229.すべてが一つに合わさりました
宝箱から出てきたのは白骨化した頭部でした。
そんな今時の漫画でもないような展開に全員の動きが固まってしまう。
いや、まぁ十四階層でいやってほどスケルトンを見ているだけにいまさら頭蓋骨程度でビビるわけじゃない、それでもこんなものの中から出てくると流石になぁ。
最初に骨壺みたいと思っていただけにマジでそうなのかと勘違いしてしまったぐらいだ。
「和人君。」
「皆まで言うな、俺も混乱してる。」
「でも明らかにコレだよね。」
「この色、このフォルム間違いないだろうな。」
ドワナロクで売っているようなごつごつしたヘルムじゃない、流れるような丸みのあるフォルムにどうくっついているのかわからないような接合部。
そしてなにより特徴的な黒に近い紺色、全てがダンジョン七不思議のひとつあの十三階層の鎧に結び付く。
頭はどこに行ったんだろうかとずっと謎に包まれていたけれども、そりゃ階層主の足元に眠っていたら見つかるはずないよなぁ。
あのオルゴールもすべてはここに繋がっていたわけだ。
もしかするとあれを使って動きを止めないと出てこないとかいうギミックがあるのかもしれない。
ここに来るまでにあの二つをそろえて階層主を倒せってあまりにも無茶ぶりすぎるだろう。
「これ、どうするんですか?」
「どうするもなにも一緒にもっていくしかないだろう。」
「え、今からですか?」
「本当は休んでからって言いたいところだけど・・・ぶっちゃけこれを持って家に帰りたくない。」
「僕も同感だね。とはいえ折角川西ダンジョンを走破したんだから報酬を確保してからにしない?」
確かにそれもそうだな。
あまりにも想定外のブツがでてきたせいですっかり頭から抜けてしまったが、俺達は無事階層主を撃破してD級ダンジョンを走破したんだった。
そのご褒美をもらわずして帰るなんてことはあり得ない。
そんなわけで白い箱をそっと閉じ、準備を整えてからお待ちかねの宝箱の前へ。
こんなに苦労したのに置かれていたのは銅箱、それでもまぁもらえないよりかはましか。
「おなじみのポーション、それとお守り?」
「こういう時はアミュレットっていうんだよ。」
「つまり装備品ってことか、当りだな。」
「まぁ効果次第だけどね。なんだかんだ今回は弓も盾も落ちてるし素材もかなり出たからいい感じの儲けになるんじゃないかな。」
「確かに。それじゃあ一回上に戻ってお待ちかねの場所に行きますか。またあのアンデッドの群れと戦うことになるけど、いけるか?」
「はい!」
「ガウ!」
転送装置を起動して一度地上へ、本当はそのまますぐに潜りたいところだけど聖水なんかが減っているので荷物を置きがてらギルドへ戻り買取品の査定をお願いする。
またダンジョン戻ると言ったら変な顔をされたが、仲間に道具を届けるといえば納得してくれた。
軽く休憩をしてから擬装用の道具を補充して再びダンジョンへ。
走破したおかげだろうか、心なしか最初よりもプレッシャーが少ないように感じる。
場所が変わっていなかったら例の部屋は一番奥の方、巨大な部屋で迷わないよう壁沿いに走りながらボコボコ生まれて来るアンデッドの群れを蹴散らしていく。
「ほい、到着っと。」
「結構早くこれたね。」
「まぁ真面に戦ってないしなぁ、素材もほぼほぼ置いてきたし。」
一応レアドロップが無いか須磨寺さんが確認してくれているけれど、拾っていないって事は出てないって事だろう。
部屋の中は前と同じく俺たち以外の探索者は無し、ということはこれを試す絶好の機会だ。
「どうするの?」
「どうするもなにも置くしかないだろ。」
一応オルゴールも持ってきているけれどどう考えても重要なのはこっちの頭、恐る恐る鎧の前に置いてみるも反応はなかった。
それならばと今度は鎧の上に乗せてみるも同じく反応なし。
「どうなってるんだ?」
「色的に全く同じだけど・・・。」
「オルゴールはどうでしょう。」
「それだ!」
今度はオルゴールを目の前に置き同じ手順を行うも反応なし、それならばと棒を刺して回しても駄目だった。
「ここまできてまさか手詰まりになるなんて。」
「駄目だねぇ。」
「んー、ここまでやって駄目なら一度戻るしかないか、いい加減疲れてきたし図書館なんかで文献を調べてからもう一度チャレンジしてみよう。」
