218.スキルレベルが上がりました
「誰だ同時に出てこないなんて言ったやつ!」
目の前で大暴れするゴーレムめがけてバレルが熱で変形しないところまで魔装銃を撃ち込み、すぐに棍へと持ち替えてボコンと凹んだ銃創に思い切り差し込み魔力を爆発させる。
【ミノタウロスのスキルを使用しました。剛腕、ストックは後四つです。】
叩き込む時に剛腕スキルを発動、七扇さんに見られるリスクより目の前のリスクを優先した。
装甲深く突き刺さった右肩付近が勢いよく爆ぜ、付け根付近から腕が落下する。
着地と同時に左手が振り下ろされるも素早く後ろに下がってそれを回避した。
「も~、和人君いい加減しつこいよ。」
「そうですよ、ギルドの封鎖中に増えたって結論が出たじゃないですか。」
「そうだとしても多すぎだろ。収入的には最高だけど、十四階層とか絶対にやばいことになってるぞ。」
本来十三階層の魔物は同時に出てくることはない、というのがギルドの一般的な回答。
だがその前提は早々に崩れ、その後も二種類、なんなら三種類同時に出現している。
そんな異常事態に導き出された結論がさっきの回答、魔物の数が多いぞっていう話ではあったけれどまさかこんなことになっているとはなぁ。
確かに六階層から潜ってみてもいつも以上に魔物がいるなぁと思っていたけれどこの辺は特に多い気がする。
これが最下層に近いからかどうかはわからないけれど、可能性は高いだろうっていうのが俺達の導き出した答えだ。
「文句言わない、向こうでダブリーちゃん達も一生懸命戦ってくれてるんだから。」
「何だよその麻雀みたいなのは。」
「多分凛ちゃんとリルちゃんでダブルリーって言いたいんだと思います。」
「可愛いでしょ?」
「可愛い、のか?」
「私は可愛いと思いますけど・・・あ!ゴーレムがまた動きましたよ。」
自分を忘れてしゃべってんじゃねぇぞと言わんばかりに残った左手を高く掲げて突進してくるフレイムゴーレム。
その剛腕を桜さんがタイミングよく受け流している隙に後ろへ周り右足の膝関節を攻撃、片腕を失ったこともあり一方的に関節を攻め続け特に危なげなく砕くことに成功した。
「よし!それじゃあ桜さん向こうもよろしく。」
「わかりました!和人さんも気をつけて。」
「さーて、それじゃあお先にスキルをいただきますかね。」
右腕と右脚を失い、体を支えられずその場に倒れこむフレイムゴーレムの背面へ周りこみ、スキルを収奪。
【フレイムゴーレムのスキルを収奪しました。熱気耐性(中)、ストック上限は後四つです。】
ここにきて耐熱系のスキルを手に入れられたのは非常にありがたい。
試しに使ってみるとさっきまで感じていたジリジリと焼くような熱がすっと退いていくのが分かる。
涼しく感じるとかそういうのではないけれど、とにかく不快だったあの熱気を一切感じられなくなったのが最高だった。
起き上がれない亀の如くジタバタと暴れるフレイムゴーレムを憐れみの目で見つめながら、後はひたすら背面を削り取り魔核を砕けば試合終了だ。
「よし、これで終わりっと。」
「いいなぁ和人君は涼しそうで。」
「涼しくはないが熱さを感じないだけで無茶苦茶快適だな。」
「ゲームとかだと強いスキルがないと人権がないみたいに言われるけどさ、現実だと強力なスキル技とかよりも案外地味なバフとかこういう耐性スキルの方が重宝されるんだよね。いいないいな、うらやましいなぁ。」
「悪いが共有することは出来ないんだ。」
「でもスキルレベルは上がったんでしょ?」
「そうらしいが、恒常化みたいに何か特別な物はないらしい。それでもストック数と種類が増えるだけでも大分楽だけどな。」
