215.思っていた以上の快適さでした
七扇さんの仕入れた情報の通り、翌日の朝一番に新ギルド長就任が発表。
その後、就任演説が行われ草薙さんの元でハゲ狸によって引き起こされた不正の数々はすべて排除されたことが報告された。
その中には名だたる企業も含まれており会場は騒然となったそうだけど、同席していた木之本監査官からさらなる爆弾が投下されたことでそれはもう阿鼻叫喚の様相を呈したそうだ。
ま、そんなことは偉いさん同士の話であって末端の探索者には関係のない話、しいて言えば鉱石が適正な価格で取引できるようになるという部分が関係のある部分だろうか。
いや、無茶苦茶関係あるじゃないかと言われるかもしれないけれど俺達は鉱石を目的として潜っていないのであまり関係ないといえば関係ないんだよなぁ。
まぁ買取金額が上がるのは素直に嬉しいので余裕があれば鉱石の採取にも取り掛かりたいところなのだが、今回は鉱石発見スキルを恒常化していないのでそっち関係では難しそうだけど。
「すっごい人でしたね!」
「買取価格の適正化って部分が響いたんだろうな、不正もなくなり企業の強制労働もなくなったことでこれまで忌避していた人たちが戻ってきたんだろう。それでも目的は低階層だろうから予想通りこの辺にはいないみたいだ。」
入り口の混雑具合とは対照的に転送装置で降りてきた七階層は非常に静かだった。
蒸し暑さは相変わらずだが十階層より下のあの灼熱具合を考えたらこのぐらい涼しいぐらい、しかしこれほどまでに人がいないとは。
環境のせいで人気がないってのも考え物だなぁ。
「溜まっていた依頼も中層より下はほとんど手付かずで取り放題だったもんねぇ。」
「ギルドが止まっている間誰も受けてくれなかったわけですから、でもこれで依頼主の皆さんが安心出来ると思うとホッとします。」
「職員さんの目線だとそうなるんですね。」
「閉鎖して二週間、かなりの数の魔物が溜まっているだろうから気を引き締めつつ受けた依頼はしっかりとこなしていこう。この依頼だけでもかなりの儲けだ。」
「あ、和人君がいやらしい目をしてる。」
「いや、そういう語弊のある言い方はやめてもらえるか?」
俺は金が好きなのであって女性は・・・うん、好きだった。
最近色々ありすぎてそういう店にもいってないし、走破した暁にはガッツリ稼いだ金と一緒に久しぶりの楽しむのもありかもなぁ。
「和人さん?」
「ともかくだ、こんなに依頼をこなせることなんて中々ないんだからしっかりこなしてガッツリ稼ぐぞ。ってことでまずは六階層だな。」
「な~んか怪しいなぁ。ねぇ桜ちゃん?」
「怪しいです。ねぇ凛ちゃん?」
「私は・・・わかりません。」
「まったく、そういうの良いからさっさと行くぞ、あのファッションピンクが待ってるんだからな。」
城崎ダンジョン六階層といえば例のガチムチファッションゴリラが爆弾を投げてくるというなかなかシュールな階層、弾切れになったらそのまま襲ってくるっていう脳筋でもあるので油断は禁物だったりする。
もっとも、接近戦はそこまで強くないので気を付けるべきはあの爆弾、そもそも一緒に出てくる魔物を投げてくるってのはどうなんだよとツッコミを淹れたくなるが、ともかくだ今回の目的は依頼をこなして金を稼ぎつつ十階層迄走破することなのでまずはそこに集中しよう。
中階層とはいえ油断は禁物、なんせここはダンジョンなんだから。
「うーん、ぬるい。」
「え、冷やし足りなかった?」
「いや、そっちじゃなくて城崎ダンジョンってこんなに簡単だったか?」
「それはただ単に戦力過多だからだと思うよ。リルちゃんだけでも十分強いのに、そこに凛ちゃん迄加わったらそりゃ楽勝だよ。」
リルのブレスを使ってキンキンに冷やしたスポドリを飲みつつ休憩を取る。
ここは十階層、例によって例のごとく設置された罠テーブルの横に折り畳みのいすを置いてしばしの休憩を取る。
ここまではいつもと変わらない流れなのだが、ここに来るまでの流れがあまりにも早すぎてちょっと理解が追いついていない。
あれ?
最初に六階層でファッションゴリラを駆逐しながらスキルを収奪して、ついでに五階層のランドクラブを撃破。
そんでもってきた道を戻りながら再度出現したゴリラを倒しつつ七階層へ。
今回八階層のジュエルスカラーべはスルーなので七扇さんとともに遠距離攻撃で蛇と蠍を撃ちまくりながら依頼用の素材を回収、必要量が集まったらそのまま八階層を走り抜けて九階層へ。
待ち受けるのは城崎ダンジョン一の曲者と名高いミノタウロス、ぶっちゃけここが一番時間がかかるかなと思っていたんだが、最大で同時に三体出てきた状況でも戦線が乱れることはなくむしろ安定して倒せたような気がする。
一応最初は例の後ろ向き作戦を使ってヒーリングポットを先に攻撃したけれど、後ろを七扇さんに任せられる安心感からリルと桜さんと俺の三人で一体ずつ受け持ちつつ確実に数を減らしていく作戦で見事切り抜けることができた。
正直予想以上にミノタウロスがうろついていたけれど、そのおかげで大量に出ていた依頼はほぼほぼクリアすることが出来そうだ。
しかし一人増えるだけでこんなにやりやすいなんて、これでタンクがいたらリルが自由に動けるようになる分もっとアクティブに戦えるようになるんだろうなぁ。
「ご馳走様!みんな準備はいい?」
「いけます!」
「私も大丈夫です。」
「和人君は?」
「ん?あぁ、大丈夫だ。」
「ちょっとちょっと、元気ないよ~?」
心なしかいつもよりもハイテンションな須磨寺さん、まぁこれは今に始まったことじゃないんだが。
「ここまであっという間だったからな、少し疲れただけだ。」
「確かにこの素材量を考えるとかなり早かったよね。でもフレイムホースを倒したら終わりだし頑張っていこうよ。」
「頑張るのはいいとして、何周するんだっけ?」
「えっと~、五周?」
「あはは、そうだった。」
今回の目的は十階層走破、だが引き受けた依頼をこなすためには最低でも七周する必要がある。
幸いフレイムホースのスキルを収奪したかった所なので好都合といえば好都合なんだが、流石に七周は疲れるだろうなぁ。
「これも報酬の為だ、頑張るか。」
「なんでしょう、階層主ってもっと気合を入れるものだと思うんですけど、皆さんにとってはそうじゃないんですね。」
「それはね凛ちゃん、リルちゃんが要るおかげだよ。」
「ガウ!」
桜さんの言葉にリルがどんなもんだい!と胸を張る。
そう、リルのブレスがあれば奴の邪魔な火を警戒しなくてもよくなるので倒すのはそこまで難しくない。
とはいえそれだけに頼るのもあれだし、折角七扇さんも参入してくれているんだから俺達だけでもなんとかなるかチャレンジしてみよう。
あれから俺達も強くなった、その成果を確認しようじゃないか。
「それじゃあフレイムホース討伐に出発!」
「「お~~!」」
「和人君ノリわる~い。」
「お~。」
「ハイよろしい!」
七扇さんの言うように階層主に挑むテンションじゃないよな、そんなことを思いながらスキル収奪を兼ねたフレイムホース七連戦へと挑戦するのだった。




