207.本当のダンジョンを探索しました
これまでのダンジョンがいかにぬるかったか。
そんな言葉がぴったりな状況に思わず息を呑んでしまう。
灯りは少なく薄暗い通路、どんな魔物が出てくるかもわからず地形も環境も刻一刻と変化していく。
これが出来たてのダンジョン。
そんな不安定かつ危険な状況にも関わらず常に冷静さを保ちながら戦い続ける三人の探索者達。
初見の魔物にも臆することなく突撃できるのは実力があるからか、それともこんな雑魚にはやられないという気概がそうさせるのだろうか。
【恒常スキルを使用しました。エコー、次回使用は10分後です。】
俺に出来るのはエコースキルを使いながら彼らから少し離れたところで魔装銃を構え、ここぞというタイミングだけ攻撃を加えることだけ。
通路型でこそ真価を発揮するエコースキル、薄暗い通路の奥もこれがあるおかげで把握できるので、こうやって戦線の後ろからチクチク攻撃できるというわけだ。
通常のダンジョンでも優秀なのに先がわからない場所では更にその価値を高めている、こんなこともあろうかと準備してきて本当に良かった。
なにより俺にしか効果が分からないので収奪スキルについてバレる心配もないのがありがたい。
「お疲れ様でした。」
「思ったより時間がかかったね。強さはそれほどでもないけどあの糸はなかなか面倒だ、カレンがいてくれて助かったよ。」
「いえ、アレンが糸を燃やしてくれたからこそできたことです。」
クレイジースパイダーとの戦闘を終えた月城さん達が通路の奥から戻ってくる。
鉄よりも固い糸を幾重にも張り、くっつけば剥がすのも難しいなんとも厄介な糸を吐き出すクレイジースパイダー、クレイジーの所以はその凶暴さにも表れていて自分で出した糸をまるで武器のように振り回して攻撃してきたりもする。
そんな攻撃を特に気にする様子もなく懐に入り込んで斬り合う月城さんとそれを補助するカレンさんとアレンさん。
カレンさんが補助魔法を使って月城さんをサポートしつつ、アレンさんが攻撃魔法で糸を除去。
俺なんていらないんじゃないかっていう抜群のコンビネーションで魔物を倒す姿はなんていうか圧巻の一言だった。
彼らの戦いをこんな至近距離で見られるなんてなんて贅沢なんだろう、そんな感想すら覚えてしまう。
悔やむべきはここからじゃスキルを収奪できないこと、とはいえ出てくる魔物が分かれば前にも出られるのでその時に収奪すればいいだろう。
「新明君もナイスアシスト、よくこの距離で当てられるね。」
「あの固い皮を打ち抜けるのはそのアタッチメントのおかげですか、糸を通すかのような繊細な狙撃はお見事でした。」
「まるで糸が見えているみたいでしたね。」
アレンさんの素直な言葉に思わずドキッとしてしまったが、とりあえず笑ってごまかしておいた。
ぶっちゃけエコースキルで糸がどこに張られているかが分かっているからこそできたこと、じゃないとあんな距離を狙撃できるはずがない。
「とりあえずさっきの戦闘でここに出てくるのがクレイジースパイダーとロケットビーなのは確認できたから蜂の時は新明君にも前に出てもらうのでいいかな。ブレスがあれば素早い動きにも対応できると思うから。いけるよね?」
「まぁ、やれるだけやります。」
ロケットビーはその名の通り超高速で飛び回る蜂、厄介なのは常に群れていることで一匹だけ対処するというのが難しい。
スズメぐらいの大きさではあるけれどそれが針をだしながら高速で突っ込んでくるのを避けつつ攻撃するのは中々に大変だろうけど、まぁやれと言われたらやるしかない。
リルを先頭に蜘蛛の糸を払いながらも薄暗いダンジョンの奥へ、エコーがあるので足元が暗くても特に気にならないのがありがたいよな。
