189.地上は大変なことになっていました
偶然とはいえ広範囲の物理攻撃手段を手にしたおかげで、何とか群れをやり過ごし大量の素材を手にすることができた。
流石に肝を冷やしたが、あの量の魔物を相手に少々の怪我で済んだのが奇跡。
不用意に近づいたことで出来た火傷は回復(小)で治療済み、これで桜さん達も回復できればよかったんだけど残念ながらそこまで融通の利くスキルではない。
「はぁ、疲れた。」
「まさかあれだけの魔物に襲われて疲れたの一言で終わらせられる事はまずないと思うけど。」
「これも和人さんとリルちゃんが合体技を使ってくれたおかげですね。」
「合体って・・・でもまぁそうか。」
個人的には合わせ技だと思ったんだが言っていることは同じ、でもなんだかちょっと違うんだよなぁ。
もっとこうかっこいい言い方を考えてしまうのが男という生き物、連携技?必殺技?
まぁいいか。
「結局あいつらはなんであんなに群れていたんだ?」
「明らかにおかしな数だったし誰かを追いかけていったんじゃないかな。食べられたか、はたまた階段に逃げ込めたか。稀にMPK目的でトレインする人もいるけど、わざわざこんな場所でっていう気もするしね。」
「えむ?」
「モンスタープレイヤーキル。ゲームの用語だったんだけど、意図的に魔物を使って人を殺す行為のことだよ。ダンジョン内はある意味治外法権だしバレなきゃ大丈夫って考える人もそれなりにいるんだ。魔物より怖いのは人間、それは覚えておきなよ。」
「それはもう経験済みだ。」
最初に潜った武庫ダンジョンでその辺の怖さは経験済み、魔物を使ったっていうのは未経験だけど十分あり得る話だ。
本来であれば協力し合わなければならない探索者、だが意思疎通できない魔物を使って完全犯罪的なことが行われているのは様々な媒体で取り上げられている。
もちろんそんなことが起きないようにギルドをはじめとした機関が存在するわけだけど、そこを運営するのもまた人間なんだよなぁ。
城崎ギルドみたいな人もいるわけだし、叩けばそれ系の悪さをしている可能性もゼロじゃない。
「それなら安心だね。」
「なんでみなさん助け合わないんでしょう。」
「それはなんで戦争が無くならないんだろうと同じ質問だよ桜ちゃん。」
「でもダンジョンですよ?魔物に世界が滅ぼされかけたのに・・・。」
「世の中桜ちゃんみたいな子ばかりだったらいいのにねぇ。」
色々知ってそうな須磨寺さんがなんとも優しい目で桜さんを見る。
俺もそうだが世の中いい人間ばかりじゃない、この辺は永遠の課題ってやつだな。
小休止しながらそこらに散らばった素材を回収し、肉は耐熱スキルをかけたクーラーボックスの中へ。
これでどのぐらい持つかはわからないけれど、鮮度よく持ち帰れば買取価格も上がるだけに期待している。
「あ!階段ですよ!」
「やれやれやっとついた。」
「この足跡、やっぱり誰かが逃げ込んだって感じだねぇ。」
階段前にはいくつも足跡が重なり、人の足跡を獣達が踏み荒らした形跡もある。
階段の向こうにつながっているということは逃げ切れたということ、全く知らない人なのに助かったと思うと何だか嬉しくなってしまう。
この先には転送装置があるはず、今頃ギルドで休んでいることだろう。
「戻る?」
「むしろ戻らないという選択肢がないんだが。」
「あはは、そうだよね。」
「やり残したことがあるんですか?」
「せっかくここまできたのに鉱石が見つからなかったなーって思ってさ。」
「そういうのはまた今度でよろしく、あの状況でそっちにまで気が回るほど俺たちに余裕はないんだ。」
彼からすればD級ダンジョンはまだまだ序の口、だが俺たちからすればかなりいっぱいいっぱいな感じがある。
今回の群れを倒したことでレベルが上がった感じはあるけれど、それでも梅田ダンジョンの適正かと聞かれたらまだまだ足りない。
