちました!」


「六階層はかなり暗い上に罠も出てくるからくれぐれも気を付けて」


「緊張しますけど、でも和人さんと一緒だから大丈夫です」


 俺がいるからって危険が無くなるわけじゃないけれど、スキルを使わずにどこまで行けるのか試したいっていう気持ちもあるので自分の実力を測る意味でも良い試金石になってくれるだろう。


 この日の為にドワアロクで大型のライトとビッグムルシェラゴ対策の共鳴棒を買ってきた。


 二つで五万円を超える買い物になってしまったけれどそれで危険が減るのなら安い買い物だし、さらに数をこなせるのであれば十分に元は取れる。


 共鳴棒は子供の頃に音楽室で見た音叉という道具を大きくしたような奴で、これで壁を叩くことで音を大きく反響させビッグムルシェラゴの動きを阻害することが出来るらしい。


 雄叫びスキルがあればそれだけで済むけれど探索するのに便利な道具はどんどんと取り入れていくべきだ。


 収奪スキルが便利とはいえ使用回数に制限はあるしなにより桜さんがいたら使えない。


 いずれは教えなければならない日が来るだろうけど、正直なところまだ彼女を心の底から信じているわけじゃないんだ。


 あまりにも話がうますぎてまだ疑っている所はある、慕ってくれている桜さんには申し訳ないけれどもう少しだけ見極めさせてほしい。


 いつもの職員さんに見送られつつダンジョンの四階層へ転送装置で移動すると、少し離れたところに別の探索者達がいるのに気が付いた。


「あ、良かったら先に行ってください」


「いいんですか?」


「まだ準備が終わってなくて、ごめんなさい」


 向こうも俺達が来たことに気づいたのか、すぐに端の方に移動して道を譲ってくれた。


 すぐに気付いたのは俺達と同い年ぐらいの若い女、それと30代半ばぐらいのオッサンが不愛想な顔で此方をちらりと見たあともう一人の男と小声で何かを話している。


 探索者は俺達だけじゃないしこの前のようにダンジョン内で遭遇することもそれなりにある、とりあえず会釈だけして急いで通路の奥へと進むことにした。


「なんだか変な感じでしたね」


「そうか?」


「すれ違う時なんですけど、男の人達がジッと和人さんの装備を見てたんです」


「装備ねぇ」


「気のせいだと思うんですけど変なこと言ってごめんなさい」


 俺も何となく違和感はあったが、最初の女性がかなり明るく話しかけてくれたのでそれが薄らいでいたのかもしれない。


 基本的に探索者同士の揉め事はご法度、特に武器を使って襲い掛かるのは資格の剥奪すらある重罪だがそれでも目撃者がいなければそれを確認するすべはない。


 なのでネットとかでは襲われているのを見たとか襲われた!とか色々と叩かれていたりするのを見ているだけに、桜さんの覚えた違和感はあながち間違いじゃないのかもしれない。


 証拠を残さないためにわざとトレインを起こして擦り付けたりという事もあるらしい、ダンジョン内の敵は魔物だけでなく人、そう言い切る人もいるぐらいだ。


 それにさっき潜る前に珍しく主任が忠告してくれたんだよなぁ。


 あくまでも噂話だよって話だったけど、気を付けた方がよさそうだ。


「気を付けるに越したことはない、とりあえずこの階層は最短ルートで駆け抜けて五階層に向かおう。とはいえ油断して怪我するのもバカらしいからくれぐれも慎重に」


「わかりました」


 四階層の魔物はキラービー。


 一匹一匹の強さはそれほどでもないけれど、群れで襲われると厄介な相手だ。


 いつもより速い速度で通路を進みながら、出くわしたキラービーを二人の連携をうまく使って冷静に対処すれば特に問題はないはず。


「桜さん、左!」


「まかせてください!」


 幸い二匹以上出てくることは無かったので、それぞれが一匹を確実に仕留めれば特に危ない感じもなく倒すことが出来た。


「何とかなりますね」


「それだけ桜さんが成長したってことだね。さっきのラッシュも良いタイミングでしたよ」


「えへへ、褒められました」


 桜さんが所有しているスキルはなんと三つ。


 さすが大道寺グループと言いたいところだが、一つは最初に貰ったクリスタルで手に入れたもので、残りの二つは自分でお金を貯めて手に入れたらしい。


 一つが今使ったラッシュ、前衛が多用するスキルで通常よりも素早くそして強い攻撃を繰り出すことが出来る。


 二つ目がカバーリング、盾を装備していないと使えないけれど敵の動きに合わせてほぼ自動で体が動くという珍しいスキルだ。


 これを最初に手に入れた事で片手剣と盾を使うようになったらしい。


 これは大盾なんかでも使えるらしいので攻撃を引き受けることの多いタンク職からすれば喉から手が出る位に欲しいスキルと言えるだろう。


 そして三つめが直感、エコーとまでは行かないけれど先程のように違和感とかを感じやすくするものらしい。


 これがあるおかげで今のところは敵の不意打ちを受ける事はない。


 後はこれが六階層で使えるかどうかで戦いの難易度が大きく変わるだろうな。


「あれ?」


「どうした?」


「あそこ、なんか変じゃありませんか?」


「変・・・なのか?」


 桜さんが指をさしたのはL字の曲がり角、一見するとただの壁にしか見えないんだが彼女のスキルは普通じゃないと何かを感じたようだ。


 一応近づいてみるも目で見ただけでは特に変わった所は見当たらない。


 最初は罠があるのかとも思ったのだがそれでもないらしい。


「具体的に・・・はわからないんだよな?」


「そこまでは。でもそこだけ他と違う気がするんです」


「違和感があるからこそスキルが反応しているんだろうけどなぁ。うーん・・・」


 特に違いが無ければ今までと同じくそのまま素通りしてしまう曲がり角、その壁に手を当て色々推してみるも反応はない。


 だが、最後に耳を当ててみるとその違和感に気が付いた。


「何かいる。この音、キラービーか?」


「え、でも壁ですよね」


「壁に見えるだけでおそらく向こうに道が続いてる。俗にいう隠し通路ってやつだ。桜さんが覚えた違和感の正体はこれだったんだな」


 壁の向こうから聞こえてきたのはビーンという低い音、今まで何度も戦ってきているキラービーの羽音がこんな感じの音だったはずだ。


 高い音というのは壁に当たったりすると吸収されるか弾かれてしまう物だが、低い音に関しては芯があるので壁の向こうに響いたりする。


 あれだ、建物の中にいても花火のドン!って音が聞こえるのと同じ感じだ。


 つまり向こうにはキラービーがいてこの壁はそれを隠している。


 そうとわかれば後は開ける方法を探すだけ、改めて壁に手を当てながら押したり叩いたりしていると膝ぐらいの高さに少しだけ出っ張った部分があり、それを押すと同時にゴゴゴゴという音と土煙と共に壁がスライドして曲がり角だった場所に新しい通路が姿を現した。


 こういった場所には総じてお宝が眠っている。


 思いもしなかった展開に桜さんと目を見合わせ、とりあえず壁の向こうに隠れていたキラービーを瞬殺した。


 隠し通路の先に待つのは一体何か。


 六階層を目指すことも忘れ、俺達は隠された通路を進むのだった。

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>さすが大道寺グループと言いたいところだが、一つは最初に貰ったクリスタルで手に入れたもので残りの二つは自分でお金を貯めて買ったやつと登録するときに貰ったクリスタルで手に入れたらしい。 貰ったクリスタ…
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