202.クランの拠点へと招待されました
買い物を終え、桜さん用のゼリーを手に帰宅した俺を待っていたのは一通の手紙だった。
差出人は蒼天の剣代表月城さん。
手紙には宣言通り俺達を支援するために仲間に紹介したいという事と、相談したいことがあると書かれていた。
確かに彼らの後援を受ける事にはなったけれど、これだけの理由で呼び出す理由が分からない。
しかも相談っていったい何をさせるつもりなんだろうか。
「行かれるんですか?」
「まぁ手紙も貰っているし、後援されている以上世間的にも一度ぐらいは顔を出した方がよさそうだしなぁ。」
「それはそうなんですけど、正直なところ和人さんを呼ぶ理由が分かりません。向こうにはB級以上の探索者がたくさんいるのに何をさせたいんでしょうか。」
「それも行けばわかる話だ。さすがに月城さんの名前で呼び出しておいてせこいことはしないだろう。」
「そうかもしれないですけど。」
世間の目をよくするために俺を利用するとハッキリ言う人だけによからぬことを考えてはいないはず、桜さんの言うように俺を呼び出す理由は分からないけど行かない理由にはならない。
「まぁ時間はあるし明日にでも行ってくるよ。」
「すみません私のせいで。」
「いやいや、謝るようなことじゃないし今はゆっくり休むといい。」
「ありがとうございます。」
一週間もすれば本調子に戻るはず、本当はその間に川西ダンジョンを制覇するつもりだったけど先にこちらを終わらせよう。
そんなわけで迎えた翌日、手紙に書かれていたように探索用の装備を身に着けて向かったのは梅田ダンジョンにほど近い一等地に立つ商業ビルだった。
見上げるほどに高いビルの入り口を多くの探索者が出入りしている。
うーむ、場違い感が半端ないけど行くしかないか。
一目で凄い装備だとわかる探索者の横を歩きエントランスにある受付へと向かう。
「すみません、蒼天の剣代表月城さんに呼ばれてきたんですが。」
「招待状のようなものはお持ちですか?」
「これを。」
「・・・確認が取れました、横のエレベーターをお使いになり最上階へご移動ください。」
「ありがとうございます。」
俺みたいな一目で低ランクとわかる探索者にも笑顔を崩さなかった受付嬢だが、流石に本人からの手紙を見た瞬間に二度見されてしまった。
だがすぐに笑顔に戻り中身を確認することなく手紙を返される。
てっきり中身を読まれるのかと思ったんだかそうではないらしい。
そのままエントランスにある巨大なエレベーター前に移動・・・せず、通路奥にある別のエレベーターへ案内された。
「こちらが蒼天の剣への直通エレベーターとなっております、行ってらっしゃいませ。」
「ありがとう。」
まさかの旅団専用エレベーターまであるのか。
探索者と一般人では明らかに力が違うので当然といえば当然なんだが、他の旅団も入っている建物にも関わらず専用かつ直通があることがその実力を物語っている。
高速エレベーターはあっという間に最上階へ到着、扉が開いたその先は大勢の探索者で埋め尽くされていた。
全員の視線が俺へと刺さるもこの間のような怖さはない。
同じ視線でも悪意がないとこれほどまでに違う物なのかと思いつつ気合を入れてエレベーターの外へと出ると人混みが左右に開き、その後ろから見知った顔がやってきた。
相変わらずイケメンだなぁこの人は。
「ようこそ蒼天の剣へ、団員一同歓迎するよ。」
「俺みたいなのにこんな歓迎はいささか不相応では?」
「それは自分を卑下しすぎだよ。城崎ダンジョン・川西ダンジョン共に走破寸前。しかも川西に関しては君とフェンリルだけで走破しているそうじゃないか。ここにいる団員にそれが出来るのかと聞かれると、正直難しいものがあるね。」
「いやいや、流石にそれは・・・。」
「単独、その言葉は君が思っているよりもずっと重い物ものなんだ、よく覚えておくといい。」
