200.机にしまっていたものを思い出しました
「ただいまー!」
まるで自分の家かのように当たり前のように扉を開け中へと入る須磨寺さん。
彼女の部屋もあるし別に問題なといえば問題ないんだが、ほんとマイペースだよなぁ。
「おかえりなさい。」
「お二人ともお疲れ様でした。」
二人の出迎えを受けながら家の中へ、長期間閉め切っていたはずなのに空気は綺麗だし埃が溜まっている様子もない。
この短時間でここまでやるのはかなり大変だっただろう。
「こっちに来てすぐ掃除してもらって悪かったな。」
「いえ、住まわせてもらうわけですしこれぐらい当然です。」
「凛ちゃんものすごく動いてくれたのでとても助かりました。買い物は終わっているのですぐにでもご飯に出来ますけど、どうします?」
「食べる!」
「だってさ、ギルドで風呂は済ませてるし荷物を置いたらすぐにリビングに行くよ。」
城崎ギルドがあんなことになったこともあり、社宅?に戻れなくなった七扇さんは絶賛宿無し。
今までは城崎の宿があったけれど、いつ再開できるかわからないので一時的に解約してこっちに戻ってきたのだが女性陣たっての希望で一緒に来てもらうことになった。
彼女自身もギルドで働き続けるのか悩んでいるみたいだし、いい気分転換になるだろう。
探索者としてやっていくかはまだ分からないけれど、今後を考えるとレンジャーのスキルは喉から手が出るほど欲しい所、それもあって住まわせているわけじゃないけれど一緒に潜れるようになればいいんだけどなぁ。
荷物を置きに自室へ入ると、こっちは掃除されていないからか少し埃っぽいにおいがする。
それでも空気清浄機が動いているところを見ると、これだけ設置して部屋を出ていったようだ。
別にみられて困る物もないので構わないんだが他人の部屋にズケズケと出入りする人よりかは信頼できるよな。
探索道具の入ったカバンを床に置きそのままベッドへダイブする。
前はボロアパートのせんべい布団、今はふかふかのマットレス付きベッド。
一年も経たずこんなに環境が変わるなんておもいもしなかったなぁ。
「和人く~ん、まだー?」
「ん!?今行くからちょっと待ってくれ。」
ヤバい、ダイブしただけでそのまま寝落ちしそうになっていた。
そこまで疲れたつもりはなかったんだけど案外そうでもなかったらしい。
慌てて体を起こして部屋着に着替えてリビングへ、どうやら今日の夕食はすき焼きらしい。
いや、なんですき焼き?
「すき焼きだなんて何かいいことあったのか?」
「え?」
「いや、これを食べるときってお祝か何かの時だろ?もしくは正月とか。」
「・・・和人君、すき焼きは好きな時に食べていいんだよ?」
「つまりその考えは俺だけだと?」
「そう、なりますね。」
マジか。
別に家が貧乏だったとかそういうわけじゃないけれど、すき焼きなんて一年の間にそう出てくるものじゃないしさっきも言ったように縁起物的な感じだったんだが・・・世間的には違うのか。
「まぁまぁ、ある意味凛ちゃんが来てくれたお祝いということで。」
「なるほど!桜ちゃん賢い!」
「皆さんどうぞよろしくお願いします。」
「・・・雑なフォローありがとな。」
フォローしてもらうのが申し訳ない気分になってきたがすき焼きに罪はないので美味しくいただくとしよう。
いつにもなくテンションの高い須磨寺さんが乾杯の音頭を取り、久方ぶりの我が家で食事を摂る。
さすが大道寺グループの社長令嬢、用意された食材はどれも素晴らしい物ばかりで肉は口の中で溶けるし野菜はどれも新鮮でおいしかった。
たけのこを入れるのには少し驚いたけど、これはこれで美味いもんだ。
「んー、フレイムカウのお肉ってこんなにとろとろなんだ。また潜ったらいっぱい狩らなきゃね!」
「でもドロップする部位っていつも一緒だよな?」
「実はそうでもないらしいですよ。」
「そうなのか?」
「さすがにタンやモツ系はドロップしませんけど、部位はハラミだったりロースだったり毎回違うらしいです。因みに今回のはおそらく肩ロース付近ですね。」
肉の塊でドロップするので全部一緒だと思っていたけれどどうやらそういうわけじゃないらしい。
どこをどう見て肩ロースと判断するのかは謎だが、もしかしたら鑑定するとわかるのかもしれない。
その為だけに鑑定道具を使うのはもったいないけれど、自前で鑑定スキルを持っている人もいるのでもしかすると収奪する日も来るかもしれない。
もっとも、そんな魔物がいるかどうかは知らないけど。
「は~、食った食った。」
「お粗末様でした。片づけは私たちがしますので和人さんたちはゆっくり休んでください。」
「あ!私も手伝います!」
「じゃあ凛ちゃんは残った食材をしまってください。」
はちきれんばかりに肉を食ったせいで動くのも苦しいが、いつまでもそこにいると邪魔になるのでフラフラと自室へと戻り再びベッドへ倒れこむ。
食べてすぐ横になるのはよくないというのでとりあえずもそもそと上半身を起こして壁に背中を預ける。
「あー苦しい。」
調子に乗ってあんなに食べるんじゃなかったと後悔しつつ、とりあえず胃が落ち着くのを静かに待つ。
今までは当たり前のように過ごしていた空間だけど、少し離れると違和感があるんだよなぁ。
普段使ってた机すら上にあんなものを置いていたかよく思い出せない。
中には探索で持ち帰った素材とかを入れていたと思うんだけど・・・。
その時だ、ふと川西ダンジョンで見つけたブツを思い出した。
階層主を倒した後、足元を掘り返すという前代未聞のことをやることによって発見した二つの道具。
気合で体を起こして机まで移動、備え付けの引き出しの奥を探ると変わらずにブツがそこにあった。
取り出したのは古びた箱と一本の棒、箱の隅には穴が開いており棒を差し込んで回すことができる。
どこからどう見てもオルゴール、だが回しても残念ながら音は出ないんだよなぁ。
なぜこんなものが階層主の下からこんなものが出てくるんだろうか、普通に考えれば何かに使うんだろうけどその何かが分からない。
音を聞かせるのかはたまたどこかに差し込むのか。
「まさか、例の鎧に使うとか?」
そこで思いついたのが、十三階層にあるという謎の鎧。
これまで何人もが鎧を外そうと試みたけれど誰も動かすことすらできなかったという不思議な存在。
物理でも魔法でもどうにもできなかったこともあり特別な何かが必要なのではないか、そんな噂もあったようだけどその特別な品がこのオルゴールじゃないだろうか。
誰にも見つけられていないし、階層主の下から出てきたってのもポイントが高い。
「とりあえず次潜るときは持って行ってみるか。」
もしかするともしかするかもしれないし、これまでの流れからすると十五階層で階層主を倒した下からさらに何かが出てくるかもしれない。
それと合わせて新しい使い方が発見できるかもしれない。
一つ言えるのは川西ダンジョンの噂の鎧、あれをどうにかできる可能性があるということだ。
その為の道具を俺は持っている。
ここに戻ってくるまですっかり忘れていたけれど、もしかすると収奪スキルに次ぐ大発見になるかもしれない。
「さて、その為にも探索道具を片付けますか。」
腹は苦しいが動いていたらそれも収まるだろう。
これもダンジョンに潜るため、こんなに楽しみなのはいったいいつぶりだろうか。




