211.たまには休むことにしました
「とまぁそんな感じのダンジョンだった。」
「何ていうか遭遇するダンジョンも規格外だよね、和人君って。」
「それを言わないでくれ。」
「でも無事に戻ってきてくれてよかったです。」
ダンジョンを後にした俺は手配してもらったタクシーに乗って家に戻った。
予定よりも早い帰宅に驚いていた桜さん達だが、中の状況を聞き更に驚いた様子だった。
今回は守秘義務とかそういうのはないので三人に話す分には問題ないだろう。
しかしマジで大変だった。
「北淡ダンジョンは今後どうなるんでしょう。一応ギルドの管理みたいですけど、そこまで危険となると職員での探索も難しそうですが。」
「探索は引き続き月城さんと蒼天の剣が行うんだとさ。」
「つまり和人君はお役御免ってわけだ。」
「そもそもあんな危険なダンジョンにDランク探索者を連れていくもんじゃないだろ。」
「まぁ確かに?」
「今後は今回の状況を考慮して精鋭部隊をがっつり投入しての探索に切り替えるそうだ。魔物とダンジョンの難易度が釣り合わないから早々にコアを壊して無力化したいんだろう。いくら評価されているとはいえそんな場所に潜るにはまだまだ実力も経験もなさすぎる。」
収奪スキルをうまく使いこなせなかったっていうのもあるけれど、俺そのもののレベルアップが必要だということがよくわかった。
アレンさんの的確な指示もそうだけど、次にどう動くべきかまでを見据えて行動できるようにならないとこの先C級ダンジョンで行き詰まるのは目に見えている。
スキル以外で成長しなければならないところはたくさんある事が今回の探索でよくわかった。
はぁ、漫画みたいに収奪スキルで無双できたら最高だったのに世の中どううまくはいかないらしい。
「私も頑張って強くならないと。」
「桜ちゃんは今後の立ち位置をどうするかだよねぇ。がっつり前衛で敵を引き受けるっていう体格じゃないし、かと言って回避が得意でもない。カバーリングを活かした受け流しに特化するのかいっそのことそれも捨ててアクティブな遊撃手としての技を磨くっていう方法もあるよ。」
「正直どれがいいかと聞かれてもピンと来なくて。今迄この戦い方をしてきたので、急に変えられるのかどうか不安ではあります。」
「まぁ時間はあるんだしゆっくり考えればいいと思うよ。武器の変更なんて探索者のなかじゃしょっちゅう行われてるし、和人君だって棒を使っているけどその種類を変えながら戦ってるしね。」
棒は棒でも二節だったり三節だったり、その武器の特性に自分が合わせているっていう感じだ。
俺の性格からすると長剣とかの刃物よりも殴ったり突いたりする方が性に合ってるんだよなぁ。
魔装銃も最初はどうかと思ったけど使い始めると結構しっくりくるし、案外得物を変えるってのも悪くない選択肢だと思う。
「とはいえ現状のバランスを考えると純粋なタンクがいない中桜さんの動きが結構助かってるんだよなぁ。リルが敵を攻撃して桜さんがそれを受けて俺が援護、もしくは俺が前に出て桜さんがそのフォローをする。かなりアグレッシブな戦闘形態ではあるからもう少し改善したいところではあるけど・・・難しいところだ。」
「人が増えれば取り分は減るし、かといっていなかったら危険が増える。これを良い感じに取り持つのがリーダーの仕事だよ和人君。」
「って俺かよ。」
「いずれC級ダンジョンに潜るならその辺も考えていかないとね。」
「そうなんだよなぁ。」
今はこれで何とかなっている、でもこれからそれが通用するかと聞かれれば答えはNoだ。
いくら俺の収奪スキルがあるとはいえ、使用回数に限りがある上に回復が出来たり魔法をガンガン打てるわけじゃないからそういう純粋な役割と比べるとかなり劣ってしまうわけで。
かといって秘密が多い中でおいそれと人を増やせない現状ではあるけれど、リルの存在に関してはそろそろ公表してもいい頃合いだし収奪スキルだって場合によっては見せていく必要もあるだろう。
もちろんそれが今とは言わないけれど、いつまでも隠しておけるものでもない。
「師匠に相談しながら色々考えてみます。」
「それが良いだろうな。」
「ちなみに明日はどうするの?」
「休む。」
「だよね。」
「流石に色々ありすぎて疲れた、明日は完全オフにするからみんなは好きにやってくれ。城崎ダンジョンはまだ封鎖中なんだろ?」
「新しいギルド長が近々赴任するという話は聞いていますけど具体的には。」
となると城崎ダンジョンの走破はおあずけ、残るは川西ダンジョンだけどついさっきアンデッドの群れと戦ってきたところなのでぶっちゃけ勘弁願いたい。
じゃあどうするんだっていう話にもなるんだけど、とりあえず休んでから考えよう。
収奪スキルの整理もあるし、それを回収するとなるとまた時間がかかってくる。
恒常スキルはともかくすぐにとりに行けないスキルを回収しに行くのが地味にめんどくさいんだよなぁ。
ストック数に上限があるのは仕方ないとして、もっとこう別の形でいくつも保管できれば取りに行く手間が省けるんだけど。
後はスキルレベルを上げて純粋に増やすかどうか。
現時点でのスキルレベルは6、この間恒常スキルが発現したのがレベル5の時とすると次に何か新しいのを覚えるのはレベル10という事になる。
現時点でスキルレベルの上限は確認されていないし、いずれそこに到達する日も来るだろうけどそれがすぐなのか一年後なのか十年後なのかは俺しか所持していないので確認のしようがない。
とりあえず桜さん用にと置いていたスキルブックがあるからそれで1レベルは上げられるとして、それでも自前であと3は上げないといけないわけか。
前回上がってから結構経っているしそろそろ上がってもいいころだと思うんだけど、ゲームみたいにそれを確認する術はない。
何にせよ魔物と戦って自前のレベルを上げる必要もあるので、ダンジョン走破を意識しながら魔物を倒し続けるしかないだろう。
「つまり赴任するまで向こうは閉鎖、川西ダンジョンは論外だから・・・とりあえず御影ダンジョンに行くしかないのか。」
「ごめんなさい。」
「怖いのは仕方ないけど、いずれは克服しないとね。」
「は~い。」
しぶしぶという感じで返事をする桜さん、今回のダンジョンもそうだったけど通常のダンジョンでもアンデッド系が出ることがあるのでいつまでも避けて通れるわけじゃない。
どこかのタイミングで覚悟を決めてもらうしかないんだよなぁ。
「それじゃあ今日はこのぐらいにしようか、和人君も疲れているだろうしまた明日だね。」
「おやすみ。」
「おやすみなさい。」
「おやすみなさい皆さん。」
挨拶を終えそれぞれが自室へと戻っていく。
本当は探索道具の手入れや今回のダンジョンについての資料作成、収奪したスキルについてまとめてしまいたいところだけどベッドに倒れこんだところですべてのやる気をなくしてしまった。
明日できる事は明日やればいい。
最低限の武具メンテナンスは終えているんだから今日はそれで許してもらおう。
そのままベッドの中へもぐりこみ静かに目を閉じる。
本当に大変な一日だった。
改めて今日あったことを思い出そうとしたのだがほどなくして夢の世界へと旅立ってしまったのだった。