月城さんの発言に周りにいた団員の表情が一瞬曇ったようにも見えたがこれ以上突っ込むのはまずそうなので静かにしておこう。
「さぁ、堅苦しい挨拶は抜きにして奥へ行こう。カレン、新明君に飲み物を頼む。」
「もうすぐ・・・いえ、今到着しました。」
「アレン、資料を一部追加してくれないか?」
「もう準備済みです。」
「さすが二人とも仕事が早いね。」
クルリと反転し奥へと歩き出した月城さんの後ろを二人の男女が素早くついていく。
サラサラのブロンズヘアー、男女ともに背が高くまるでモデルのようだ。
そんな二人に魅入っていると月代さんがこちらを振り向きさわやかな笑顔を向ける。
「新明君、こっちだよ。」
「あ、はい。」
「二人の紹介はまた後にしよう。まずはここの紹介から、今後は君も使うことにもなるだろうから少しずつ覚えてくれればいいよ。」
「俺が?」
「前も言ったように蒼天の剣は君達を支援する、それはつまりこの場所を自由に使っても構わないってことさ。出来れば次は大道寺さんや須磨寺君も一緒だと嬉しいね。」
見合いをした桜さんはともかく須磨寺さんの事も知っているのか。
そりゃまぁ独特な感じだし、元はBランクだったわけだから面識がある可能性は高い。
他の団員の視線を感じながら彼らの後ろを追いかけて広いフロアを移動、旅団を運営するにあたり様々な部署が設置され多くの人が働いている。
そのすべてが探索者だっていうんだから驚きだ。
彼らは給料をもらいながら旅団を運営しつつ何かあった場合は戦力として現場に立つらしい。
なので定期的にダンジョンに潜っているし自己鍛錬も怠らない、すべてはダンジョンの平和と治安維持のためにそれが蒼天の剣に所属する探索者の使命なんだとか。
「とまぁ、こんな感じだね。特にトレーニングルームは専属のトレーナーの他、近しい実力者と模擬戦ができるから有効に使うといいよ。もっとも、対人戦だけ磨いても意味がないからダンジョンに潜り続けることは忘れないように。」
「それは確かにあるな、二足歩行はともかくそれ以外の魔物は全くの別物だから。」
「流石、Dランク探索者のセリフじゃない。」
「勘弁してくれ。」
「いやいや、本当にそう思っているんだ。実際多くの魔物と戦っているからこそその怖さを知っている、仲間内で実力を高めたところで泥臭い戦いができない探索者に未来はないんだから。」
トレーニングルームで汗を流す探索者を眺めながらもその視線は全く別の場所を見ているような感じだ。
この人が何を考えているかはわからないけれど一生懸命にトレーニングをしている彼らの方を見ていないのは間違いないだろう。
鍛えることは悪じゃない、だがそれと実践とは違う物なのだといいたいのだろうか。
最後に案内されたのはこじんまりとした会議室。
机の上には資料が並べられ、正面のプロジェクターにはどこかのダンジョンだろうか洞窟っぽい写真が投影されている。
促されるまま奥の席へと座り、正面に月城さんと例の二人が着席した。
「とりあえずお疲れ様、うちの旅団はどうだったかな。」
「どれもすごいしか言えないんだが。」
「ありがとう、でも実際に戦力として数えられるのはこのうちの一割にも満たないのが実情だ。」
「自分の団員を卑下しすぎじゃないか?」
「いや、これは事実さ。君のように貪欲にダンジョンへと潜り実力を高めようとしていない彼らを探索者と呼んでいいのか正直悩んでいるぐらいだ。探索者とはダンジョンに潜り実力を高め魔物を滅ぼす存在。団を率いる僕が言うのもなんだけど彼らにその名を名乗る資格はないよ。」
「・・・。」
「あはは、変なことを言ったね。」
何とも言えない空気になってしまったが月城さんは笑顔を崩さず手元のカップに入れられた飲み物を口に運ぶ。
天下の蒼天の剣、そこで働く彼らをトップがここまで露骨に非難するとは想像していなかった。
俺は今から何を見せられるのだろうか。
何とも言えない不安を感じながらもそれを飲み物で何とか流し込むのだった。




