222.闘志を燃やして戦い続けました。
倒しても倒してもエーフリートが起き上がる。
なんなら数が増えて起き上がる。
城崎ダンジョン十五階層、階層主二頭との最後の戦いはいよいよ終盤・・・の筈が終わりを見いだせない状況になってしまっていた。
一緒に出現したミニサラマンダーは全員で攻撃をすることで撃破、死骸がちゃんと地面に吸い込まれたのでこちらが復活することはなさそうだ。
【ミニサラマンダーのスキルを収奪しました。火の心、ストック上限は後七つです。】
収奪したのは何とも不思議なスキル、使い道も使い方もさっぱりわからない。
全身燃えていたので火纏い的な感じのスキルなのかと思ったのだが、どうやらそうでもないらしい。
エーフリート自体は火炎球という効果を想像しやすいスキルを手に入れたけれど、ここにきてまさかこんなスキルを収奪するとは思わなかった。
「なんで倒れないんでしょう。」
「さぁ、分かりません。」
「倒れないどころかなんで増えるんだって話だよ。須磨寺さん、普通はこんな風になるのか?」
「んー、僕もあまり聞いたことがないなぁ。基本的にエーフリートみたいな魔物は核を潰せば倒せちゃうんだけど、増えるってのは聞いたことがないよ。」
倒せば倒すほどその数が増えていく、一応サイズは小さくなるけれどもそれで弱くなるとかそういうわけではないんだよなぁ。
現在の数は四体。
このままでいくと10回倒すころには1024体ものエーフリートが出現することになる。
その全てが今までと同じ強さなんだとしたら、それはもう大変なことになるだろう。
「リルがいるから何とかなってるけど、これってもしかしてリルのブレスで倒しちゃダメなのか?」
「それも考えたんだけど、ブレスなしで倒すのって難しくない?」
「それはやってみないとわからないだろ。とはいえ四体全部を見ることはできないから、とりあえず一体だけこっちに誘い出して反応を見るしかない。」
「それしかありませんよね。」
他の探索者は水や氷の魔法、属性装備などで倒しているので俺達にも同じことはできるはず。
とりあえず三体を桜さん達に任せて一体だけ別の場所に引っ張った奴と対峙する。
最初と比べると随分と小さくなり、見た目は小学生ぐらいだろうか。
それでも無数の火球を生み出して撃ち込んでくるのは変わりなく、それを避けたり叩き落したりしながら少しずつ近づき隙を伺う。
ここだ!というタイミングで魔力を発動、見事体が真ん中から上下にはじけ飛びはしたものの・・・またくっついてしまった。
「駄目だ、ブレスなしでも元に戻る。」
「そんな、いったいどうすれば・・・。」
「一応数は増えないみたいだけど、どうする一度撤退するか?」
「でもそれだとまたミニサラマンダーと戦わないとだめですよ?」
「そうなんだよなぁ・・・。くそ、何とかならないのか。」
幸い細かくしすぎなければ数は増えないみたいだけど、走破したことのある須磨寺さんですら知らない状況。
なんなら元ギルド職員の七扇さんもそういう報告を受けていないらしい。
考えられるとしたら上の階と同様に魔素が濃くなりすぎて魔物が増えたのと同じく復活してしまうという事。
ミニサラマンダーは実体があるので復活できなくても、実体のない魔素で出来たエーフリートだけが濃い魔素に反応して復活していると考えれば一応筋は通る。
もし仮にそうだとしたら研究者が飛んでくるような事案らしいけど、その為にまたダンジョンを封鎖するってのは非常識なので再現するのは難しいだろうなぁ。
なんなら燃えているエーフリートを凍らせて粉々にしないといけないとかリルみたいな存在がいないと再現は難しい・・・はずだ。
「倒し続けましょう、もし和人さんの言う通りならいずれ魔素が薄くなって復活しなくなるはずです。」
「仮にそうだとして、分裂したら攻撃がさらに激しくなるぞ?」
「その時はその時です。無理になったら引き返せばいいわけですし、ここまで来たらとことんやっちゃいましょう!」
「いいねいいね、燃えてるねぇ!桜ちゃんのそういう思いっきりのいい所好きだよ。」
「えへへ、ありがとうございます。」
リルのブレスで粉々に砕かれたエーフリート、いやチビエーフリート達がサイズを小さくして再復活する。
やると決まったら覚悟を決めろ、闘志を燃やせ。
スキルをすべて使ってでもやり遂げるんだ。
【アンキロスのスキルを使用しました。ストックは後二つです。】
【ミニサラマンダーのスキルを使用しました。ストックはありません。】
というわけで事前に使えるバフ系のスキルを使用、火の心は良くわからないけどとりあえず使ってみた。
「ん?」
「どうしたの?」
「いや、なんか一体だけ光ってる?」
するとどうだろう、八体に分裂したチビエーフリートの一体の胸が白く光っているように見える。
さっきまで何もなかったのにこれがスキルの力なんだろうか。
「え、どれ?」
「右から二番目。」
「もしかしてそれから順番に倒すとか?」
「そんなゲームみたいな・・・いや、やるしかないか。」
現時点でヒントはそれしかない。
まるでそいつを隠すように複雑に混ざり合いながら襲い来る奴らを出来るだけ引き留め、唯一答えの分かる俺がそいつを追いかけて棍を叩きつける。
するとどうだろう、さっきまで霧散してもすぐにくっついていたはずなのに復活することなく消えていった。
どういうからくりなのかはわからないけど理論が証明されたら後は実行し続けるだけだ。
「よし、次!」
「どれどれ!?」
「桜さんの前、左のやつ!」
「これですね!」
「そんでもってリルの前!違うそっちじゃ無くて右のやつ!」
「グァゥ!」
間違えても数が増えるだけ、増えたり減ったりしながらも確実に数を減らし続けついに最後の一体にまで追い詰めることができた。
全員に囲まれてもなお小さな炎を吐き続けるチビエーフリート。
「これで終わりだ。」
そいつに向かって棍を打ち付け魔力を発動、すると風船がはじけるように四方に霧散し復活することはなかった。
倒された証拠としてオレンジ色の結晶が地面に散らばる。
「あ、火水晶!魔素の濃い所でしか見つからないのに、こんなにたくさん!」
「つまりそれだけ濃い魔素だったってことだな。他の魔物と違って数を増やせないからその分密度が濃くなって水晶になった・・・ってな感じか?」
「さぁ、分かんないけど。」
「わからんのかい!」
「だって専門家じゃないし。でも、これ一つで2万円はするから大儲け間違いなしだよ!」
落ちているだけでもざっと10をこえている。
これだけでもそこそこの儲け、更には上層でゲットした素材に加えてダンジョン走破の報酬と宝箱も待っている。
かなり苦労させられたけれど、今度こそ無事に階層主を撃破。
正直もう一度戦いたいとは思わない魔物だった。
なんで分裂したかは定かではないけれど、ミニサラマンダーからスキルを収奪していなかったらこんなに簡単に走破することはできなかっただろう。
とはいえこれで名実ともにCランク入りが確定、長かった城崎ダンジョンも今日で終わりだ。
素材を拾い終えた後はお待ちかねの宝箱の時間。
奥の通路を進むといつもと同じ転送装置、そしてその横には銀色の宝箱が鎮座していた。
果たして何が出て来るのか。
一応七扇さんに罠を確認してもらってからゆっくりと箱を開けると、その中には苦労に報いるだけのブツが眠っていた。