221.炎の化身と戦いました
城崎ダンジョン十五階層。
そこに立ち塞がるは炎を模したモチーフのようなものが描かれた重厚な扉。
それが見える階段に腰掛けた俺たちはお菓子や飲み物を広げて小休止、ではなく大休止をとっていた。
飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎとまではいかないけれど、須磨寺さんが持ち込んでいた大量のお菓子にテンションマックスの女性陣達はかれこれ一時間程盛り上がっていた。
女三人姦しいというけれど、ここがダンジョンということを忘れてしまう光景を薄目で確認してから、俺は再び目を閉じる。
「和人さんまだ寝てますね。」
「なんだかんだ走り回ってたからねぇ、適当な雰囲気出してるけど和人君は真面目だから。」
「私も何度かフォローしてもらいました。」
「もう少しだけそっとしておきましょうか。」
別に寝ているわけじゃないけれど起きられるような雰囲気じゃ無くなってしまったのでもう少しだけ休ませてもらおう。
なんせこの先は階層主二体が待ち構える城崎ダンジョン最下層。
これまでの熱気に相応しい炎に燃える魔物が待ち構えている。
エーフリートとミニサラマンダー。
どちらも全身が炎に包まれたようなこのダンジョンを象徴するような魔物だ。
B級ダンジョンに上位個体がいるらしいけれどここに出るのはあくまでも下位個体、それでも見た目はかなりものものしいのでここでビビってしまう探索者も多いんだとか。
それでもここはD級ダンジョン、討伐方法も判明しているので雰囲気に飲まれなければ大丈夫なはずだ。
そんな事を考えながら意識を軽く手放しつつしっかりと体力を回復、起床後全員でミーティングを行い装備の点検を済ませてからいよいよ奴らの待つ十五階層の扉を押し開けた。
「おー、如何にもって感じだな。」
「精霊ぽいって聞いてましたが結構人型なんですね。」
「精霊なのは上位ダンジョンに出てくるヤツであいつは似たような見た目でも魔物扱いだからね。でも見た目によらずバンバン魔法を撃ってくるから気をつけて。」
「ミニって聞いていましたけどアレの何処がミニなんでしょう。」
「つまりミニじゃない方はもっと大きいってことだよ凛ちゃん。」
初見の感想にベテランの須磨寺さんがフォローを入れていく。
二人の素朴な感想は俺が思っていたのと同じこと、足先はちょっとアレだけど膝から上はほぼほぼ人型だし、ミニと言いながら全長3mぐらいありそうな巨大なトカゲがこちらを睨みつけてくる。
どちらも全身が炎に包まれていて灼熱の城崎ダンジョンを司る階層主ってな感じだ。
この先にはもっとヤバいのが出てくるわけだろ?
そりゃこの辺で諦める探索者が増えるわけだよ。
「おやおや〜、ビビっちゃったかな〜?」
「生憎とそれはないな。」
「私も大丈夫です。ここを超えたらいよいよCランク、これで本当に一人前になれるんですから。」
「私はちょっと・・・でも、皆さんと一緒なら大丈夫です。」
須磨寺さんがわざと煽ってくるけれどこんなことでビビる俺たちじゃない。
ここを越えれば目的に近づくんだからここで気張らない奴はいない、今はただ全力で目の前の炎の化身達を打ち倒すだけだ。
「みんな気合い十分って感じだね、僕はここでしっかり応援してるから頑張って!」
「それじゃあ気合を入れてやっちゃいますか。」
「はい!」
「ガウ!」
「頑張ります!」
全員モチベは最高潮、かくして階層主との壮絶な死闘が今幕を開けた。
「凛ちゃん下がって!」
「え、あ、はい!」
戦闘開始からどれぐらいたっただろうかお互いがお互いを補い合いながら炎の化身と戦い続けているけれども、少しずつ疲労が蓄積してくるのが分かる。
魔物はそんなことないのか、混戦の中ミニサラマンダーが七扇さんに向かって突進してきた。
それにいち早く気づいた桜さんだったが、七扇さんが即座に反応できずみるみるうちに距離が近づいていく。
突進する巨大トカゲ、万事休すと思いきや案外そうはならないわけで。
【バーニングゴートのスキルを使用しました。ストックは後一つです。】
【ミノタウロスのスキルを使用しました。ストックは後一つです。】
突進スキルと剛腕スキルを併用して突進を真正面から受け止める。