「まぁ今回だけで絶対に解明しろってわけじゃないしね、なんせダンジョン七不思議だから。」
「あの、先ほど手に入れられた召喚を試してみてはどうでしょうか。」
ここまでかと諦めてヘルムと頭部を持ち上げたその時だ、一人何かを考えていた七扇さんがハッと思いついたかのようにつぶやいた。
「それだ!」
「どうして忘れてたんだ?なるほど、ここで召喚するのか。」
どうしてこいつだけ召喚スキルなんだろうと思っていたんだけど、なるほどここに繋がているのか。
慌ててヘルムを置きなおし深呼吸してからスキルを発動させる。
【デュラハンのスキルを使用しました、ストックはありません。】
空間にもやがかかったかと思うと、先ほど死闘を繰り広げたデュラハンが姿を現した。
そいつは俺達の方を向いたかと思ったら、すぐに横の鎧に目を向け片膝をつき地面に置いていたヘルムと頭蓋骨を持ち上げる。
「成功した!?」
「静かに。」
興奮気味の須磨寺さんの口をふさぎデュラハンの様子を静かに見守る。
持ち上げたヘルムは予想通り首のないあの鎧の上へ、すると何の反応もなかった例の鎧が白い光に包まれるのが分かった。
デュラハンが鎧に向かって片膝を付き無い筈の首を垂れると、床に置いたオルゴールが静かに音を鳴らし始める。
まるで主君とそれに仕える騎士のようだ。
「きれい・・・。」
七扇さんがそう漏らしてしまうぐらいに神秘的な光景、まさかこんなのを川西ダンジョンで見られる日が来るとは思わなかった。
オルゴールの音が止まると光は次第に収まり胸元の例の紋章の所に集約していく。
これで終わり、なんだろうか。
【デュラハンのスキルが変更されます。次回以降は真空切りを収奪できます。】
やはり召喚スキルはこの為の専用スキルだったようで、次回からは戦闘中に使ってきた技を使えるらしい。
まぁもう一度戦うのかと言われると微妙だけど階層主のスキルはどれも優秀だからC級ダンジョンを行くのならば持っていてもいいのかもしれない。
向かい合うデュラハンと例の鎧、すると召喚したデュラハンが白い粒子になり、先ほどの光のように鎧の紋章へと吸収されていく。
役目を終え元の場所に戻ったそんな風にも見える光景、そして首の戻った鎧だけがその場に残された。
「終わった?」
「らしいな。」
「でも動かないねぇ。」
まさかこれで終わり?
ゲームとかならこの後鎧を手に入れましたとかのアナウンスが流れるけれど残念ながらそういうわけでもない。
うーむ、残念と言えば残念だけど無事に彼らが出会えたわけだしそれでよかったのかも・・・。
「え?」
「あ!」
「こいつ、うごくぞ!」
どうしたもんかと思っていたその時だ、台座にしっかりと張り付き動かなかった例の鎧がゆっくりと足を持ち上げ、ついにそこから離れた。
そしてまっすぐこちらへと向かってくる。
どうする、襲ってくるのか?
相手は丸腰、とはいえその拳で殴られただけでもかなり危険であることは間違いない。
一応武器はあるけどスキルはほぼ空っぽ、となると実力でどうこう・・・。
「ん?」
「鎧が、膝を付いた?」
「まるで新明さんに仕えたいって言っているみたいです。」
さっきデュラハンが鎧にしたように今度は鎧が俺の前に傅き首を垂れる。
えっと・・・どうしろと?
【ルナフィエーラが忠誠を誓っています、受けますか?】
「は?」
「どうしたの?」
「いや、急に忠誠を誓うとかなんとか出るから。」
「それってこの子が?」
「そうらしい。」
仮にそれを受けるとして隷属化みたいにブレスレットとかあるわけじゃないし、そもそもこいつは魔物なのか?それとも別の何かなんだろうか。
須磨寺さんの方を向いても中世がどうのこうのっていうのはわからないようで目線があっても首を傾げるだけ。
とはいえこのままというわけにもいかないし、なによりここまでやって終わりというのはもったいない。
えーっとこういう時って肩に剣を載せるんだっけ?
だが生憎と剣はないので代わりに持っていた棍を鎧の方にそっと乗せた。
【ルナフィエーラを使役しました。】
再びのアナウンス、すると再び鎧がまばゆい光に包まれ一瞬で姿を消したかと思うと光の残滓が右手の人差し指に集約される。
そこにあったのはあの紋章の入った深い紺色の指輪だった。