経験もレベルも足りない俺たちにできるのは実直に鍛え続けることだけだ。
そんなわけで見つけた階段を降りて十三階層へ。
到着した途端、ジリジリと焼けるような熱に思わず顔を顰めてしまった。
まるでオーブンの中みたいだ。
「よし、さっさと帰ろう。」
「だね。」
「はぁ、今度はこの中を探索するんですね。」
あまりにも辛い現実に打ちひしがれながら転送装置で地上へと戻ったのだった。
地上に戻りひんやりと涼しい洞窟に癒されながら外にでてギルドへと向かった俺たちだが、なにやら朝と様子がおかしい。
入り口前には規制線が敷かれ中に入れないようになっている。
心当たりといえば朝に七扇さんが不在にしていた事ぐらいだが、まさかそれ関係だろうか。
ギルドの周りには俺たちと同じく中に入れない探索者で溢れかえっている。
何人か職員に詰め寄っている感じはあるけれどあまり効果はないようだ。
「何かあったのか?」
「ガサ入れだよ。」
「ガサ入れ?」
「なんでもどこぞの金持ちに便宜を図ってギルドに不利益を与えたっていう話らしい。前々からよくない話を聞いてたけど、やっぱりな。」
とりあえず近くにいた探索者に話を聞くとなんともきな臭い返事が帰ってきた。
ガサ入れ、なるほどだから七扇さんが呼ばれていたのか。
「俺はパワハラだって聞いたぞ。」
「えー、私はセクハラだって聞いたけど。あのギルド長露骨に胸をガン見してくるんだもん捕まって当然よ。」
「あれだろ、自分のお気に入りの子は給料も優遇してその代わりに食ってたって話だろ?羨ましい話だぜ。」
「それを羨ましいって思う所が最低よね、これだから男は。」
「まぁまぁそう怒るなって。」
一人に話を聞いたはずが気付けば周りにいた他の探索者が話に混じってくる。
どれもギルド長の不正についてで俺も知らなかった話がいくつも出てきた。
パワハラ・セクハラ・モラハラ・マタハラ・収賄・横領・賄賂・ギルドの私的利用などなど叩けば叩くほどホコリが出てくる。
よくまぁそれだけ悪いことができるなと感心してしないぐらいだ。
というかなんで今までガサ入れが入らなかったんだ?と疑問に思いぐらいなんだが、その辺も色々と手を回して逃れてきたんだろう。
もちろんそこには俺も含まれていて、なんとかして懐柔してやろうと七扇さんを生贄に差し出したのが運の尽き。
色々と手を回そうと画策した内容は全て七扇さんを通じて俺へともたらされ、そこから木之本主任へと伝達された。
とはいえ向こうも中々の策士、証拠となるようなものはすぐには見つからなかったんだけど、七扇さんの執念に近い活動と岡本さんの助力もありこの状況に至ったわけだ。
向こうもまさか俺が兵庫探索者連盟のお偉いさんと繋がっているとは思わなかっただろうなぁ。
「やっと動いたって感じだね。」
「だな、いつガサ入れするかは情報漏洩しないために伏せていたんだろう。朝の時点で変な感じはあったんだがやっぱりか。」
「できれば買取とかの手続きが終わってからだとありがたかったんですけど、今日はもう難しそうですね。」
「こればっかりは仕方ない、買取はまたにして今日はもう宿に戻るとする・・・。」
諦めて帰ろうとしたその時だ。
一人の職員が規制線を潜り一直線にこちらへと近づいてくる。
「新明さんですね。」
「そうだが?」
「お伺いしたいことがいくつかありますのでご同行いただけますか?」
「俺が?ダンジョンから戻ってきたばかりで疲れているんだが。」
「お疲れのところ申し訳ありませんが、同行いただけない場合はしかるべき方法をとることになります。お連れ様もどうか賢明な判断を。」
つまり断ったら容赦しないぞっていう脅しか。
今回の件については俺が情報を流したおかげだというのになんたる仕打ち。
やれやれまだ帰れそうにないらしい。