燃え上がる炎でジリジリと肌が焼けてくるけれど、回復(小)で回復していく。
【レッドグリズリースキルを使用しました。ストックは後三つです。】
更には突進を受け止めたのをいいことにベアーハグで奴の体を締め上げて拘束、見えない力に固定されている隙に全力で攻撃を叩きこむ。
そのタイミングで距離を置いた七扇さんもクロスボウで援護、見事奴の右目を奪うことに成功した。
「ごめんなさい。」
「気にするな、ナイスアシスト。」
「でも、全然効いてない感じがします。」
「見た目はそうかもしれないが確実にダメージは与えているはずだ、桜さんこっちは任せた。」
「はい!リルちゃんをお願いします。」
片目を潰したことで少しは戦いやすくなったはず、死角を取り続ければ何とかなるだろう。
さて、後はリルの方を・・・。
ミニサラマンダーを二人に託して、一人で戦ってくれているリルの援護に向かったのだがそこでは想像を絶する戦いが繰り広げられていた。
荒れ狂う炎、連射される火の玉。
エーフリートの放つ炎が四方八方からリルに襲いかかるも、そのすべてを回避してしまうリル。
どうしても難しい場合はブレスを吐いたり爪で切り裂いたりしながら一切攻撃させない姿勢がかっこいい。
更には隙を見つけて攻撃を仕掛け、また距離を置いて回避に専念。
完璧なヒット&ウェーに思わず魅入ってしまったぐらいだ。
この程度の魔物はリルの敵ではない、とはいえ倒しきるまでのダメージは与えられていないのでゆっくりと後ろから近づいて奴のどてっぱらに三節棍をぶち込んでやった。
実体を持たないエーフリートにはそれだけでは無意味、だがその場で魔力を爆発させると話は別だ。
「キィィィィィ!」
「うわ!」
耳をつんざく悲鳴を上げてエーフリートの体が半分ちぎれ、別の場所でその体がくっつく。
流石に体の真ん中で水の魔力が爆発するのはきつかったんだろう、僅かにある顔の凹凸が明らかに俺へ敵意を向けていた。
火の玉が周囲に沸き上がり、俺に向かっていくつも飛んでくるけれどそれを必死になって避け続ける。
そうこうしている間に今度はリルが死角から飛び掛かり至近距離でブレスを吐くと燃えているはずの体が見る見るうちに白く凍り始め・・・。
「いい加減倒れろ!」
真っ白く凍り付いた炎の化身、それめがけて棍を上段から叩きつけると氷が音を立ててあたり一面に飛び散った。
「よっし!」
ほぼほぼリルがやってくれたけれど何とか一体目を倒すことができたようだ。
安堵したのもつかの間、急ぎ破片に手を伸ばしてスキルを収奪できるか確認する。
【エーフリートのスキルを収奪しました。火炎球、ストック上限は後七つです。】
よしよし、何とか回収できたな。
個人的にはもっとこう激しめのスキルを想像したんだけど手に入ったのはいたってシンプルな名前のスキル。
おそらく火球を打ち出すんだろうけど威力はどんな感じなんだろうか、試してみたくてもこいつらには全く効きそうにない。
後は向こうで暴れまわるミニサラマンダーを倒すだけ、階層主が二体いても片方ずつ離してしまえばそこまで危険な状況にはならないはずだ。
桜さんが巨体を翻弄し、隙をついて七扇さんがクロスボウを何発も打ち込んでいく。
そろそろ向こうも終わりそうな感じ、須磨寺さんが言うように俺達のコンビネーションがよくなっているからかそこまで危険な状況にはならなかったなぁ。
まぁ、城崎ダンジョンは魔物より環境の方が凶悪だといわれているだけにこのぐらいの難易度が普通なんだろう。
「下がって!」
何本もの矢が刺さった状態で突然ミニサラマンダーが後ろに下がり、天井の方に顔を向けたかと思うと頭を振り下ろすと同時に真っ赤な炎を吐き出した。
とはいえ勢いはそこまでなく炎は途中で止まってしまったけれど、そのあと信じられない光景を目の当たりにする。
「おいおい嘘だろ。」
足元に転がっていた白いエーフリートの破片。
その上を炎が通ると熱で氷が解け、破片が勢い良く燃え上がったかと思ったら今度は一か所に集まり見覚えのある形を形成していく。
そういえば収奪しても地面に吸い込まれないのが不思議だったんだが、まさか再び姿を現すとは。
城崎ダンジョン最下層。
ボス戦が一番楽だなんて言わせない、そんな気概を感じる大復活に思わず苦笑いを浮かべてしまうのだった。




