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22.諦めて引き返すことにしました

 盾の代わりになる甲羅を手に入れたことで八階層を踏破することが出来るのはわかった。


 だが、これ以上進むには疲労感が強い上に水場に横になったせいで体温がかなり持っていかれている。


 このまま進むのは危険だと判断してとりあえず上に戻る事にした。


 来た道を引き返すのは正直悔しいがこの状況で潜るのは得策じゃない、それに今度からはこの甲羅を持ち歩けるのでここまで水に濡れる事はもうないだろう。


「はぁ、やっとついた」


 重たい甲羅を引きずりながら転送装置で地上まで戻ってくると、ボインな職員さんが目を丸くして近づいてきた。


「随分と大きなお土産ね、八階層はどうだったかしら?」


「思った以上に大変でしたけど、まぁ何とかなりました」


「その棒でどうやってアイアンタートルを倒したのか非常に気になるところなんだけど、その恰好で引き留めるのは申し訳ないからまたにするわね。それとも一緒に温まりながら教えてくれる?」


 圧死できるぐらいに大きな胸にはさまれるなんてめったにないお誘いだれど、残念ながらそれを冷静に受け入れられないぐらい体が冷え切ってしまっているので挨拶もほどほどにギルドへと戻る事にした。


 そのままカウンターへ直行して買取をお願いしていると誰かが俺の肩を優しく叩いてくる。


「お帰りなさい和人さん!」


「桜さん、まさか待っていてくれたんですか?」


「帰りが遅いので来ちゃいました」


 偵察に出ると言ってなんだかんだ潜っていたから時間はもう夕方ぐらい、そりゃ心配もするよなぁ。


 幸い濡れている以外に大きな怪我なんかはしていないので先に手続きをしてから更衣室へと急ぐ。


 温かなシャワーを浴びて体の冷えを取り除いてから外に出ると、桜さんがカウンターで職員と親しげに話しをしていた。


「改めてただいま、なにかあった?」


「和人さんの話をしてたんです。ちょっと偵察に出るって言ってまさか八階層まで潜るとは思ってませんでした」


「七階層と違って八階層はそこまで危険じゃないって聞いてたから行ってみたんだけど、まぁ想像以上の場所だったよ。」


「でも何とかなったんですよね?」


「まぁね、とりあえずこいつを持ち帰れるぐらいには何とか」


 アイアンタートルの甲羅は攻略するのに必要不可欠な道具なので買取には出していない、ほんとこれが手に入らなかったらどうにもならなかっただろうなぁ。


「新明さんの武器はその棒だけですよね?それでどうやってあの亀を討伐したんですか?」


「甲羅は流石にどうしようもないですが首の部分は案外柔らかいので、それでなんとか」


「確かに甲羅に比べれば柔らかいかもしれませんが・・・」


「まぁまぁ、一人で潜っているのは事実なんだしどうやって戦うかを探索者から聞き出すのはご法度だよ。彼には彼のやり方があって実際8階層まで到着してるんだから、その事実を褒めてあげないと」


 また後ろから誰かが声をかけてくる、この声はあのやる気のない職員さんじゃないか。


「主任!申し訳ありませんでした」


「謝るのは僕じゃなくて彼だと思うよ」


「新明様も申し訳ありませんでした」


「いえ、僕は別に。っていうか主任だったんですね」


「あはは、そんな風に見えないよね?」


 出来れば仕事をしたくない、そんなけだるい雰囲気を全力で出しているのに探索者ギルドの主任をしているなんて。


 もっとこう熱血漢というかそういう人がなるもんだと思っていたが違ったようだ。


「主任も昔は凄腕の探索者だったんですよ」


「そうなんですか?」


「昔の話だよ、昔の。それよりも早く買取結果をお伝えしてあげて、疲れてるだろうから」


「そうでした!では、買取についてなんですけど・・・」


 なんだかはぐらかされた感じはあるが俺の事もスルーしてくれたのでそれ以上は何も言わないでおこう。


 因みに買取金額は全部で8万円ほど、深く潜れば潜るほど報酬は上がっていくというけれど今でこれなら上級ダンジョンってどれぐらい儲かるのか見当もつかない。


 二つ返事で買取金額を受け取って、迎えに来てくれた桜さんと一緒にギルドを後にする。


「ほんとすごいですよね、和人さんって。もう八階層まで行っちゃうんですから」


「あそこまでは桜さんも行けると思うけど問題はその先なんだよなぁ。」


「フレイムリザードとブリザードイーグルでしたっけ」


「下手に近づけば火傷をするフレイムリザードだけじゃなく空から強襲してくるブリザードイーグルを同時に相手しなきゃならない。さすがに今までのようにはいかないだろうから色々と対策をしておかないと。攻略法がいくつか見つかっているって言っても、どれを採用するかによって難易度が大きく変わるから悩ましいところだよね」


 まるでアイドルを見るかのように目を輝かせて話を聞く桜さん。


 俺がここまでできるのも全ては収奪スキルのお陰であって、個人の技量でどうにかしているわけじゃないだけに、そんなにキラキラした目で見られると逆に申し訳なくなってくるというかなんというか。


「鉄板はブリザードイーグル用のマントを羽織って冷気を遮断しつつ、水のエンチャントを施した装備でフレイムリザードを撃破ってやつですよね」


「そもそもマントが30万円ぐらいするうえにエンチャ装備なんて夢のまた夢、あそこを超えるだけに100万円近くかけるのはなぁ」


「そうですか?」


「今日の稼ぎで考えても最低12日、およそ2週間毎日これを続けるのは流石に心が折れる」


 ある程度対処できるようになったとはいえ命の危険があるのは間違いないわけだし、時間をかければなんとかなるとはいえ先に進めないのはストレスが溜まる。


 もっと簡単な方法があればいいんだがそれをするには金がかかる、どっちを取るかって話なんだよなぁ結局は。


「それじゃあ私がもっと強くならないと」


「気持ちはありがたいけどあまり無理して怪我をしたら意味ないからマイペースで行く方が良いよ」


「ありがとうございます」


「それよりも、折角シューティングシュリンプが手に入ったわけだし戦いよりも先に桜さんの腕を振るってもらおうかな」


「えぇ!いきなりハードル上げないでくださいよぉ」


 折角地上に持ち帰ったんだから料理上手な人に美味しく調理してもらいたいじゃないか。


 大昔に一回だけこいつをつかったエビフライを食べたことがあるのだがあの味は今でも忘れられないもんなぁ。


 一本1800円ぐらいしたってことだけはよく覚えている、幼いながらに高いなぁと思ったもんだ。


 命を危険にさらしながら手に入れた物なんだからそれぐらいの値段をつけても仕方ないのかもしれないけれど、それでも庶民が食べられる金額ではない。


 そんなすごい食材が果たしてどんな料理に生まれ変わるんだろうか。


 探索の醍醐味は魔物と戦ってお金を稼ぐことだと思うけれど、高値で取引されるのもまた食べる方に全力を注ぐ人がいるお陰だったりする。


 そんな人たちに感謝しながら二人仲良く家路につくのだった。

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