201.情報を仕入れました
「私も一緒に行きます。」
「ん?でも今日は桜さん達と日用品の買い出しじゃなかったっけ。」
「その予定だったんですけど、桜さんが体調悪くなってしまって。」
「あー・・・なるほど、なら仕方ない。」
今日はダンジョンにも潜らず探索装備なんかも買いに行かない久々の完全オフ、桜さん達は昨日から色々と計画していたようだけどどうやらイレギュラーが発生したらしい。
風邪とかではなさそうなので女性特有の物だろう。
本人は薬を飲んでいればと言っているらしいが出てこれないということはよっぽどの状況なんだろうなぁ。
とはいえ四六時中寄り添っていても仕方がない、須磨寺さんが残ってくれるらしいので何かあっても対処はできるはずだ。
「とはいえ、行くのは川西ギルドだぞ、大丈夫なのか?」
「何がですか?」
「いや、ギルドが嫌になったって聞いたから。」
「あれは城崎ギルドが嫌いだっただけで他のギルドは大丈夫です、それに木之本主任にも何かあったら武庫ギルドに来ていいとお話もいただきましたので。」
「仕事の出来る職員のヘッドハンティング、流石だなぁ。」
実際七扇さんの情報収集能力は素晴らしいものがあるし、てきぱきと仕事をこなす手腕も中々のもの。
一から職員を育てることを考えたら腕のいい職員を引き抜く方が仕事が速い。
通常、いくら同じ探索者ギルドでもギルド間のヘッドハンティングはあまりよろしいとされていないそうだが、今回は事情が事情なので前ギルド長に可愛がられていた仕事の出来ない人は放逐されて仕事の出来る職員はそのまま待遇改善の上残留、もしくはこのように引き抜かれていくんだろう。
そうなると一時的にとはいえギルド運営に支障が出るだろうからしばらくは不安定な状況が続くはず、そういう意味でも復帰したらすぐに走破して混乱が収まる前におさらばする方がよさそうだ。
「でも、それもちょっと考えています。」
「まぁせっかくの機会なんだしゆっくり考えればいいさ。それに職員が一緒だと色々と融通も効いてもらえそうだから今日はよろしく頼む。」
「お任せください!」
そんなわけで今日は七扇さんと一緒に川西ギルドへ、目的は下層の情報収集と例の鎧について。
ダンジョン発生当初から認知されている物なので色々と調査はされているはず、例のオルゴールがつかえるかはわからないけど何かヒントがあるかもしれない。
「新明さん、内部資料の閲覧許可いただけました。」
「マジか、流石ギルド職員。」
「職員だからっていうよりも新明さんだからだと思いますよ。」
「そうなのか?」
「一応ギルド証は提示しましたけど、誰が使うのかを聞かれて名前を出した瞬間でしたから。」
武庫ダンジョンや篠山ダンジョンならともかく川西ダンジョンでも名前が広まっているとは、流石木之本主任のおひざ元。
もしくは蒼天の剣のおかげだろうか。
まぁどちらにせよ資料を読めるのはありがたい、しっかり勉強させてもらうとしよう。
ギルドの会議室を借りて運ばれてきた資料を一つずつチェック、魔物や階層主関係は七扇さんにお任せして俺は例の鎧についての資料を古い物から順番に確認していった。
「はぁ、疲れた。」
「お疲れ様でした。ずいぶん熱心に調べられていましたけど十三階層の鎧が気になるんですか?」
「前にネットで話題になっていたからな、今度現物を見るからちょっと調べたかったんだ。」
「ダンジョン七不思議のひとつ、ですね。」
「七不思議?」
「川西の動かない鎧、札幌の正体不明の祭壇、梅田の増え続けるダンジョン、後なんだったかなともかくいっぱいあるんです。」
七不思議なのに七個以上あるとはこれ如何に、ダンジョンが出来て数十年どれだけ年数が経ってもまだまだ解明できていなことが多いってことか。
二千年以上の歴史から考えたら数十年なんて誤差みたいなもんだからなぁ、今後時間をかけてそういうのが判明していくんだろうけどもしかするとそのうちの一つを解決できるかもしれない。
「面白そうだ今度調べてみよう。」
「ふふ、新明さんってクールな感じがしたんですけど案外子供っぽい所もあるんですね。」
「俺がクール?いやいや、それはない。いや、須磨寺さんと比べたらそうなるのか?」
「あの人は特別ですよね。」
「特別というか特殊というか、でもあのテンションだから助けられているところもあるし元Bランク探索者としての知識や経験も非常にありがたい限りだ。」
七扇さんがこんなに話をしてくれるということは、少なからず嫌われていることはなさそうだな。
元々男性があまり得意ではないらしいけど、今日こうやって一緒に出掛けてくれるあたり少しは信頼してもらえて言うことなんだろう。
因みに調べ物の方はというと、内部資料ということもありネットとは違ってかなり詳しい調査報告を読むことができた。
まずは鎧の精巧な模写、鎧の中央部分には何かしらの文様が彫られているもののそれに該当するようなものは未だ見つかっていないらしい。
鎧自体は接着剤のようなものでくっついているわけではなくそれぞれが微妙に離れていて、まるで見えない力で引きあっているような状態。
何度も引っぺがそうとするも床から剥がすこともパーツごとを取り外すこともできなかったそうだ。
ちなみに各部位にも鎧に合った紋章が彫られていることから同一人物?の物であると推測されている。
名前のような記載はなし、なぜ女性向けなのかも不明。
因みにダンジョン最下層に出てくるのはデュラハンとオルトロス、鎧つながりではあるけれどわざわざこれを装着しなければならないような魔物でもない。
俺の予想だと最下層の魔物が使うんじゃないかとか考えていたけれど残念ながらその予想は外れのようだ。
けれど鎧に書かれていた紋章が例のオルゴールに掘られていたものと一緒だったので関係があることは間違いない。
そんな感じで気づけば昼過ぎ、諸々の調べ物が終わったので家に戻ることになった。
「手伝ってもらってありがとう、よかったらお礼も兼ねて昼を御馳走させてくれ。」
「いえ、私は他所で食べるのでお気持ちだけで。」
「ん?出掛けるのか?」
「その、須磨寺さんが一緒にって誘ってくれたので・・・。」
そういいながらも声はどんどん小さくなり、なんなら顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
あー、うん、聞いちゃいけなかったな。
失敬失敬。
そんな楽しいを奪うわけにもいかないいので出来る男はここで華麗にする―一択。
「なるほど、ということは桜さんも少しマシになったみたいだな、折角のオフなんだしこっちのことは気にしないでいいから楽しんできてくれ。」
「はい!」
鈍感な俺でもわかるこの喜びよう。
人の恋路をとやかく言うつもりはないけれどここまで違いがあると清々しいというかなんというか。
見た目があれなので不思議な感じはするけど中身は男なわけだし組み合わせとしてはおかしくない、おかしくはないんだが・・・いや、これ以上は何も言うまい。
ギルドの前で七扇さんと別れ、その足で俺もぶらぶらと買い物することにした。
ドワナロクはまた今度行くので今日はプライベートな買い物がメイン、とはいえこれまで買い物をしなかった人間なので何を買ったらいいかがすぐに思いつかないっていうね。
結局夕方前には飽きてしまい、桜さんへの見舞いの品を手に早々に家へと引き返すのだった。




