214.しっかりと準備を整えました
七扇さんとの連携を確認し終えた俺達は荷物をまとめ、改めて城崎へと移動することにした。
現時点ではまだダンジョンは解放されていないけれど、草薙さんがギルド長になるのであればそれも時間の問題だろう。
色々あったダンジョンではあるけれど産業的には良質な鉱石を算出する場だけにいつまでも閉じているわけにはいかない。
ギルド長が決定次第速やかにダンジョンは解放され俺達も走破に向けたダンジョンアタックを再開できるというわけだ。
今回からは七扇さんも参戦してくれるので今まで以上に探索は楽になるはず、もちろん彼女の分の耐熱装備なんかを準備しなければならないけれどそれに関してはこの間の北淡ダンジョンで得た報酬を当てることになっている。
途中で抜けたにもかかわらず100万もの報酬をポンと出せる当り流石一流旅団、いまだ走破の知らせは来ていないけれどそれも時間の問題だろう。
ま、俺達は既存のダンジョンを走破するだけでも十分なのでしっかりと準備を進めようじゃないか。
「あの、こんなにたくさんいいんでしょうか。」
「いいのいいの!お金はぜーんぶ和人君持ちなんだから遠慮しちゃだめだよ。あ!冷感肌着も買っとかないと、それとボトルと靴も必要だよね。」
「そうですね、地面があれだけ熱くなってると専用のブーツがないと厳しいと思います。」
「私のも一緒に買ってもらっていいですか?」
「もう好きにしてくれ。」
最初は七扇さんの分だけと思っていたのに気づけば桜さん達の分まで買うことになってしまった。
当初の予定では俺が立て替えて走破後の報酬から差し引くような話になっていたはずなのにどうしてこうなってしまったのか。
彼女達もそれなりに稼いでいると思うんだけど・・・ま、いまさら言った所で聞いてくれないけどな。
「新明様、アタッチメントの使い心地はいかがですか?」
「今のところ問題ない。連射できないのが残念だけど、あれだけ威力が上がれば十三階層のゴーレムも問題なさそうだ。」
「そうおっしゃっていただき何よりです。因みに新しい魔装銃も入荷しておりますが・・・。」
「それに関してはまたの機会で頼む、どうやら俺の分まで金が残ってなさそうだ。」
折角鈴木さんが用意してくれた装備なのだが絶対高いだろうし何より予算もなくなりそうなので今回は見送りでいいだろう。
城崎ダンジョン最難関と呼ばれるのが次に潜る十三階層。
出てくる魔物がそろいもそろって防御極振りのやつらなので生半可な攻撃じゃ太刀打ちできない。
もちろん時間をかければなんとかなる相手ではあるけれどジリジリと身を焼く熱気を感じながらそんな時間をかけてられないっていうね。
一応三節棍の魔力を開放すれば何とかなりそうだけど、毎回毎回それを使うわけにもいかないので今回は装備の力に頼って攻略する作戦だ。
幸い七扇さんのクロスボウはかなりの威力があるので装備の買い替えはしなくてよさそうだし、桜さんも氷装の小手をつければ致命傷は与えられなくてもじりじりとダメージは与えられるはず、出来れは接敵する前にそれなりのダメージを与えておきたいところなので今回は遠距離攻撃主体で行かせてもらうつもりでいる。
もっとも、十四階層になると真逆の魔物が出てくるのでそっちにばかり装備を合わせられないんだよなぁ。
なによりそこを越えるとこれまた相性の違う二体の階層主が待ち構えているわけで、ほんと意地の悪い魔物の配置だよ。
「十三階層の魔物が落とす素材はどれも需要が高い物ですので無理せず資金を調達しつつ装備をそろえることをお勧めいたします。新明様でしたら大丈夫だと思いますが、くれぐれも無理はされませんように。」
「出来れば一回で走破したいところだけどそう簡単にはいかせてもらえないだろうしなぁ。とりあえず階層主に向けて頼んだ例のブツの手配をよろしく。」
