208.ダンジョンの中をさまよいました
北淡ダンジョン。
発見されたばかりの難易度不明ダンジョンで、中はこれまでの定石を無視した異質な空間になっていた。
ある程度調査されていた一階層とは違い二階層は未知の空間、それでも何とかやってきた俺達だったがまさかまさか通路が真ん中から真っ二つに分かれるなんて思わないじゃないか。
「二人とも大丈夫?」
「大丈夫だ!」
「アレン!あぁ、本当に良かった。」
「大丈夫だよ姉様、心配しないで。」
向こうとの距離はおよそ5m、流石の月城さんも物理法則には逆らえないのでこの距離を飛び越えることは難しい、俺だってロケットスキルでギリギリ届いたぐらいだ、浮遊スキル的な物がないと厳しいだろう。
其れよりも驚いたのはカレンさんの慌て方、まだあって間もないがこれまで沈着冷静だっただけにあんなに取り乱すなんてよっぽど心配したんだろうなぁ。
とりあえずお互いの無事は確認できたのだが問題はここからだ。
「僕たちはこのまま奥へ向かう、正直先がどうなっているかはわからないけれどとりあえず転送装置までは向かってみるつもりだ。君たちはそのまま来た道を戻りつつ上に向かってくれ。」
「わかりました、どうか姉様をお願い致します。」
「まぁ階段の場所が変わってそっちが下に降りることになるかもしれないけれど君達ならやり遂げると信じてる。新明君、やっぱり君を一緒に連れてきてよかった。」
「それは地上に戻ってから言ってくれ。」
「あはは、それもそうだね。」
「新明様、どうかアレンをお願いします。」
幸い向こうは最強のアタッカーとヒーラーの組み合わせ、こっちもリルを前衛とした比較的バランスのいいパーティーなので大きなけがさえしなければ大丈夫だろう。
俺が小さな怪我をする程度であれば回復スキルでどうにかすることもできるしな。
「そういうわけで来た道を戻るか。アレンさん、つたない前衛だがフォローをよろしく頼む。」
「お二人の力があれば私も安心です、よろしくお願いします。」
「ってことだからリルもよろしくな、怪我はもう大丈夫だから。」
【ヒーリングポットのスキルを使用しました。ストックは後六つです。】
こそっとスキルを発動しておいたので先ほどリルが噛みついた傷はもうなくなっている。
不可抗力の傷だし、最悪腕の一本を無くしても生きていれば何とかなる。
やる気十分のリルを先頭にエコースキルを併用しながらゆっくりと来た道を戻る。
道が分断されただけならこのまま一階層に戻るだけ、クレイジースパイダーもロケットビーも俺達だけで十分対処できるしリオーネクイーンもライガーも一度戦った相手なのでそこまで苦戦することはないだろう。
つまり十分生きて戻ることができるという事、月城さん達の実力なら先に進んでも特に問題はないはずだ。
普段からもっと危険なダンジョンに潜っているわけだし、魔物は強くても所詮はE級?のダンジョン。
何とかなるはずだ。
クレイジースパイダーがでればアレンさんの火の魔法で糸を焼き尽くしロケットビーが出たらリルのブレスで対処する。
俺はアレンさんに敵が近づかないように対処するだけの簡単なお仕事、もちろん前に出て戦いこそすれど二階層の魔物相手にはあまり活躍できないんだよなぁ。
見覚えのある道をゆっくりと戻り、そろそろ上に戻る階段があった場所へと辿りつくはず・・・だったのだが。
「・・・嘘だろ。」
「これは私も想定外です。」
何が起きるかわからないのがこのダンジョン。
地割れだけでも中々の状況なのにまさかまさか階段がまるまる入れ替わるとは思っていなかった。
上に戻るはずの階段が下に降りる階段に代わっている。
本来なら余裕で地上に戻れるはずだったのにこれから未知の第三階層を走破しないと地上に戻れないのか。
いくらリルとアレンさんがいるとはいえ未知のダンジョンを俺達だけで走破できるのだろうか。
それが例え一階層だけだとしても・・・。
「はぁ、このままここに残って階段が戻るのを期待するってこともできるけど、また地割れになってもいやだからなぁ。」
「あれを見せられた以上可能性はゼロではありませんから。」
「となると答えは一つ、月城さんの言葉を借りるならば犯人の分からない推理小説を読み続けるしかないわけだ。」
「ドキドキしますか?」
「いや、勘弁してくれって感じだ。」
「私もです。」
流石のアレンさんも月城さんと同じ考えではないようだ。
残念ながら未知のダンジョンを楽しめるだけの余裕は俺達にはない。
それでも進まなければ生還できないのであればいくしかないだろう。
意を決して階段を降り三階層へ、降り立った先は特に今までと変わらず薄暗い通路が伸びているだけだった。
エコースキルを活用しつつひとまずそこで休憩を取る。
こんなこともあろうかとってわけじゃないが、もしもに備えて各自食糧などは多めに持ち込んでいたので少しずつ進んでいけば何とかなるだろう。
もっとも、さっきのように確認しながら進んだ先がガラッと変わってしまう可能性は否定できないけどな。
「よし、行くか。」
「ワフ!」
「地上に戻ったら・・・いえ、こういうのはよくないんでしたね。」
「らしいな。そういうのはあまり信じないようにしているけど、とりあえず今回は立てないようにしてもらえると助かる。」
「わかりました。」
わざわざ自分からフラグを立てる必要はない、俺達はただダンジョンを走破して地上に戻るだけだ。
再びリルを先頭にエコーを駆使しながら通路の奥へとゆっくりと進んでいく。
アレンさん曰く周りを明るく照らす魔法もあるらしいけどエコースキルがあれば灯り無しでも把握できるのでよっぽどの場合でなければ使わない方が良いだろう。
明るさに魔物が寄ってきても困るし、今の俺では複数の魔物と対峙するのは非常に厳しい。
「鬼が出るか蛇が出るか、もしかして両方か?」
「ここなら十分あり得る話です。ここまで出てきたのが全てCランクですから、サイクロプスやハイオーグル、状態異常系のサーペント種は全てCランクですから出てきますね。」
「うげ、状態異常は勘弁してくれ。」
「姉様がいればどうってことありませんが、今の私達には少々荷が重たい相手です。」
「ということで脳筋系の魔物であることを祈ろう、それなら俺達でもどうにかなる。」
「もしくはアンデッドですかね。」
「あー、アンデッドなぁ・・・。うん、それはパスで。」
痛覚のないあいつらは体が半分になっても襲ってくるので非常にめんどくさい。
とどめも刺しにくいしぶっちゃけ恐怖で逃げてくれる方がこちらとしても助かるのでそういう感じのやつが良いなぁ。
ほら、ジュエルスカラーべとか逃げる系のやつ。
世の中そんなに甘くない、そう頭では理解しているけど少しでも自分の気持ちを前に向けるためにそんな話をつづけながら奥へ奥へと進んでいくのだった。
そして、進むこと数分。
とうとう現れたそいつに二人で顔を見合わせてため息をつく。
そうか、そう来たか。
「リル、地上に戻ったら好きなだけ肉食わせてやるから頑張ろうな。」
「ワフ!」
「僕もできる限り頑張ります。」
「期待してる。」
ここでは全員が力を合わせなければ生き残れない。
虚ろな目でこちらを見つめる複数の魔物。
突如として立ち込める死臭に思わず顔をしかめるのだった。