途中何度かロケットビーに襲われたけれど、リルのブレスとアレンさんの弾幕でほとんど処理されてしまいぶっちゃけ俺の出る幕がなかったのは内緒だ。
【ロケットビーのスキルを収奪しました。ロケット、ストック上限は後三つです。】
探索中何度か地震のような揺れを感じたけれど魔物に襲われるよりかは怖くない、そんな風に感じていた。
その時までは。
「グルルルル・・・。」
「魔物か?」
「どうだろう、近くに気配はないけどね。」
「確かに。」
急にリルが立ち止まり、唸り声をあげてあたりを見回している。
が、エコースキルに魔物の反応はないし月城さんも何も感じないらしい。
でもリルにはわかる何かが近づいているんだろうけど・・・。
「ん?揺れてる?」
「これは・・・大きい!」
「全員何かにつかまれ!」
突然の地鳴り、そしてダンジョンが何かにかき回されているような横揺れと縦揺れ。
思わずリルにしがみついたけれどその体でさえ振り回されてしまい、視界がうまく定まらない。
おそらくリルが感じたのはこの揺れの前兆だったんだろう。
薄暗い通路に火花のようなものが飛び散りとてつもない音に思わず耳をふさいだ次の瞬間。
「アレン!」
「おま、うそだろ!」
突然通路が二つに裂け、あろうことかアレンさんのいたほうがどんどんと離れていく。
下は真っ赤な溶岩、ではなく真っ黒い壁。
ダンジョンの入り口のような空間が広がっている。
これ、落ちたら絶対にヤバい奴だよな。
そう思いながらもだんだんとアレンさんとの距離が離れていく。
カレンさんが助けに行こうにも揺れに翻弄されて上手く助走がつけられないでいた。
いくらアレンさんがBランク探索者でも魔術師一人でここを歩き回るのはかなりヤバい、このまま元に収まる保証がない中俺ができる事は・・・。
「リル戻れ!」
「新明君!」
「こっちは任せてくれ!」
リルがブレスレットに戻るのを確認してから揺れに翻弄されながらも割れた通路まで走り、ジャンプすると同時にスキルを発動。
【ロケットビーのスキルを使用しました。ストックは後三つです。】
まるで後ろから殴られたかのような衝撃を受けながら体が一気に加速、どんどんと離れていくアレンさんの方へと近づいていく。
だが見る見るうちに速度が落ち始め地面の黒い部分が近づいてきた。
いやいや、あそこは絶対にヤバいって。
慌ててアレンさんの方に手を伸ばすと向こうもそれに気が付いたのかこちらに向かって手を伸ばしてくる。
かろうじて手を掴んだものの、下半身は黒い地面の下へ。
更には俺の体が重いせいか今度はアレンさんまでもがこちらに引っ張られそうになってしまった。
このままでは共倒れ、そう思ったその時だ。
ブレスレットが白く光り飛び出してきたリルが俺の腕を強く噛んで引っ張ってくれた。
牙が軽く突き刺さるも今はそんなこと気にしてられない。
リルとアレンさんに引きずられながら何とか割れた地面から脱出、そのまま二人とも地面に転がりながら割れ目から距離を取った。
「はぁ、マジでやばかった。」
「全く君も無茶をする、この子がいなかったら大変なことになっていた。でもありがとう。」
「礼はリルに言ってくれって、どうしたリル。」
「わふぅ。」
「あぁ、血が出てるって?これぐらい気にするな、リルがいなかったら今頃あそこに落ちてどうなるかわからなかったんだから。」
あのまま落ちていたら死んでいたのか、それともどこかに飛ばされていたのか、そもそもダンジョンのあの壁がどういう構造なのかすら解明されていないので確認するすべすらない。
一つ言えるのは無事では済まなかっただろうという事。
牙が突き刺さり血が出ている部分を申し訳なさそうに舐めるリルの頭をなでてから、向こう側で心配そうにこちらを見る月城さん達に手を振るのだった。