「そちらに関してはもうすぐ必要数が集まりますので大丈夫かと。」
「道具に頼る、これも探索者のやり方として間違いないだろ?」
「その通りです。格好をつけて道具を使わないなんてのは無駄の一言、それで危ない目に合うのであれば道具に頼って安全かつ確実に走破すればいいだけですから。」
探索者は道具を使って走破してはならない、そんな決まりはどこにもない。
むしろ既存の道具や装備を駆使して走破してこそ一人前の探索者、稀に何も使わないことがすごいことだと勘違いしている人もいるようだけどゲームと違って命は一つしかないのでそれを失うぐらいなら今ある物をしっかり使って走破するべきだろう。
その為にドワナロクがあり、大道寺グループやレリーズ商会が日夜開発に取り組んでいるのだから。
「さて、そっちは決まったか?」
「決まりました!」
「ということなので会計を、もちろんゴールドカードと・・・可能な限りの値引きもよろしくお願いします。」
「もちろんです。」
結局報酬の半分が七扇さんと他二人の装備品に消え、俺は俺で頼んでいたものの前金を支払ったので残ったのは30万円ほど、それもすぐに宿代で消えてしまった。
なんとも悲しい現実、だが今回の投資を上回る程の収入を得られる予定なのでしっかり働いてもらわないと。
「というわけでダンジョン用の道具は準備は完了だな。」
「凛ちゃん、ギルドの方はどんな感じ?」
「明日草薙ギルド長の就任が発表され、昼からダンジョンが解放される予定です。」
「となるとすぐに潜るのは無理そうですね。」
「そうでもないぞ、鉱石を掘るのは上層だけだから十階層よりも下はいつも通り人は少ないはず、とはいえ潜らない間に魔物が増えているはずだからその駆除は必要だろう。その依頼もギルドが出すんだよな?」
「基本的には六階層よりも下の掃除をお願いすると聞いています。」
七扇さんも探索者時代に七階層迄は潜っているそうなのでまずはそこに移動して六階層へと戻り、さらに十階層まで移動。
そこで一度地上に帰って再び十三階層を目指す作戦だ。
もちろんその途中でスキルをしっかりと収奪、特にヒーリングポットの回復(小)やミノタウロスの剛腕は中々使い勝手がいいしフレイムホースの火纏いも川西ダンジョン用に是非ゲットしておきたい。
炎系のスキルは城崎ダンジョンではあまり使えないかもしれないけれど、他所のダンジョンではそれなりに使えるものばかりなのでこの機にスキルレベルを上げてしっかりと確保しなければ。
まぁそう上手くスキルレベルが上がるかはわからないけれど少なからず基礎レベルを上げる糧にはなるだろうし、複数の魔物を相手にどれだけ俺達の連携が機能するかを確認するにはもってこいの環境だろう。
目指せ最下層。
その為の下準備をしっかりと行えば一週間もかからない間に目標を達成することはできるはずだ。
「ということで報酬の高い依頼を引き受けつつひとまず十階層へと潜り、転送装置を開放するのが最初の目標だ。」
「十階層迄だったらそこまで時間はかからなさそうだね。」
「だな、スムーズにいけば十三階層迄と言いたいところだけど無理して怪我をするわけにもいかないし七扇さんにあの暑さに慣れてもらう必要もある。職員だったからその過酷さは知ってるだろうけど、聞くのと体験するのはまた別物だからなぁ。」
「・・・頑張ります。」
「そんなに気負わなくても凛ちゃんなら大丈夫ですよ。」
「そうそう、リラックスリラックス。」
須磨寺さんが七扇さんの後ろに回り、緊張して固まった彼女の肩をもみほぐす。
それ、俺がやると一発アウトだな。
そんなバカなことを考えながら城崎ダンジョン走破に向けた打ち合わせを続けるのだった。