【現在のスキルレベルは7、現在所有しているのは剛腕のストックが四つ・投擲のストックが五つ・熱気耐性(中)のストックが四つ・突進スキルのストックが三つ・回復(小)のストックが六つ・耐熱スキルが四つ・防御(小)のストックが三つ、恒常スキルはエコー。残りストック種は一つです。】
流石にこれだけの魔物を倒せば基礎レベルだけでなくスキルレベルも上がったらしく、ストック上限数が増えていたことに気が付いた。
最近はレベルアップ酔い的な物もないので上がったかどうかの判別がつかないんだよなぁ。
基礎レベルは30レベルを超えて来るとやっと初心者を卒業、そこから50ぐらいまでは緩やかに上昇して50を超えるときがかなり大変だと聞いている。
問題のスキルレベルに関しては使用し続けることで上がるといわれているので、次を目指してひたすら収奪と使用を繰り返さなければならない。
七扇さんが来る前はオープンに使用できていたけれど、今はちょっと控え気味。
それでもバフスキル系は使ってもわかりにくいのでとりあえずタイミングが合ったら使っていきたいところだ。
「普通に考えたら5レベルずつ何か増える感じだろうけど、8レベルぐらいで増えたりしない?」
「それを俺に聞かないでくれ。手っ取り早く上げる方法はあるけど、アテもないのに使うのはちょっともったいない。」
「まぁそうだよねぇ。スキルレベルなんて未だ上限が確認できてないって言われているし、スキルランクだって探索者ギルドが勝手に決めているだけで実際にランクなんてないっていう人もいるしね。」
「ただ一つ言えるのは使えば強くなるってこと、次の階層でもスキルを収奪することを考えたら後一つは消費しておいた方がよさそうだ。」
現在の残りストックは一つだけ、次の階層でも三体の魔物が出てくることを考えると後一つは消費して枠増やしておきたいところだが、出てくる魔物を考えると案外同じようなスキルの可能性もあるわけで。
どれも有用なスキルだけに無駄遣いはしたくないっていう気持ちもある。
「あ、向こうも終わったみたいだね。」
「みたいだな。しっかし、金になるとはいえこう重たい素材ばかりだと運ぶのも大変だろ。」
「これが僕の仕事だからね、遠慮しなくて大丈夫だよ。」
「そりゃ心強い限りだ。あとどれぐらい回収できるかわからないけど、とりあえず十四階層の階段を見つけるまでは進むだろうからもう少しだけ頑張ってくれ。もっとも、そのもう少しがどのぐらいかは知らんけど。」
「流石にこの倍は無理だけど、1.5倍ぐらいなら大丈夫。・・・そのぐらいで終わるよね?」
「それはダンジョンに聞いてくれ。」
向こうでアンキロスと戦っていた桜さん達が分厚い鱗を手にこちらへと戻ってきた。
フレイムゴーレムの装甲も中々な大きさだし、アンキロスの鱗もかなりの重量級。
加えてボルケーノタートルの甲羅は小型とはいえ大きさも重さも半端ない。
それを飄々とした感じで巨大なカバンに入れて担ぐんだから須磨寺さんも中々の実力者。
ダンジョンはまだまだ続いておりその先は確認ができない。
果たして十四階層への階段までにあと何回戦わなければならないのだろうか。
これだけ魔物がいると各々のレベルアップに最適と考えることもできるんだろうけど、流石にこれだけ連戦すると飽きてくるんだよなぁ。
「和人さん、向こうに小部屋があるみたいです。」
「小部屋?」
「魔物の反応もありますがもしかすると宝箱があるかもしれません。」
「どうする?魔物だらけかもしれないけど、行っちゃう?」
「中の状況次第だが行かないという選択肢はないだろう。みんな、もうひと頑張りよろしくな。」
「「はい!」」
飽きてくるといっても宝箱があるかもと言われれば話は別だ。
果たして小部屋の中で待ち受けるのは一体何なのか、次週へ続く!なんてな。




