182.想像以上の報酬を手に入れました
「「「「お疲れ様でした!」」」」
「気をつけて帰れよ。」
若者四人組は多額の報酬を手にスキップするかのように探索者ギルドを出ていった。
通常の護衛報酬の他に成功報酬を上乗せしてもらっているんだから当然だろう。
若者らしくパーっと使うのか、それとも堅実に貯金や装備の新調に回すのかは知らないけど、まぁ元気でやっているのなら何よりだ。
俺もさっさと報酬を貰ってトンズラしよう。
視線を感じて横を見ると、チャイナ美女が目をキラキラさせながらこっちを見つめてくる。
色々含みのありそうな目線、面倒な相手とは関わらないのが一番だ。
「新明様お帰りなさい。」
「無事依頼は完了した。」
「そのようですね、それでは李様よりお預かりしました報酬をお渡ししますのでライセンスカードをお出しください。」
「わかっ・・・。」
「ちょっと待つアル!」
横で待機していた李さんがライセンスカードを出した俺の手に自分の手を重ねてくる。
見た目以上に冷たい手、まるで氷を乗せられたような冷たさだ。
「どうかされましたか?」
「この人にも追加報酬を支払いたいアルよ。」
「それは構いませんが・・・、現金は手数料取りますよ?」
「ギルドとは対等な関係を築きたいアル。でも今回はここから追加分を移して欲しいネ。」
人差し指と中指で挟んだライセンスカードをスマートに差し出す姿はまるで映画のよう、俺がやってもカッコつけてるだけだが、美人がやると絵になるなぁ。
「ライセンスカード同士の移行には手数料はいただいておりません。おいくらにしますか?」
「100万お願いするアル。」
「は?」
まるで慣れたコンビニでタバコを買うかのようなスムーズさ、だが内容はかなりヘビーだ。
追加報酬が三桁とか、この人大丈夫か?
「100万円ですね、畏まりました。」
「いやいやいや、ちょっと待ってくれ。多すぎだろ。」
「本当はもっと払いたいアルよ。でも追加報酬は通常報酬の10倍までと決まってるから仕方ないネ。」
「昔色々ありましてこういう規定になっているんです。」
「悪いことした人がいるから仕方ないアル。」
いや、何当たり前みたいな話してるんだよ。
三桁だぞ?
10倍しかってなんだよしかって。
できたらもっと払ってたってことか?
そりゃジュエルスカラーべは珍しい魔物だけど決して捕まえられないわけじゃないし、そんなのでこれだけ出してたらあっという間に破産だ。
「依頼主からの正式な申し出ですから。はい、完了しました。」
「マジか。」
「私の夢がまた一つ叶ったアル、でも目的の物が出なかったからまた次も頼みたいネ。次はもっと渡せるようにするから楽しみにしておくアルよ。」
「・・・大丈夫なのか?」
ライセンスカードを使っているわけだしギルドも身元は把握しているだろう。
とはいえあまりにも怪しい見た目と行動に、思わず本人を前にして小声で七扇さんに聞いてしまう。
「この方なら問題ないと思います。お呼び出しした後知ったんですけど探索者なら誰でも知っているような大企業の社長さんらしくて、お金はいくらでもある感じです。」
「それって特定の探索者に利益をどうのっていうのに抵触しないのか?」
「特定、ではないので。」
「誰にでもこんな感じなのか。」
ダンジョンができて数十年、その間に様々な企業が淘汰され、新しい企業がどんどんと成長していった。
その環境に適応できるかが成長の糧だとどこかの偉い社長がテレビで言っていた気がするけど、怪しすぎるこの美女もそのうちの一人ということか。
人は見かけによらないもんだなぁ。
「次回があればその時はよろしく頼む。」
「もう帰るアルか?」
「そのつもりだ。」
「ちょうどいいアル、美味しいお店を知っているから一緒に行くアルよ。」
「いや、一緒に行くって・・・。」
彼女はさも当たり前のように俺の左腕に手を絡めると、そのまま豊満な胸を押し付けるように抱きついてくる。
生地の割に中々ダイレクトな柔らかさ、これはもしや着けてない?
いやいや、いくら身分がしっかりしているとはいえいかにも怪しげなこの人に連れて行かれるのはマズい、非常にマズい。
食われたら最後、骨になるまで使われるそんな気がする。
だが俺の男としての下心が無理やり手を抜くのを躊躇ってしまい・・・。
「新明様、大道寺様がダンジョンから戻られたら至急宿に戻って欲しいと仰っておりましたよ。」
「お!そりゃ大変だ。悪いがそういうことだから食事はまたの機会に。」
「ふふ、約束アルよ。」
七扇さんの声にはっと我に帰った俺は柔らかな膨らみからするりと腕を引き抜いた。
それと同時にパッと体を離すチャイナ美女。
はぁ、助かった。
「それじゃあ。」
「お疲れ様でした。」
目配せでお礼をして急ぎギルドを後にする。
やれやれ、助かった。
途中で素材を買取に出していないことに気がついたけど今更戻る気もないので、また明日にでも出せばいいだろう。
とにかく今はこの場から離れなければ。
駐車場へ向かうと俺を見つけた鈴木さんがすぐにドアを開けてくれた。
「新明様お疲れ様でした。」
「鈴木さん!早く出してください!」
「おや?査定品も買取していないようですが・・・、いえ、分かりました。」
何かを察した鈴木さんがすぐに運転席へ移動しバスを発進させる。
やれやれ、やっとこれで一息つける。
飛んだ依頼を受けてしまったが報酬は申し分なかったし、これだけあれば十一階層以降の探索道具を買うこともできる。
この分だと予定よりも早くダンジョンに挑戦できそうだ。
「なにかありましたか?」
「まぁ、色々と。」
「お疲れ様です、そちらの持ち帰った素材はいかがされますか?」
「ドワナロクで買い取りやってましたよね?」
「ギルドよりは少し安い価格になりますが、二割増しも適用できますのでそこまでの差は無いかと。」
「ならこのままドワナロクにお願いします。素材の買取をしている間に耐熱装備も確認したいので。」
「かしこまりました。」
明らかに何かあったはずなのにそれには言及せず、静かにバスを走らせる鈴木さん。
いや、マジで色々ありすぎて自分でも頭の整理が追い付いていない。
そもそもあのチャイナ美人は何者なのか。
超高額のマジックバッグを持ち、あのハンマーを振り回せるだけの力があり、ライセンスから見てもやはり俺の上。
ということは護衛なんて必要なくても一人で目的地までくることができたはずなのに、まるでお金をばらまくためにわざわざ依頼を作っているような感じもあった。
もちろんジュエルスカラーべを倒すのが目的だったんだろうけど、そこに至るまでに無駄なものが多い気がする。
依頼主の正体についてはギルドも守秘義務があるはずなので七扇さんに聞くわけにもいかないし、確か探索者向けの商売をしているっていう話だったので桜さんに聞けばわかるかもしれない。
それもとりあえずはドワナロクに行ってから。
ものすごく疲れているわけではないけれど、ここちよい揺れに気づけば眠りについてしまった。




